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「俺じゃない。清洲城で会ったデイブ・スミッシーが黒幕だ。桶狭間の神社であいつが馬に乗って東の方から来ただろう。あいつが今川に知らせたんだ」
「なるほど、南蛮人か。だが、あいつはお館様と取引をしている商人だぞ。裏切る意味がなかろう」
「今川とだって取引をしていたかもしれないだろ」
「必死よのう」と、藤吉郎がニヤける。「他人に罪をなすりつけて言い逃れをするつもりか。見苦しいぞ」
「じゃあ、なぜ生かしておく」
殺されたくはないが、中途半端な状態も気になる。
「そもそもおぬしをお館様に引き合わせたのはわしだからな。わしに裏切りの責めを負わせられたら困るのだ。おぬしを生かしたままお館様に差し出した方がわしの身の潔白も証すことができるというものじゃろう。お館様の拷問を楽しみにしておれ」
出会ったときから寝取られロリ野郎の最低の男だと思っていたが、ここまでひどい計算をしているとは本当に動物園の猿を見ているようだった。
「おぬしらは織田方の者か」と、本多忠真が俺たちを睨んでいた。「拙者は松平家臣本多忠真と申す」
「ああ、わしは織田家中の木下藤吉郎だ」
「拙者は前田利家と申す」
「おぬしらの話を聞いたが、わしが聞いたのと同じようじゃな。昨夜のうちに義元公に織田の軍勢の動きを知らせた者がおって、早朝に沓掛城を去ったと大高城に知らせがあったそうだ。鳴海城の我らに知らせがもたらされたときは織田方に囲まれ孤立無援、もはや手の打ちようがなかった」
「その南蛮人は金髪であったか?」
藤吉郎の問いかけに忠真は無念そうに首を振るばかりだった。
「拙者は直接見てはおらぬゆえ、なんとも申し上げようがござらん」
「松平の御家中で、義元公のそばにいた者はいませんか」と俺は横からたずねた。
「我々は先鋒として大高城や鳴海城に入っていたので、昨夜は沓掛城に松平の者は一人もおらんかったであろうな」
――参ったな。
証人がいないんでは、説得しようがない。
藤吉郎が意味ありげに笑みを浮かべながらたずねた。
「本多殿は本多忠勝とはご親戚かな」
「おお、まさしく平八郎はわしの甥じゃ。兄の忠高が戦で討ち死にし、幼少の頃に引き取って育てたのがわしだ」
「その忠勝だが、桶狭間で討ち死にしたぞ」
「なんと……」
絶句した忠真に、藤吉郎がシャツを引っ張って俺を突き出した。
「殺したのはこいつだ」
「きさま!」と、刀に手をかけ立ち上がる。「大高城への兵糧入れで初陣を飾り、ようやく兄への恩返しができたかと喜んでおったのに。なんという……」
本多忠真は刀を抜かなかった。
怒りのやり場を見つけられずに拳を握りしめながら床に座り込むと、忠真はその拳を目にあてて人目もはばからず泣いていた。
「平八郎はわしのような飲んべえを諭すような賢い子じゃった。祖父も父も松平のために命を捧げたことを誇りに思い、後を継ぐのだと申しておったが、根が優しすぎたのであろうな。寝小便も最近までなおらんかったが、初陣が決まってからはぐっと男らしゅうなっておったのに」
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