(4-14)
「甘いわっ!」
人間とは思えない握力で俺の喉を潰しにかかる酒井忠次がニヤけている。
「おかしな格好しおって、南蛮人か何者かは知らんが、戦場でためらいや情けは命取りになることを教えてやる。ありがたく思え、地獄でな」
だめだ、殺される。
死ぬのか。
俺はこんなところで死ぬのか。
意識が遠のいていく。
――なにが最高の軍師だよ。
《あなたの野望もこれまでです》
ゲームオーバー……なの……かよ。
「グオッ!」
うめき声と共に喉が楽になる。
藤吉郎が槍の柄尻で兜を殴りつけたらしい。
脳震盪を起こしたのか、俺の下で酒井忠次は気を失っていた。
ハア……ハア……。
思い切り息を吐くと、雨の臭いが肺に吸い込まれる。
俺は息をすることしか考えられず、その場に座り込んでいた。
「馬鹿野郎、さっさと立ち上がれ!」
藤吉郎が俺のシャツを引っ張り上げる。
「だから人を刺す練習をしておけと言っただろうが」
吐き捨てるように言うと、藤吉郎は三人組の方へ俺を引きずっていく。
ぐったりとした松平元康が作兵衛に押さえ込まれ、泥にまみれた金の鎧に雨が降り注ぎ、鈍い輝きが目に染みる。
作兵衛は俺と同じく首を切ることができずに泣いていた。
茄子の久作は頭の方から元康の腕を押さえつけているが、南瓜の六太郎は股を広げてへたり込んだまま口に指を突っ込んで震えている。
と、その時だった。
元康のそばに立つ前田利家の背後から何かの影が迫っていた。
――危ない!
俺はかたわらに落ちていた槍をとっさに突き出していた。
倒そうなんて思っていなかった。
ただ、敵を威嚇して、利家を助けようとしただけだった。
――ズンッ!
思いがけず、手応えがある。
襲いかかろうとしていた勢いで敵が自ら飛び込んできたのだ。
脇に退いた利家の後ろから現れたのは、本田平八郎忠勝、さっきまで泡を吹いて倒れていた色白の美少年だった。
甲冑の胴と草摺の隙間に俺の槍が突き刺さり、滝のように流れ出た鮮血が雨に混じって脚を真っ赤に染めている。
――俺が……刺したのか。
俺の手から離れた槍の柄が宙を舞う。
「平八!」
目を見開いた松平元康が叫ぶと、忠勝少年は主君を見つめ返し、右手で腰の刀を抜き、体に刺さった槍を左手で握りしめ、倒れるように前に踏み出しながら、なおも利家に斬りかかろうとした。
だが、槍をつかんでゆるりとかわした利家は無慈悲に膝を蹴り返し、柄から抜けた忠勝の体があっけなく俺の目の前に転がってきた。
利家の声が雨にまぎれて降ってくる。
「おまえの獲物だ。おまえが殺せ」
――俺が?
「そいつはもう助からない。楽にしてやれ」
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