(2-15)
と、そこへ横から口を挟む者がいた。
「オッケー狭間の決闘デスネ」
一同みな穴にはまったように固まってしまった。
「西洋で決闘は紳士のたしなみ。逃げるは恥デース。受けて立ちましょう」
空気を読まぬ駄洒落に誰も反応しないのをいいことに、デイブはますます調子に乗る。
「決闘の時は、相手に手袋を投げつけます。ノブナガサーン、手袋を反対に読むとどうなりますか?」
「ん?」と、信長が視線を宙に向ける。「てぶくろ……ろ・く・ぶ・て」
「ハーイ、引っかかりましたね。六回ぶっていいデスネ」
なんだこれ。
サイタマじゃなくて、コイツ、昭和から来たんじゃねえのか。
「馬鹿者!」と、柴田勝家が身を乗り出す。「殿を殴るなど、口にするだけでも無礼であるぞ。手を出せばキサマのその腕わしがひねり落としてくれるわっ」
他の家臣たちも膝立ちで身を乗り出す中、信長本人はご満悦だ。
「よいよい。たわいもない冗談に本気になるのは野暮というもの。ははは、デイブ殿は今日も絶好調であるな」
デイブは西洋人らしく肩をすくめる。
「無礼を働いたおしおきにお市さんが私をぶってもいいですよ。お市さんにぶって踏まれたらジパングまで来たかいがあったというものです」
「こ、こらっ。おぬし、なんとうらやましいことを」
藤吉郎が本音をこぼして饅頭で口を塞ぐ。
柴田勝家まで顔を真っ赤にして座り込んでしまった。
なんなんだよ、これ。
おまえらみんなやってほしいのかよ。
ていうか、桶狭間の話はどうなったんだよ。
俺がにらみつけるとデイブがウィンクを返す。
「ダイジョーブ。Let it be. なるようになりますヨ」
家臣団がざわつく中、信長が口を開いた。
「とりあえず、本当に今川の軍が来ているのか、物見を出しておけ」
「かしこまりました」と、林秀貞が頭を下げる。
俺はすかさず異議を申し立てた。
「武士では見つかるとこちらの動きも警戒されて、奇襲が不可能になります」
「ならばどうする?」
「農民に行かせてはどうでしょうか」
「誰かおるか?」
「ワタシが行きましょうか」と、デイブ。
――いや、目立ちすぎるだろ。
あんたは黙ってろ。
「藤吉郎の知り合いがおります」
「拙者の?」と、藤吉郎が自分を指さす。
「ほら、昨日の河原のあいつらに……」
NTR願望クズ男が寧々さんを襲わせた三人組だ。
「あいつらか」と、藤吉郎も拳を打ち合わせる。「お館様、さっそく、このサルめが手配いたしまする」
信長に申し上げているくせに、視線はお市様に向けてアピールしている。
相手は庭に目をやって気にしてもいないようだが。
「是非もなし。良きにはからえ。みなの者、ご苦労であった」
信長が立ち上がり、奥方様たちを引き連れて退出してしまった。
残された家臣団はみな力なく立ち上がり、背中を丸めて広間を後にしていく。
「これで織田家も終わりかもしれんな」と、つぶやきが聞こえた。
「めったなことを言うでない」
「おぬしも本音ではそう思っておるのであろう」
「それはそうだが」
「いざとなれば今川方につく算段もしておくべきかもな」
何が最強織田軍団だよ。
武将たちのステイタスを表示させても、柴田勝家以外はみな三十から四十程度の数値しかない。
こんな凡将ばかりじゃ、本当に織田家はおしまいなのかもな。
「尾張国の終わりを見届けましょうネ」
デイブも俺に手を振ると柴田勝家と共に去っていった。
「おい、何をぼんやりしている。行くぞ」と、藤吉郎が俺の肩をつかむ。「時間がないんだろう。物見にゆかねば。この目で確かめれば、殿を説得できるかもしれんからな」
せっかくやる気を見せてくれているのはいいが、こっちはさっきまでの期待などとっくに失せていた。
俺は散歩を嫌がる犬のように引っ張られながら城下に向かった。
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