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――うほっ。
ズボンの方まで撫で回し始めたかと思うと、ポケットに手がつっこまれ思わず腰を引く。
「これは何の袋じゃ?」
「ポケットといって、ハンカチ……手ぬぐいなどを入れておけます」
「便利な袋じゃのう。わしの着物にもつけさせようかのう」と、なおも奥をまさぐる。「ん……これは何じゃ?」
ちょ、それは……俺の股間にぶら下がる別の袋だ。
と、微妙な空気になったところでようやく離れてくれた。
「ところで、おまえ出身はどこだ?」
「南蛮人です」と、いうことにしておく。
「なるほど、それで、この服装か。わしもこういう服は似合うかのう?」
ヘンタイかと思ったら、意外にも本当におしゃれに興味があるらしい。
「実はな、わしはかねがね南蛮の服は動きやすそうでいいと思っておったのじゃ。殿の所に出入りしておる南蛮人……何と言ったかな」
「デイブ・スミッシーですか」
「おお、それじゃ。清洲では遠目でちらりと見ただけだったのだが、間近で見られるとは今日は朝からついておるな。おぬしもいっぱい飯を食って手柄を立てろよ」
河尻秀隆は俺のケツを勢いよくはたいで去っていった。
三人組と一緒に握り飯を受け取ってむさぼり食う。
間食なんて贅沢な物はないから食える時に食っておかないと確実に餓える。
この時代の米には細かな石粒が混じっていて、気をつけないとジャリッと歯に当たって欠けそうになる。
歯医者なんてないし、どうせ抜くくらいの治療しかできないんだろうから、けっこう深刻な問題だ。
実際、まわりを見ていると歯が抜けたり欠けたりした大人が多い。
俺なんかは令和ではもちろん毎日歯を磨いていたし、小さい頃に歯列矯正までしてあるから、この時代の人間にしてみたら奇跡みたいな存在なんだろうな。
ちょうど雨がやんだところで城門のあたりが騒がしくなる。
「お館様のご到着である。みなの者、控えい!」
飯を食って屋根の下でくつろいでいた雑兵たちが追い立てられて空いた場所に、清洲城でも見かけた家臣団が続々と入ってくる。
織田信長は立派な金の鍬形を立てた古風な兜をかぶっている。
西洋風の黒マントとの和洋折衷が風格を醸し出している。
「おい、見ろよ。あれがお館様なのか。うちのお殿様って、あんなに引き締まった顔をしておったかな」
「瓢箪みたいだったのに、見違えるようじゃのう」
「なんだか、やる前から勝てそうな気がしてきたわい」
うつけだと思われていた殿様の生まれ変わった姿に、城兵たちの士気が上がる。
柴田勝家が俺を見つけて真っ直ぐにやって来た。
「おう、おぬしも来ておったか。桶狭間なる場所へ案内するのじゃな」
「はい、そのつもりです」
藤吉郎もやって来て、俺を親指で招く。
「おい、おぬし、わしと一緒に来い。お館様のご命令だ。桶狭間とやらに物見に行くぞ」
「サルよ」と、柴田勝家が声をかける。「簗田政綱が沓掛城の物見に行っておるそうだ。途中で会うかもしれんぞ」
「かしこまりました」
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