第1章 戦国1560(1-1)
織田信長といえば有名なあのゲーム。
そのシミュレーションゲームを千回クリアした俺は戦国時代に転生したばかりだ。
ゲーム内のバーチャルじゃない。
青空の下に広がる原っぱの草を揺らしながら爽やかな風が吹き抜ける本物の戦国時代だ。
なんでその時代だって分かるかって?
俺の頭の中にはゲーム画面のような情報が浮かんでいる。
年月日、立体地図はもちろん、カーナビ風の道路案内が常に意識の右上あたりに表示されていて、他にも気になったことがあれば、思い浮かべるだけで検索画面に切り替えることもできるのだ。
つまり舞台は本物だけど、ゲームのシステムが適用される世界にタイムスリップしたというわけだ。
今は一五六〇年、つまり桶狭間の合戦があった年の五月だ。
俺は戦国の世の尾張国を、清洲城に向かって歩いている。
もちろん、織田信長に会うためだ。
今川義元の来襲を予言し、桶狭間で奇襲を仕掛けろと提案すれば、大手柄となって出世できるだろう。
そうすればゲームみたいに各地の戦国大名を撃破してリアルに全国統一を成し遂げられるというわけだ。
史実は塗り替えられ、平凡な男子高校生に過ぎなかった坂巻悠斗という俺の名前は歴史に刻まれることになる。
――はずだ。
高校の制服姿っていうのが戦国時代らしくないけど、洋服だから南蛮人ってことにしておけばいいかな。
この時代の人間からすれば、進んだ科学やこれからの出来事を全部知っている自分は異国の人間みたいなもんだろうからな。
それにしても、高校の退屈な日本史の授業中に居眠りしてたら戦国時代に飛ばされるなんて、やっぱりゲームをやりこみすぎたのかな。
なにしろ、寝る時間以外はやりこんでいたわけで。
じゃあ、いつ寝るんだって、だから授業中に眠っててこうなったわけだ。
令和の世の中だったら、進路希望調査で《第一志望:軍師》なんて書いたとたん、進路指導室に呼び出されて説教だっただろうけど、この戦国時代なら堂々と目指すことができる。
俺は生まれるべき時代を間違っていたんだ。
だからむしろここがまさに本来の居場所だったというわけだ。
ちなみに俺は、『信長のアレ』を織田家以外にもすべての大名をすべてのシナリオでクリアしている。
武田や上杉といった有名どころはもちろん、最弱四天王と揶揄される飛騨の姉小路家、九州の島津と大友の草刈場となる伊東家、関東の雄に頭を押さえられて何もできない里見家ですら全国統一を成し遂げたし、家柄以外に取り柄のない東北の無能集団斯波家でさえも、南部家の突進騎馬軍団や築城マニアで鉄砲チートの伊達家を蹴散らしてやったものだ。
研ぎ澄まされたシミュレーション能力を駆使すれば俺は戦国最強の軍師として名をはせることだろう。
半兵衛も官兵衛も、諸葛亮孔明ですら霞んでしまうほどの存在になれる。
――はずだ。
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