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前田利家が振り向きざまに笑みを浮かべながら離れていく。
「藤吉郎、俺から行かせてもらうぞ!」
「こら、又左、抜け駆けは夜這いだけにしておけ」
藤吉郎の戯れ言に聞く耳など持たず、行列の横から接近すると松平の軍勢に一人突っ込んだ。
「織田家中に『槍の又左』と言われた前田利家とは俺のことよ。腕に覚えのあるやつはかかってこい」
二メートル近い大男に恐れをなして相手になる者はおらず、悲鳴を上げながら散り散りに逃げていき、甲冑姿の武将が一人取り残された。
歳は中学生くらいか、色白の美少年だ。
《本多忠勝:統率9、武勇29、知略15、政治25》
徳川四天王と称される猛将のはずが、サッカー部の補欠みたいにひょろりとしている。
と思ったら、脳内にアイコンが表示された。
初心者マークだ。
《本多忠勝は大高城への兵糧入れが初陣で、同時に元服を迎えました》
だから能力値がまだ高くないのか。
令和の高校生の俺から見たって、塾帰りに駅前のコンビニで輩に絡まれた小学生にしか見えない。
「小僧、俺の相手になるか!」
前田利家が槍を突きつけると、若武者の股の辺りから湯気が立つ。
「小便を漏らしたか」と、前田利家があっという間に間合いを詰めてつかみかかった。「ひよっこが。武将らしく名乗って見せろ!」
「お、俺は……ほん、本多ひぇいはちろう忠勝……だっ」
色白なのは顔色が悪いせいらしい。
俺に聞こえるほど歯を打ち鳴らして震えている。
「びびって声が震えてるぞ」
鼻で笑った前田利家は少年の膝を蹴飛ばし、転がった体を踏みつけると、振り上げた槍の柄で下腹部をズンと突いた。
口から泡を吹いて悶絶した本多平八郎忠勝はぐにゃりと動かなくなった。
と、そこへ、先頭集団から二騎離脱し、泥をまき散らしながらこちらへ向かってきた。
「平八!」
金陀美具足の松平元康だ。
「大将自ら駆けつけるとは、手間が省けて助かるぜ」
前田利家の前に藤吉郎が踏み出す。
「わしにも手柄を立てさせろ。おまえら、あいつを取り囲め」
三人組に指示を出すと、藤吉郎は右へ回り込んだ。
もたついている三人組の背中を押して、俺は左へ回り込む。
正面で待ち受ける前田利家に向かって松平元康が突っ込んできた。
「平八、立て!」
主君に声を掛けられても本多忠勝はピクリとも動かない。
後ろからもう一騎、虹色の糸で装飾した古風な鎧をまとった髭の武将が追ってくる。
脳内モニターにステイタスが表示された。
《酒井忠次:三十三歳:人質時代の松平元康から仕える家老:統率86、武勇78、知略64、政治73》
あの柴田勝家を敗走させたこともある徳川四天王筆頭の勇将だ。
馬から飛び降りると、前田利家に槍を突き出し、そのまま一気に体を合わせにらみ合う。
「調子に乗るな、若造。わしが相手だ」
「おっさんが無理すんなよ」
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