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スリング①

「マジでビビったな。さっきの朝礼。」

「ああ…。」

「こんなことするなんて。王は何を考えているんだろうな。」

「そうだな…。」

(って、いまだに上の空かいっ!)


模造刀を使った剣術の訓練中にも関わらず、気の抜けた男子生徒たちの、ガキン、ガキンとかち合う剣は、真剣みが足りないからか鋭さに欠けていた。

今朝、全校生徒向けに行われた朝礼にて明らかになった事実に、生徒たちは全員、気もそぞろとなっているようだ。

指導する立場である教師も、今日ばかりは積極的な指導を控え、ケガ人が出ないように気を配るのが精一杯。ガキンと音がする度に心配そうな表情を浮かべる。


少し離れたところでは、女子生徒達が放心状態になっている様子。

「あんなに強くてかっこいいマキが女の子だったなんて。」

「わたくし、マキ様のこと好きだったのに…」

悲しみと嘆きの混じった負のオーラが撒き散らされている。

女生徒用に軽量化されたスピアは彼女たちの腰に下げられたまま。鞘から抜かれる気配はない。



王族の子どもが5歳になる時、未来の側近や侍従、侍女となる者たちを選別するため、国中から適齢期の5歳~7歳の子ども達が選りすぐられ、王立の初等科に入学する。つまり、国内のあちこちから優秀な子どもたちがこの学校に集められるのだ。


そんな、選ばれた初等科が開校されてから5年の年月が経とうとしている卒業式の前日の朝礼で、重大発表が行われた。一緒に入学したマキが、実は女の子だというのだ。

そんな事実を知らず、5年も一緒に暮らしてきたなんて。。。という思いにふけるしかない。

突然の発表に生徒たちは戸惑っていた。



寄宿舎の部屋は個人部屋で、各部屋にバス・トイレ・衣装ダンスなどは完備されている。簡易キッチンもついているので、一人で行動すれば隠しとおすことはそう難しくはない。体型にあまり差がない子どもであればなおのこと。面倒を見てくれるナニーを巻き込めば隠し通すこともたやすかったであろう。


しかし、毎日、有り余る元気に、授業前、休み時間、昼休み、放課後と、男の子に交じって駆けまわっていたマキが女の子であろうと想像した者はいなかったようだ。むしろ、先頭を走り先導する彼女は、ガキ大将的存在でもあった。


***

後継者となる王女様がこの国に生まれたという事実は、一週間以上続いた生誕祭や、各種の祝賀行事の影響により、人々の記憶に嫌というほど強く残っていた。

やっと授かった後継者の誕生に、また、それ以上に娘の可愛さにあてられ、王は毎日これでもかと仕事を早く終わらせ、時には周りの部下たちに残務を押し付けることによって、娘と愛する王妃と過ごす時間を確保していたのだから仕方がない。


多くの側近たちは、その行動に呆れつつあったが、大臣の一人が雑談中、

「アレックス様、姫君のご誕生、誠におめでとうございます。これで、この国の末も安泰ですな。」

と珍しく声をかけてきた。父の代からその職に就く大臣は、彼とは折り合いが悪く、政敵と呼んでもおかしくない存在であった。

「どうでしょう、我が家には去年生まれたかわいいかわいい孫がいるのですが、歳も近いことですし、姫君の遊び相手としてお召しになっては。」

そして、照れた様子で、

「いやはや、私の孫ほど美しい少年となるであろう者はおりません。姫君もきっと気に入って、おそばに配したいとおっしゃると思いますよ。」

と続けた。

すると、それを見ていた他の要職に就く者が、

「遅ればせながら、私には幼いながらも逸材と名高い優秀な息子がおりまして、」

と身内を売り込み始めたのだから、これはまずい。


率直に、帰れない。そして、目が血走っている。

彼らの様子を見て、賢王と名高いアレックス王はぞっとした。

一見、大臣たちによる、自身の子ども、孫自慢を装っているが、次期後継者の配偶者を虎視眈々と狙った駆け引きで間違いない。王族と親族になること。それは、この国ではこの上ない名誉と権力を得ることにつながる。

”賢王は続かず”と数ある歴史が示しているが、抑圧されてきた準権力者たちは、賢王が自分達のための政策になびかないと知るや否や、次期権力者候補へと興味を移していくのは自然のこと。

次期権力者を甘やかすだけ甘やかし愚者にすることで、己が権力を思うがままにふるうことが目的に違いない。まだ、首も座っていない赤子の相手として推薦するあたり、相手も切羽詰まっているのかもしれないが。


「何とかせねば」

ため息にかき消されるような小さな声で、ため息交じりに小さくつぶやいた。

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