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(1-3)

 ガゥゥゥ。


 鋭い牙をのぞかせながら前足をやや広げ気味に踏ん張って、今にも飛びかかってきそうだ。


 犬と言えばポメラニアンとかトイプードルしか見たことない俺には猛獣に見える。


 もしかして、こいつ、狼か?


 この時代って、まだニホンオオカミがいたんだっけ?


 いや、ちょっと待て。


 木も生えていないこんな野原に狼がいるとは思えない。


 と、その時だった。


 俺の脳内にアラートが表示された。


《危険:狂犬病の疑いあり》


 マジかよ。


 狼よりヤバイじゃん。


 令和の時代でも発病したら治療法がない病気だって聞いたぞ。


 戦国時代なのに、討ち死にどころか、野良犬に噛み殺されるなんて、こんなの最低なゲームオーバーじゃないかよ。


『信長のアレ』の序盤で武田と北条に岩付城を蹂躙され、なすすべもなく滅亡する太田家のことを笑えない。


 といっても、一本筋の土手の道は片側が湿地でもう片方は河原だ。


 逃げるにしても、背中を見せたら飛びかかってくるだろう。


 どうしたらいい?


 俺はとりあえず道端に落ちていた細い木の枝を拾い上げた。


 かがんだ瞬間、犬がピクリと反応した。


 相手が自分より小さいと思うと襲ってくるのか。


 俺は慌てて立ち上がると、棒きれを振り回した。


 ややひるんだのか、犬は俺をにらみつけたまま前脚を伸ばして体を後ろへ反らした。


 だが、むしろうなり声は太く鋭くなり、敵意を剥き出しだ。


 飛びかかられたら、こんな棒きれなんか何の役にも立たない。


 俺は犬の目をにらみ返しながら徐々に後ずさりした。


 数歩下がるごとに同じ間合いを保って犬が前に出てくる。


 どうしたらいい?


 このままにらみ合いを続けて誰かが通りかかるのを待つしかないか。


 しかしまあ、昼間だっていうのに、誰も通らない。


 緊張のせいか、どうも腹の具合がおかしくなってきた。


 グルルギュゥ。


 犬よりも派手に俺の腹がうなり声を上げ始めた。


 なんだよ。


 まだ戦国武将にも会ってないのに、大を漏らし、犬にかみ殺されてゲームオーバーなんて、勘弁してくれ。


 ブゥゥン。


 にらみ合いが続く中、俺の顔に蝿がまとわりついた。


 払いのけようとしたのがいけなかった。


 目をそらした瞬間、犬が俺をめがけて飛びかかってきた。


「うわああああ!」


 俺は背中を向け、土手を転がり落ちるように河原へと逃げた。


 あっという間に追いつかれ、脚がもつれて石ころだらけの地面に顔から突っ込んでしまう。


 痛ってえとか、声を上げる間もなく俺は必死に石をつかみ、投げつけながらなんとかかわして立ち上がった。


 川面に顔を出した飛び石をたどって逃げると、犬は河原で前脚を踏み出そうとしながらためらっている。



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