(2-3)
なのに、藤吉郎は首をひねってうなるばかりだ。
「そのようなやり方で本当にうまくいくのか?」
あのね、元はあなたのアイディアなんですよ。
「やってみなくちゃわからないでしょ。うまくいけば手柄を独り占めできますよ」
「出しゃばるなと怒られるだけだと思うぞ」
「寧々さんに言いつけますよ。藤吉郎殿は結婚する気などないと」
「そ、それは困る。寧々殿のお父上に知られたら、打ち首だ」
「だから、やるしかないんですよ」
「いやなあ、でも、わしが上役に生意気な口出しなどしたら……」
なんだよ、弱気だなあ。
これが後に天下を統一する豊臣秀吉なのか。
なんとも煮え切らない男だ。
偽者なんじゃないのか。
『信長のアレ』では上杉謙信女性説なんていう設定も選べたり、徳川家康にも影武者説があるらしいけど、偉くなってからならともかく、こんな下っ端の藤吉郎に影武者なんているわけないか。
「なあ、頼むから俺を信じてくれよ」
「なんじゃ、いきなり無礼な口の利き方だな」
いや、まあ、つい焦った勢いで言っちゃったけど、そんなこと気にしてる場合じゃないんだよ。
「今を逃したら二度と出世できなくなるんだぞ。偉くなれば、寧々さんどころか、どんなお姫様だって藤吉郎の思うままにできるんだからさ」
サルがゴクリとつばを飲み込む。
「ど、どんな姫様でもか」
「ああ」
「お、お市殿でもか?」
お市というのは信長の妹で、浅井長政に嫁ぐんだよな。
で、信長に命じられた豊臣秀吉の攻撃で浅井家が滅亡した後は織田家に帰り、柴田勝家と再婚して、そこでもまた豊臣秀吉に滅ぼされるんだ。
だから史実では、お市殿は生涯豊臣秀吉を恨んで許さなかったらしい。
鼻の下を伸ばしたスケベ男にそんな未来を教えたら泡吹いて倒れるだろうから内緒にしておこう。
「大丈夫。側室なんか何人でも持てますよ。やり捨て御免で酒池肉林」
「うほっ、鼻血が出そうじゃ」と、押さえたのは鼻ではなく股間だった。
見た目も中身も、ホント、サルだな。
――天狗の鼻とか自慢してたっけか。
そんなことはどうでもいい。
「だから早くお城へ連れていってくれ」と、肩を揺すってせかす。
「今すぐか?」
「今しかないでしょ。今川の軍勢は待ってくれないんだから」
「よし、分かった。行って話してみよう」
藤吉郎を説き伏せて俺はなんとか城へ案内してもらうことができた。
だが、城門でまた足止めを食ってしまった。
「おいこら、おまえたちどこへ行く」と、角棒を持った門番が両側から立ちはだかる。
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