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すると、寧々さんが藤吉郎をにらみつけて詰め寄った。
「この人は私を救ってくれた恩人ですよ。悪い人であるはずがありません」
年下の女の子なのに藤吉郎とあまり背が変わらない、ていうか、むしろ大きいくらいで、まるで弟を諭す姉みたいだ。
「いや、しかしだな……」と、藤吉郎もしどろもどろだ。
「私の言うことが信じられないのですか」
「そうではないが……」
寧々さんに詰め寄られるとさすがの藤吉郎もまるでだらしがない。
「わ、分かった。いきなりお館様というわけにはいかぬが、とりあえず、上役に相談してみるから、少し待ってくれ。今晩泊まるところと飯くらいは出してやる。それなら良かろう?」
「それはありがたい。お願いします」
実際、腹も減ってたし、さっきみたいな野犬がいる場所で野宿なんてできるはずもないから、本当に助かる。
藤吉郎は俺の方を気にしながら寧々さんに耳打ちしていた。
「寧々殿、逢い引きはまた明日にしよう」
「うん、いいよ」
どうやら俺はお邪魔だったらしい。
でも、戦になったら逢い引きどころじゃなくなるわけだし、今は遠慮している場合じゃないだろう。
俺たちは三人並んで街道に戻ると、清洲城に向かって歩いた。
川に挟まれたこんもりとした木立を回り込んだところでお城が見えてきた。
朝から歩き続けてようやく着いたか。
でもそれは、令和の観光地にあるお城のイメージと違っていた。
堀で囲まれ一段高くなった敷地に土塀が巡らされているが、その一部が崩れて中が見えている。
安土城みたいな天守閣どころか、櫓と呼ばれる高い建物すらないようだ。
中の建物もすべて平屋で、途中で見かけた村の小屋とそれほど変わらない。
結構地味な《館》って感じだな。
御殿とか、鉄砲狭間とか、鉄錠門とか、『信長のアレ』の技術で改築していく楽しみはあるかも知れないけど、藤吉郎が心配していたように、今川に攻められたらあっというまに落城するだろう。
城下の街も家というよりは壁のある屋台といった感じの店が少し並んでいるだけで、土ぼこりの舞う通りを歩く人も少なく、静かでまったく活気がない。
「じゃあ、サル、またね」
「おう、寧々殿、またな」
「ええと……南蛮の人も、またね」と、朗らかに笑みを浮かべながら脇道に去っていく。
「あ、はあ、どうも」
――坂巻です。
名前を覚えてもらえなかったのがちょっとショックで、俺は寧々さんの背中に小さく手を振り返すことしかできなかった。
ま、令和の高校でも空気だったんだけどな。
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