(5-7)
忠次は縁側の方へ顔を向け、控えていた従者に目で合図した。
縁側にこざっぱりとした着物を着た若者が現れる。
髪も結い直してすっかり武士の姿になった六太郎だ。
「本多殿、平八郎のことであるが、率直に申して、この者を跡継ぎとして迎え入れてもらいたいのだ」
「ううむ……」と、黙り込んだ忠真は腕を組み、しばらく考え込んでから偽の本多忠勝をにらみつけた。「その方、本当の名は何と申す」
「六太郎です」と、声を震わせながら元農民が廊下に手をつき頭を下げた。
「ふん」と、鼻を鳴らす。「平八に二つ足りぬは六太郎、か。二年もすればものになるかのう」
「おっ……叔父上、よろしくお願いいたします」
「その方に言っておく。決して命を粗末にするでないぞ。臆病者ほど虚勢を張る。前に出るだけが侍ではない。退くことを恥とせぬよう心せよ。良いな」
「はい、肝に銘じます」
神妙な六太郎の返事に忠真は口をゆがめて首を振った。
「この世に生まれ申したことがこれほど不憫なこととは思いもせなんだ。飲まずにはおられんわい」
酒井忠次が声を震わせながら頭を下げた。
「本多殿の心中、この忠次深くお察し申し上げる。だが、こらえてくだされ」
「ご心配めさるな。我が本多一族の忠義はつねに松平の御家と共にございまする」
言葉とは裏腹に奥歯を食いしばり、白くなるほど拳を握りしめている。
と、ここで脳内モニターに画面がポップアップした。
《戦国時代の武家では、血筋よりも家の存続という実質が重要視されたため、養子をもらい『他人』に家名を継がせることは普通のことでした。現代の価値観とは異なりますが、このようにして続いた武家の方がむしろ多いくらいです》
でも、これは養子縁組とは違うよな。
死んでしまった人間の偽物を用意して生きていることにする出鱈目なんだからな。
だけど本多忠真としてはどんなに辛くても、『家』というこの時代に一番大事な拠り所を守るためにすべて飲み込もうということなんだろう。
こうなったのも俺の責任なんだろうか。
俺が史実を変えてしまったから本多忠勝は討ち死にしたんだろうか。
いや、俺はただ桶狭間に今川義元が来ると織田信長に教えただけだ。
それは史実と変わらない情報だ。
織田信長の家来が見つけて知らせ桶狭間で奇襲をしかけるか、それとも俺が予告したか、ただそれだけの違いだ。
問題なのは、そこにいたのが今川ではなく松平の軍勢だったという違いだ。
でもその原因はデイブの裏切りであって、俺の情報のせいではない。
――だよな。
あえて俺の責任と名乗り出る必要はないよな。
討ち取ったのが俺だという事実以上の二重の責任なんて取りようがないんだからな。
逆に俺だって、本多忠勝に討ち取られていたかもしれないんだ。
弱肉強食の戦国時代。
下克上の世。
俺じゃない誰かにやられていたかもしれないんだ。
卑怯かもしれないが、正直に申し出たところで得をすることもない。
この時代に合わせた行動と発言が正解としか言いようがないんだろう。
郷に入れば郷に従えだ。
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