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「ワタシも人数に数えるんですネ」と、デイブが背負っていた鉄砲を構える。
「なんでそんな物持ってるんですか」
思わず声が裏返ってしまったが、デイブはおどけながら答える。
「だって、三浦サン、ワタシ武器商人ですから。織田のお殿様はオトクイサマですヨ」
だから清洲城に出入りしてたのか。
と、いきなりだった。
デイブは松平の隊列に向かって銃をぶっ放した。
腹に響く太い銃声が天を裂き、にわかに雨が降り始めた。
玉は当たらなかったようだが、音に慌てふためき、百メートル先の敵が散り散りに逃げていく。
デイブの馬も音におびえて跳ねるが手慣れた手綱さばきで華麗に押さえ込んでみせる。
藤吉郎がデイブに飛びついた。
「おい、おぬしどういうつもりだ!」
「キシュウコーゲキですよ」と、悪びれずになおも銃を構える。「フランク三浦さんの狙い通りにネ」
いや、ちょ、俺のせいにするなよ。
「ダイジョーブ。オッケー狭間の牧場ですカラ、すなわちオッケー牧じょ……」
全然大丈夫じゃねえよ。
――いたぞ!
落ち着きを取り戻した敵兵が俺たちを見つけて迫ってくる。
「逃げろ」と、藤吉郎が後方へ駆け出す。「多勢に無勢だ。勝てっこない」
「しかたあるまい。是非もなしだ」
前田利家が槍を肩に担ぎながら後を追う。
三人組も転げるように逃げていく。
一人取り残された俺の横で、デイブはもう一発発射した。
迫り来る敵がひるんで足が止まる。
「雨では鉄砲は不利ですネ。では、ワタシはこれで失礼しマース」
ノッシノッシと小柄な馬の背に揺られながら硝煙の香りを残して金髪男が去っていく。
――って。
俺も逃げなきゃ。
幸い、俺はランニングシューズだし、足軽具足もつけていないから身軽だ。
令和の体育教育で習った短距離走法でいったんは引き離すことに成功した。
だが、すぐに脇腹が痛くなって、息が苦しくなる。
元々の体力がないんだから、長距離では圧倒的に不利だ。
先を行く藤吉郎たちがどんどん離れていく。
――ちきしょう。
待ってくれよ。
これで敵にも織田方が物見を出していることがバレてしまったし、そもそも今川義元ではなく松平の兵しかいないのだから、桶狭間イベントは完全に消滅してしまったことになる。
歴史が変わってしまう。
――だが……。
俺の役割は史実を再現することなのか?
歴史を変えるためにここに来たんじゃないのか?
ならばこれこそがシナリオ通りなんじゃないのか?
だが、もはやそんなことを考えている余裕などなかった。
どちらにしろ、今この瞬間を生き延びなければ、俺は歴史から消え去ってしまうのだ。
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