第5章 誤算の真相(5-1)
脳内モニターが明るく光る。
《緊急配信》
――ん?
なんだ?
画面の片隅に『LIVE』と表示された動画が流れ始める。
雨が降りしきる丹下砦だ。
どうやら、離れた場所の様子を中継してくれる機能が発動したらしい。
簡素な屋敷の周囲に織田木瓜の家紋が描かれた陣幕が張られ、将几が置かれた板張りの広間に、黒マントの織田信長を中心に武将たちが並んでいる。
桶狭間で松平勢を駆逐した信長は雷雨を逃れて丹下砦まで兵を引いたらしい。
と、そこへ伝令が到着した。
「大高城に見捨てられた鳴海城が開城を申し入れて参りました」
鳴海城は大高城よりも清洲城に近いところにある今川の最前線基地だ。
丹下砦は善照寺砦などと共に、それを囲むように築かれていた織田方の監視拠点の一つにあたる。
「鳴海城の大将は今川家臣の岡部元信であったか」
「いえ、それが、岡部殿はすでに昨夜のうちに城を去り、松平家の本多忠真殿が使者として参っております」
「なるほど、通せ」
伝令と入れ替わりに通されたのは憔悴顔の小男だった。
「鳴海城代、本多忠真でござる。単刀直入に申し上げる。鳴海城を明け渡すゆえ、城兵どもの命を保証してくだされ」
「なるほど。だが、今川への申し開きはどうするつもりじゃ」
「我らは松平の家臣でございまする。我らを捨てた今川に義理立てすることはございません。すでに城内の兵も松平の者しか残っておりませぬ」
「あい分かった」と、信長はうなずいた。「良かろう。抵抗せず鳴海城を明け渡すのであれば、城内の者はすべて三河へ帰参することを認める」
「これは寛大なご判断。誠にかたじけない」
「して、その方にたずねる。今川の軍勢は大高城へ入るはずではなかったのか」
「はい。我ら松平勢も先鋒をおおせつかり、若殿が大高城へ兵糧を運び入れましたが、昨夜遅く、今川の本陣に内通者が来訪したとの話を聞いております」
「なに、我が織田家の動きを伝えた者がいるというのか」
「はい、なんでも、南蛮人だそうで、織田方がオッケー狭間なる場所で奇襲を仕掛けると忠告したそうでございます。それにより義元公は沓掛城を去り、鳴海城の岡部殿にもその一報が届くと、我らに守備を任せ昨夜のうちに今川の兵はみな退去したのでございます。取り残された我らは大高城に孤立した若殿へ早馬をやり、織田方が攻めてきた場合は、殿として城を枕に討ち死にする覚悟でございました」
「ううむ」と、信長は顎髭に手をやってしばし考え込んでいた。「なるほど、そうであったか。本多殿の忠義と御覚悟、この信長も感服つかまつった。我らは追わぬゆえ、早々に安心して故郷へ帰られるがよい」
「このたびのご処置、心より感謝いたしまする。では、我らはこれにて三河へ退去いたします」
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