(2-7)
なのに、手柄を譲られた当人が一番驚いていた。
「いやいや、拙者はそのようなこと思いもしませんでしたぞ」
正直すぎる藤吉郎を柴田勝家が豪快に笑う。
「なんじゃ、サル、おぬしにしては謙虚よのう。いつもはできもせぬことをしゃしゃり出て失敗ばかりしておるくせに」
ああ、口だけ番長のお調子者ってわけか。
「他にも」と、俺は横から続けた。「この事前に組み上げたものを運び入れる方法を使えば、敵前に一夜で城を築くこともできます……と、藤吉郎殿が申しておりました」
現代の仮説住宅なんかで使われるプレハブ方式だ。
「戦場でそううまくいくかどうかは分からぬが、考えとしては面白い」
柴田勝家は髭の下に笑みを浮かべると、藤吉郎に命じた。
「サル、おぬしがこの者に話したとおりにやってみるが良い。おまえが現場監督だ。殿には俺から話をしてやる」
「ハハッ。本日からすぐに取りかかりまする」
「その代わり、口だけでできぬとあらば切腹だ。良いな」
「そ、それは」と、藤吉郎は青い顔で震えている。
「武士の作法で死ねるのだ。これも出世というものよ。ガハハ」
柴田勝家の後ろを歩きながら藤吉郎が俺の脇腹をつついた。
「死にとうないでござるよ。おぬしのせいでこんなことになったのだぞ。わしの身代わりに切腹しろ」
まったく弱気で困る。
まだ失敗したわけでもないだろうに。
本当に、これが後に天下を取る男なんだろうか。
今は柴田勝家にペコペコしてるけど、本能寺の変の後には立場が逆転するのにな。
――でも、その歴史も俺の行動次第で変わっていくのかもしれないのか。
歴史シミュレーションゲームは同じ条件から始めても、決して同じ展開にはならないからな。
俺たちはいくつかの曲輪を抜けてそのまま城内で一番大きな建物の前まで来た。
「ここがお館様の御殿だ」と、藤吉郎が耳打ちする。
御殿?
かやぶき屋根の平屋で、見た目はちょっと大きめな農家の家みたいな感じだ。
御殿というと教科書で見た藤原氏の寝殿造りみたいな建物を想像していた俺からすると拍子抜けだ。
ただ、建物の外側に縁側のような廊下があるところなどは昔の和風建築共通の特徴のようで、隣の建物とも廊下でつながっている。
草履を脱いだ柴田勝家に続いて、靴を脱いで御殿に上がる。
「変わった履き物じゃな」と、臭いを嗅ぎそうな勢いで柴田勝家が俺の靴を見つめている。「デイブ殿の靴とも違うようじゃ」
「オーウ、そうですか」と、デイブも腰を曲げて俺の靴をのぞき込む。「ああ、《ニケ》と書いてありますね」
「知っておるのか?」
「ニケはギリシアの勝利の女神です」
「ほう、南蛮の縁起物か」と、柴田勝家が俺のランニングシューズを持ち上げる。「見た目よりも軽いし、わらじよりも歩きやすそうだな」
そして、そのまま俺の靴を持って廊下を歩き出した。
ちょ、え、それ、どうするの?
俺の表情を見て柴田勝家がニヤリと笑みを浮かべる。
「この珍しい靴を殿にお目にかければ、そなたが南蛮人であると話が伝わりやすいであろう」
ああ、そうか。
ちゃんと新参者の俺のアイディアも好意的に取り入れてくれるし、案外、思考が柔軟で融通の利く人なのかも。
この調子で織田信長との会見もうまくいけばいいな。
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