(3-6)
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夏至に近い旧暦五月(太陽暦六月)で日暮れは遅いが、疲労で帰りの足取りは重く、清洲城へ戻った時は暗くなりかけていた。
藤吉郎の家には三人組が待っていた。
「いましたよ。沓掛城に幟旗が立ってました」
作兵衛兄貴に茄子の久作がうなずく。
「あれは今川の旗ですぜ」
「ああ、間違いねえ。前にも見たことあるっす」と、南瓜の六太郎が洟をすする。
「どのくらいの数だった?」
「数って……」と、作兵衛が口ごもる。「たくさんいましたよ」
「京や堺の街のお祭りかってくらいでしたよ」
茄子の久作に南瓜の六太郎がうなずく。
「ああ、とにかくうじゃうじゃ、飯炊きの煙ももくもくでした」
数え方を知らないからしかたがないが、とにかく史実通り、二万五千の兵が来ているんだろう。
「よし」と、藤吉郎は拳を打ち合わせると、床下の壺から小銭を出して三人に分け与えた。「おまえら、ここにいろ。俺はお城に報告に行く。隣のばあさんに頼んで飯を食わせてもらえ」
俺たちは二人で城へ上がった。
今度は門番に止められることはなかった。
「おお、サル、物見へ行ったそうじゃな。どうじゃった?」
御殿の庭で、武骨だが切れ長の目をした武将に出会うと同時にステイタスがポップアップした。
《森可成:織田家家臣三十七歳。統率75、武勇87、知略67、政治49》
おお、この人があの『攻めの三左』と言われた十文字槍の使い手か。
柴田勝家と一歳しか違わないのが信じられないくらい若く見える。
藤吉郎が進み出てひざまずく。
「おりました。沓掛城に今川の兵がいたそうです。あと、丸根砦がやられました」
「なんと、丸根と言えば佐久間殿は?」
「お討ち死になされたそうです」
「無念」と、天を仰ぎ、そのまま背を向ける。「お館様に申し上げねば。来い」
中庭には篝火(かがりび)がたかれ、俺たちが広間の前の縁側に控えていると、朝と同様に重臣たちが続々とやってきた。
「サル、今川がおったそうだな」と、柴田勝家もいた。
「はい。大軍だそうです」
と、そこへ織田信長がやってきた。
廊下に額をぶつけるように平伏した藤吉郎はすぐに跳ね起きて報告した。
「南蛮人の予想通り、今川の軍勢は沓掛城へ入りました。大高城の徳川勢が丸根砦を襲い、全滅いたしました」
「ううむ」と、うなったきり、瓢箪顔の信長は何も言わない。
家老の林秀貞が進み出た。
「殿、今川は大高城へ入るつもりでしょう。南蛮人の申すとおり、その途中で奇襲攻撃を仕掛け阻止せねば、二度と大高城を取り戻すことはかないませぬ。伊勢の通商は今川の手に落ち、運上金を絶たれた我ら織田家は風前の灯火となりましょうぞ。いざ、ご決断を」
「「「殿、ご決断を」」」
清洲城の広間に詰めかけた家臣団はみな固まったまま主君の英断を待っていた。
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