(4-2)
和やかな会話が続いているが、俺の心では緊張感が高まっていた。
戦国の世は不便で体力が物を言う世界だから、本来なら俺みたいなやつは即刻消滅する雑魚キャラなんだろうけど、そういうヒリヒリするような過酷さにずっぽりとはまってしまうと、それはそれでイヤではない。
疲れているのにハイになる感覚というのだろうか、緊張感と共に期待も高まってくるのだ。
丹下砦に着いたのは日付も変わった夜中の二時頃だった。
ようやく見えた篝火にホッとする。
謹慎中の前田利家は、知り合いに見つかるとまずいから砦近くの森に隠れていると、朝までいったん別行動を取ることになった。
俺たちは藤吉郎に連れられ、織田方の兵で賑わう丹下砦に入った。
さすがにくたくたで、炊き出しの握り飯をもらって食っているうちに眠気に襲われ、危うく大事な飯をぽろりと落としてしまうところだった。
と、そこへ松明を持った使いの者がやって来た。
「木下藤吉郎殿はおられるか?」
「わしだ」と、指についた米粒をなめ取りながら藤吉郎が立ち上がった。
「熱田神宮からこちらへ向かっているお館様がお呼びでございます」
「なんと、このわしを直々にご指名とは何事だ。もしや、褒美にお市様をくださるなんてことはあるまいな」
――あるわけないだろ。
自分には釣り合わないとか言ってたくせに。
だが、ツッコむ気力もない。
「なあに、本気で期待などしとらんさ。だが、思うだけならただだからな。突拍子もない期待なら外れても落ち込むこともないし、何事も勝手に期待しておくものさ」
ポジティブにもほどがある。
だけど、史実でも、その前向きさで天下を手に入れてしまうんだからな。
お市さん本人には嫌われても、その娘は手に入れるわけだし。
藤吉郎が座ったままの俺の肩に軽く手を置いた。
「朝までには戻れるだろうから、ここにいてくれ」
「分かった」
「先ほどおぬしが言っていた街灯の件も忘れぬうちにお館様に申し上げておこうかのう」
なんだかんだ言って、やはり将来の豊臣秀吉だけあって有能なのだ。
藤吉郎が去って、三人組と一緒に砦で夜を明かす。
といっても、いやいや連れてこられたやつらにとって俺は禍をもたらす厄介者だし――ヤラセと知らなかったとはいえ、河原では作兵衛の脚に石もぶつけてる敵だし――話が盛り上がるわけもなく、布団代わりの筵をもらってくるまると、頭を殴られたみたいにすぐに眠りに落ちてしまった。
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