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だが、後れを取った俺たちの前には、もう討ち取るべき敵の姿はすでになく、前田利家が虚空に槍を振るう。
「ちきしょう。一番槍どころか、おいて行かれるとは不覚なり」
「おい、又左」と、藤吉郎が前田利家を呼ぶ。「わしらは先回りして沓掛城へ向かうぞ。松平が城へ入る前に先頭を足止めしてお館様の本隊の追撃をお膳立てするのだ」
「よし、急ごう」
脇にそれた二人を、三人組と一緒に追う。
「なあ、アニキ、逃げようぜ」と、荒い息で茄子の久作がぼやく。
「馬鹿」と、唾を飛ばしながら作兵衛が怒鳴る。「今さら逃げたらそれこそ織田の味方にも殺されるぞ」
「おいら、もう、走れねえよ」と、南瓜の六太郎は泣きながらついてくる。
ほんの一瞬だけ、三人組に同情したが、もうどうにもならない。
作兵衛の言うように、ここで藤吉郎において行かれたら、松平の敗残兵と間違われて血気盛んな織田の足軽に討ち取られてしまうだろう。
俺たちは変わってしまったシナリオをそのままなぞるしかないのだ。
沓掛城へ向かう松平の隊列を横目に俺たちは走り続けた。
雨で煙る前方にこんもりとした森が見えてきた。
真っ赤な顔の作兵衛が息を切らせながら指さした。
「昨日……俺たちが来た……沓掛城……だぜ」
「もう今川の旗はねえっすね」と、茄子の久作。
「昨日は森の木よりもにょきにょき立ってたのにな」と、南瓜の六太郎。
まだ松平の軍勢は城に入ってはいないらしい。
「よし、先頭が見えてきたぞ」
藤吉郎の指さす城の手前に松平の旗印が見えた。
前田利家も槍を突き出す。
「おい、あれは松平の大将じゃないのか」
馬に乗った小柄な男がこちらを振り向いてひどく慌てたようにまわりの家来達にわめき散らしているのが見える。
脳内ディスプレイにもステイタスがポップアップした。
《松平元康:統率49、武勇39、知略45、政治57》
なんだよ、凡将じゃんか。
松平元康、後の徳川家康となる武将はまだ俺と同じ高校生くらいの年頃だから、こんなものなのか。
藤吉郎が三人組に声を掛ける。
「もくろみ通り先頭を捕らえたぞ。誰でもいいから討ち取って足止めしろ!」
「そんなこと言ったってなあ」
作兵衛の嘆きに久作がかぶせる。
「討ち取るどころか、こっちがやられるよ」
「おいら吐きそう」と、六太郎は槍を杖にして足を止めた。
「馬鹿野郎、ここまで来て何を言っておるか」と、藤吉郎が槍の柄を振って六太郎の背中をたたく。「手柄を立てておまえのカアちゃんに楽をさせてやれ」
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