プロローグ
賢王たちが世襲制により安定した統治を続けてきたされる国、スリング。
その気候と水に恵まれた土地は人々を勇気づけ、王と有力者たちが織り成す数々の有意義な政策によって、豊かな暮らしが守られてきた。
スリングの周りには、一般国民から元首や議員を選ぶ議会制が行われている国、知識のある貴族と国民の代表である元首が対等に話し合い政を進めていく国、軍事政権が政治までも掌握する国、土地が貧しく常に隣国に攻めている国などが存在し、それぞれがそれぞれのやり方で国を統治していた。
ふと、首都の市街地に目を向けてみると、石造りの建物が並ぶ先に駅舎が見える。国をまたいで整備された蒸気機関車のレールは、各国の友好の証であった。その利便性のある移動手段により、異なる理念を持った国間を、人も物も自由に往来が許されている。
道には、蒸気自動車と馬車が入り乱れて走っている。自動で動く箱に安全性を見いだせず、ただただ怖がることしかできない人たちは、古くから続く馬や馬車を用いて移動することが多く、絶対数もそちらの方が多い。速さでは蒸気機関にかなうわけはないのだが、人々はその伝統文化を手放そうとはしなかった。
隣国とは国境を設けて接しているが、大きな通り以外は境界がはっきりすることもなく、時々、小さないさかいが起こることもあった。そのいびつな国境は、一時でも国が弱体化すると、その隙を狙って領土拡大を狙う隣国に狙われることになる。
そんな弱肉強食な時代であるため、代替わりなどの政治力、求心力が弱まる時期は、常に隣国の脅威におびえなくてはならなかった。
しかし、自国の存続を危ぶんだ統治者や元首たちは、”戦争をしたくない。”という共通の意志の元、鉄道を開通させ、お互いの存在を認めて成りたたせることを選んだ。その理念を後世にも伝えようと、積極的に留学生も受け入れていた。
これは、そんな時代の物語。