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 どうも、さっきから、期待に胸が膨らむわりに、自信がイマイチなんだよな。


 まあ、そりゃ、現実の令和にいた俺はただの非モテボッチ陰キャ男子だったわけで、それが最強チート能力を持ったからといって、うまく発揮できなければ出世どころか、それこそ盗賊にでも殺されてあっさりゲームオーバーになってもしかたがないんだからな。


 なにしろ弱肉強食の下剋上の世の中なんだ。


 おまけに活躍以前に、今朝からずっと歩き続けで腹も減ってきてるっていうのに、この時代の金なんか持ってないし、そもそも街道筋なのに茶屋すらなくて困っている。


 この時代の人たちは、いったいどこでどうやって飯を食ってたんだ?


 日本全体の状況なんかはすぐに脳内モニターに思い浮かぶのに、こういった細かな現実に慣れていくのは案外大変なのかもしれない。


 しかしまあ、戦国時代っていうのは、森と原っぱばかりで、街どころか、村もないもんなんだな。


 令和の名古屋市が五百年前はこんな原っぱだったなんてなんだか信じられないな。


 この街道だってもちろん舗装なんかしてなくて、今俺が歩いているのは川沿いにある草ぼうぼうの土手だ。


 左手は石ころだらけの河原、右側はほとんど湿地みたいなところで、足を踏み入れようとすればぐちょぐちょとした泥に沈んで身動きが取れなくなってしまう。


 だから、まわりは空き地ばかりなのに使える土地がないらしい。


 その少ない畑や田んぼも、二十一世紀の日本とは違って作物が貧相だ。


 なんの菜っ葉か知らないけど、虫食いだらけで色も悪い。


 肥料とか輪作とか、ゲームにもあった二期作とか、そういう技術を俺が教えてやれば、生産量を増大させることができそうだが、本当にそんなにうまくいくんだろうか。


 まったくそんな気がしない。


 令和の俺は非モテボッチ以下同文で何の実績もないただの小心者だったんだ。


 さっき、川縁(かわべり)で立ち小便をしたけど、べつに誰からも見られてたわけじゃないのに落ち着かなかったくらいだからな。


 大なんか、できるかな。


 やべえ、そういえば紙持ってないぞ。


 葉っぱで拭くんだっけか。


 川とかで都合良く洗えるかな。


 無人島に何を持っていくかというお約束の質問があるけど、俺なら一生分のトイレットペーパーと即答だよ。


 キャンプ場ですら温水洗浄機付きトイレ完備の清潔快適時代出身の自分にしてみれば、そんな心配ばかりだって無理もない。


 ガゥルルルゥ。


 ――ん?


 何だ?


 前方右手に目をこらすと、草むらの中から犬が現れ、土手に駆け上がってきた。


 鋭い目で俺をにらみつけ、涎をまき散らしながらうなっている。


 令和ではまったく見かけなくなった野良犬だ。


 灰色の毛がはげて全体がまだら模様で、尻尾は先端にだけ毛が残っていて瓶ブラシみたいなのに、耳だけはピンと立っている。


 あまり餌がないのかやせこけて震えているが、その分、獲物を狙う猟犬のような気迫に満ちた目が鋭くギラついている。



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