(4-17)
だが、俺の思惑など知りもしない藤吉郎は、利家と一緒に松平家筆頭家老を押さえ込んでいた。
「又左よ、そいつは、おまえの手柄にしろ」
藤吉郎に言われるまでもなく、利家は忠次に脇差しをあてがい、今まさに首を切ろうとしている。
「待て!」
俺は駆け寄って止めた。
「なんじゃ、手柄を横取りする気か」と、藤吉郎が横から口を挟む。
「違う、そうじゃない」
「どうせへっぴり腰のおぬしでは無理であろう。又左に任せておけ」
「待ってくれ。冷静に考えろ。そいつは人質にするんだ」
利家の手が止まる。
「なにゆえだ?」
雨脚はさらに強まりもはや滝の中だ。
雷鳴もさらに近づき、すぐ近くの大木が割れて炎上し、雨に打たれながらも火勢は衰えない。
「この豪雨では、今から丹下砦へ戻るのは無理だ。沓掛城へ入って、松平の兵を支配下に置くんだ」
「何を言っておる。そんなことができるわけもなかろう。お館様のもとへ大将首を持参して褒美をもらうのがいいに決まっておる」
「大将首に敵の城なら、なおさら出世できるだろう。ただ、大将が討ち取られたからと言って、残兵がおとなしく従うわけでもない。だから城内の兵を説得できる武将が必要なんだ」
利家に押さえつけられた酒井忠次が顔を上げる。
「わしは都合良くおぬしらの言いなりになどならんぞ。殿に殉じて潔く死なせてくれ」
「このままおとなしく今川に乗っ取られてもいいんですか。いや、乗っ取るどころか、すべてを奪い取られて松平などなかったことにされますよ。これまで都合よく利用してきたのは今川の方だったんじゃないんですか。このままだと先祖代々守り抜いてきた三河を好き勝手に切り取られるっていうのに、義理立てする理由などないでしょう」
忠次が黙り込んで、藤吉郎が舌打ちをする。
「沓掛城を奪い取っても、今川が戻ってきたらわしらでは支えきれんだろう」
「織田の追撃で松平勢は総崩れと、今川に早馬を出せばいい。退き戦で浮き足立っている敵は三河を通り越して今川領まで一直線だ」
「そううまくいくかのう」
「一国一城の主になれる絶好の機会を見過ごすのか。そうなればお市様を嫁にもらうことだって夢ではなくなるんだぞ」
「ううむ、それは……」と、藤吉郎がゴクリと唾を飲み込む。
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