(1-7)
腰が引けてた洟垂れ子分どもまでが俺を見て笑い出す。
「おまえなんだよ。変な格好しやがって」
――あ、そうだ。
俺はこの時代の人間には珍しい洋服を着ているんだった。
「いかにも、俺は南蛮から来た者だ。俺は織田信長公に招待されて会いに行くところだ。おまえらが俺に危害を加えようというのなら、それは織田殿へ対する反逆とみなされるが、それでもいいのか」
もちろん転生したばかりで、招待なんてただのハッタリだ。
だが、言ってみるだけの価値はあったようだ。
ズルッと垂れた鼻水を拭った手で二人が両脇から熊男の腕を引いた。
「なあ、兄ぃまずいよ。お殿様に逆らったら、村ごとやられちまうよ。おっかさんも妹たちもみなごろしだ」
「うちも親父が去年の戦で死んじまって、おいらまで罰せられたら小さな弟が飢え死にしちまうよ」
「今さらうるせえよ」と、熊男が弱気な子分どもを振り払って俺と間合いを詰めた。「おい、俺はそっちの女に用があるんだ。あんたに危害を加えるつもりはねえから、何も見なかったことにしてさっさと行ってくれよ」
「いや、この人をひどい目に遭わせるわけにはいかない」
なんて言ってみたものの、喧嘩なんかしたことないし、野良犬を追い払うのだって必死だったんだ。
そもそも俺は腕力で勝てるようなスポーツマンでもない。
おまけに音痴だし、絵も下手だし、学校の成績だって平均レベルだったさ。
俺が活躍できるのは『信長のアレ』しかなかったんだ。
――ああ、なんか悲しくなってきたぞ。
こうなりゃ、最後の手段だ。
窮鼠猫を噛む。
野良犬相手と同じように、俺は河原の石を拾い上げると、ぶんぶんと腕を振り回して威嚇した。
「おまえら、あっちへ行け!」
「うおっ、危ねえ」
振り回した手が滑って石が飛び、運良く熊男の脚に命中する。
「ぐふぉっ」
うめきながらうずくまる熊男に洟垂れ男どもが駆け寄った。
「兄ぃ、大丈夫っすか」
「こいつ、許しちゃおけねえ」と、立ち上がろうとするが、痛みでひっくり返ってしまう。
俺はなりふり構わず、つかめるだけたくさんの石を拾い上げ、両手を挙げて威嚇した。
右側の男が鼻をすすりながら耳打ちするのが聞こえた。
「兄ぃ、脅かすだけって約束だったじゃねえですか。本気じゃねえんですから、ここは引きましょうぜ。これじゃあ、もらった銭だけじゃ割に合わないっすよ」
「チッ」と舌打ちをすると、熊男は「おぼえてやがれよ」と足を引きずりながら去っていった。
と、その瞬間、俺の頭の中にオーケストラによる荘厳な音楽が流れ始め、浮かぶように輝くウィンドウが表れた。
《ステイタス更新》
――ん?
《転生者:統率5、武勇6、知略95、政治5》
武勇が1だけ上がったらしい。
まあ、変わらないよりましか。
さっきの野犬とあわせてのレベルアップかもしれない。
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