(1-15)
「ごちそうさまでした」
「おう、満腹、満腹。よし、じゃ、寝るか」
「え、もう?」
確かに外は日が落ちて小屋の中は暗いが、脳内モニターの表示では、まだ七時半だ。
「なんじゃ、わしと何をしたいんじゃ」と、藤吉郎が薄闇の中で、うさんくさそうな目で俺を見つめる。「わしは衆道は好まぬぞ。それとも夜這いにでも行くのか。おぬしも隅に置けんのう」
電灯どころか、ろうそくの明かりすら高価でもったいない時代だと、暗くなったら寝るしかないのか。
「おぬし、これを使え」と、藤吉郎が窓にかかっているのと同じぼろきれのような筵を俺にくれる。
「使うって、何に?」
「寝るのに決まっておるだろう」
あ、布団代わりか。
「わしは一晩くらいなくても大丈夫じゃ。今の時季は夜でも寒くはないからのう」
新暦の六月くらいだから、確かにそんなに冷え込むことはないだろうけど、でも、唯一の寝具を貸してくれるなんて、意外といい人なのかもしれない。
「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」
「なに、いいってことよ。わしだっておぬしと一つの筵にくるまって寝るのはごめんじゃからな。ほいじゃ、また、明日」
藤吉郎は壁に向かってごろりと横になると、数分後にはかすかにいびきをかき始めていた。
俺の方は筵を体に巻いて横になってみたものの、木の床は薄いくせに体に当たるし、枕もなく、体は疲れているのに寝付けなかった。
おまけに汗まみれだけど、着替えもないし、風呂もシャワーもない。
と、そこで脳内モニターが点滅した。
《就寝モードに入ります。画面は消えますが、イベント発生時にはアラートが表示されます。お疲れ様でした》
眠ろうとすると、脳内モニターの情報が浮かび上がらなくなるらしい。
自動で切り替わるのは便利だけど、情報が遮断されると、キャンプに来た少年と変わらなくなる。
何も持っていないから、むしろ無防備すぎるか。
不安で夜も眠れないなんて、こんなので下剋上の世の中を渡り歩いてなんかいけるんだろうか。
帰りたくなっちゃったな。
やべえ、なんだよ、涙なんか浮かんで来ちゃったし。
俺は慌てて手の甲で目をこすった。
暗闇に目が慣れてくると、壁の隙間からこぼれるかすかな月明かりすらまぶしく感じる。
だけどそれは希望の光ではなく、地獄の底から見上げる遠い天国のように思えた。
どこかで犬の遠吠えが聞こえてくる。
――ちきしょう。
負けてたまるかよ。
『信長のアレ』を千回クリアしたことに比べれば、こんな不便な生活くらい、どうにかしてやるさ。
どれくらい時間がたった頃か、闇の中で「んごっ」と、藤吉郎が声を上げた。
――寝言か。
「寧々殿、勘弁でござる。しておらぬ。わしは浮気などしておらぬ。うおっ……やめ……たすけ……」
夢の中でも痴話げんかかよ。
でも、そんな馬鹿馬鹿しさに思わず笑みがこぼれ、その瞬間、俺は一気に眠りに引きずり込まれていた。
期待に満ちていたはずの戦国時代初日は、こうして若干の不安に包まれて終わった。
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