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98話

カクヨム版98話を改稿。

「『宰相から王宮への緊急呼び出し』だと?」


 テニューズ公爵は今朝方意見書を出したこともあって、「明日か明後日には王宮で話し合いの場が設けられる」とは考えていた。

 逆に言えば、それは「今日ではない」と予測していただけに、早過ぎる呼び出しに驚くしかなかった。

 彼の視点だと、ヤルホス公爵も彼自身と同様に多数派工作を行っていることは当然であり、王宮勤めの文官連中が、短時間で対応策を纏め上げられる可能性は極めて低い。

 公爵家が絡んで王宮に持ち込まれる案件である以上、これまでの経験からすればそれが当たり前に導き出される予測であったのだ。


 尚、この話は、時系列的には96話と97話の間となる。


「議題内容については書簡に。口頭での伝達事項は二つ。『結論を先延ばしせず、その場で決着させるまで細部を詰める』とのことで、『本日の以降の予定を空けて午後一には到着しているように』と、その書簡を持ち込んだ使者から言付かっております」


 テニューズ家の家宰は、必要なことを淡々と述べ、当主の本日の執務内容の予定の調整を既に始めていた。

 それらを取捨選択して、最終決定を下すのは、あくまでも当主自身が行うことである。

 しかしながら幸いなことに、現在のテニューズ家は次期当主への権限移譲が順次行われつつある状況下にあった。

 つまり、本来なら当主決裁が必要な案件でも、現状だとその一部は、「当主の判断で振った執務」として次期当主の決裁でも許される。

 家宰を務める彼は、主人が書簡に目を通している間に、その準備段階を行っていたのだった。


 時の頃は正午にはまだ少し余裕がある時刻。

 王宮までの移動時間を加味して考えれば、呼び出しを受けたテニューズ公爵に残されている時間はそう多くはなかった。

 そして、同様の事態は、ヤルホス公爵邸でも起こっていたのである。




「急な呼び出しにも拘らず、刻限通りに卿らが揃ったのはこちらとしては非常に助かった。感謝する。で、早速だが、議題に入りたい」


 宰相は公爵家の当主2人を前にして、直ぐに本題に入ろうとした。

 けれども、そこに待ったが掛かる。


「これは、我が家とテニューズ家、双方の娘と孫の男子の処遇を話し合う場だと理解しているが、『陛下が誰に王権を継がせるのか?』にも触れる話だと考える。それなのに、だ。この場にカストル卿がいなくて良いのか?」


 ヤルホス公爵の発言を受けて、テニューズ公爵は少々呆れた表情に変化し、宰相は表情を変えずに返答の言葉を紡ぐ。


「双方、昨日の段階でカストル公爵家を味方につけるための打診を行ったのであろう? 回答も得ているとは思うが。カストル家は現時点では中立。『どうしても旗色を鮮明にし、どちらかに肩入れする必要がある事態に発展した場合は、『ゴーズ上級侯爵』と話し合ってそれを決定する』そうだ。『ファーミルス王国の体制を維持するのに、王家と公爵家三家の協調は不可欠であるので、なるべくことを荒立てずに、良い落としどころを探して欲しい』と、そういう内容の書簡が私の元には届けられておる」


 カストル公爵が中立を決めたのは、平たく言うと「テニューズとヤルホスの、どちらからも恨みを買いたくない」が理由で、それ以上でも以下でもない。

 先行して王宮に書簡を届けさせたことも、そこに書かれた内容も、実は公爵自身が考えたことではなく、当主の意向を受けた家宰の頭脳から捻り出された対応だったりする。

 しかし、そんな裏事情はどうでも良く、この場合は王宮に伝えられた内容と、それを知った側の印象が重要なのである。

 このケースでは、過程よりも結果が全てなのだった。


 宰相の返答を聞いたヤルホス公爵は、カストル家の当主がこの場に呼ばれなかった事情を理解し、引き下がった。

 付け加えて言えば、「彼がその点を指摘したのは、実は『カストル公爵に参加されると自家に不利である』と思われたから」だった。

 要は現在のヤルホス公の視点では、参加してくれない方が自身に有利であり、その状況下で話を詰めた後に、後から「カストル卿が不在時の決定だったこと」を理由に、それをひっくり返されても困る。

 そういう思惑での確認だったのである。


 ヤルホス公爵からすれば、「カストル家は、ゴーズ家と密接に係わっている」という認識だ。

 ゴーズ家の当主は、最近生まれたばかりのカストル家の嫡男を、母子共に預けられており、更にはカストル卿の次女と三女を第五夫人と正妻に迎えている。

 しかも、彼はテニューズ卿の息子であり、第二王子妃の兄であり、フォウルの伯父でもある。


 ヤルホス公爵の視点では、カストル家とゴーズ家はそのような強固な結びつきがあり、それはテニューズ家にも波及するようにしか見えない。

 稀に見るほどに強固に繋がった婚姻関係や血縁関係の外形からは、そう見るのが妥当であるし、そう判断しなければおかしいまである。


 実態は、ラックからすれば「自身とミシュラの、二つの実家と縁を切りたい! 切ってたはずだよな?」と言いたいような、冷めきった関係。

 細い利害関係とカストル家のゴリ押しで、家同士の関係が無理矢理維持されているだけだったりするのだが、そんな内実の部分をヤルホス公爵は知り得る立場ではなかった。


 もっとも、ヤルホス公は「テニューズ公爵家の長子が、家を出された経緯について」という知識は持っている。

 そこから推察されるゴーズ上級侯爵と実家の家族との関係は、「良好なはずがない」とも考えてはいる。


 しかしながら、ヤルホス公爵家は家と家の関係で考えると、新興のゴーズ家との縁が「全く」と言って良いほどにない。

 そして、彼の家の爵位が上級侯爵へ陞爵する時の経緯で、ヤルホス家の当主は個人的な恨みを少々買っている可能性まである。


 ヤルホス公爵のあの時の発言(55話~57話参照)は、あの場にいた北部辺境伯経由で、ゴーズ家当主に内容を知られている可能性がそこそこ高い。

 要は、魔力を持たない欠陥品で、身の程知らずの辺境の成り上がりでしかない小僧に、それが伝わっていても何の不思議もなかった。

 そんな話なのだから、その可能性を考慮しなくてはならないのが、今のヤルホス公爵の立場である。


 まぁ、ヤルホス公爵がラックのことを「成り上がりの小僧」と見下し、そのように考えている時点で、恨まれていても当然なのであるけれども。

 そして、ここではあまり関係はないが、成り上がりは事実でも、ゴーズ家当主は小僧呼ばわりするには、少々違和感のある年齢になっていたりもするはずなのだけれども。


 相手を貶める形容詞がてんこ盛り過ぎるほどに、自身の思考に出てくる。

 そんな相手に嫌われずに好かれることなど、貴族社会では普通にあり得ないし、あってはならない。


 建前と態度や発言を場によって使い分け、いろいろと取り繕うのも貴族の嗜み。

 特に上級貴族に必要な嗜みではあるが、相手もそれを承知している。

 そのため、細部に滲み出る部分から、向けられている感情を自然に悟るのが常識となるのだ。


「そうか。つまり『カストル家はここでの決定を黙って受け入れるのが基本方針』なのだな? ならば良い。話を進めようではないか」


「話を進めるのに異論はないが、カストル卿がこの場にいないことを気にするのなら、第二王子がこの場にいないことも不自然だと思わないのか? 理由は察してしまうし、卿にはいない方が都合が良いのだろうがな」


 宰相はテニューズ公爵の発言から、彼がこれからの話の筋の肝要な部分に気づいているらしいことを悟る。

 付け加えると、それを「腹立たしい」と思っているのが、発言から伝わってきてしまっていた。

 何かを悟ったのはテニューズ公爵だけではなく、ヤルホス公爵も同様であったけれども。


 そんな流れで、宰相は叩き台となる案を披露し、当然の如くテニューズ公爵からのツッコミが入る。


「第二王子の王位継承権を二位として、王太孫だったヤルホス卿の孫の順位を一位に設定して王太子にする。内容は理解した。が、では、これまでの継承権の順位は何のためにあったのか? 道理が通らぬのではないか?」


「形としては、暫定一位に今はなっている。王太子の指名はされていないがな。今は王太子の座は空位だ。そして、『陛下が新たに継承権の順位を設定する』という流れであるから、形式は整う。陛下はまだ退位されていないので、『継承権の順位を決め直す権限』がありますからな。しかしこれは、実質、詭弁のような話と受け取られても文句は言えない。特に第二王子やテニューズ卿にはな。だからこそ、それを補うために、第二王子には国王代行で期間限定の王権を振るえるようにするわけなのだ」


 ざっと話を聞いた限り、ヤルホス公爵としては第二王子に改めて娘のシーラを嫁がせることには若干思うところがないわけではない。

 しかしながら、この話が進んだ場合に享受できる結果の予想は悪いものではなかった。


 娘であるシーラの配偶者が変更になっても、配偶者が代理の肩書とは言え、王権を振るう。

 娘は王妃代理となり王妃業務と次代の王妃の教育も行う。

 孫は王太子になり、娘を嫁がせるときの話の契約内容も少しばかり形は変わるが履行される。


 ヤルホス公爵的には、「第二王子が個人的に馬が合わない相手だ」という以外には、文句を言う部分などないのである。


「その話だと、暫定で一時的とは言え、王太子の正式指名はされていなくとも、第二王子は王太子。リムルは王太子妃。孫のフォウルは王太孫になる。それが慣例であり慣習だ。それを本人たちに瑕疵がないのに取り上げることになるわけだな?」


「まぁ、そうなりますな」


「第二王子については、期間限定で国王代理となるので、補填される部分があるだろう。本人的には王位に就けるわけではないから不満はあるだろうがな。それはそれとして、テニューズ家は第二王子の正妻としてリムルを出した。それでも、別の正妃を迎えて側妃扱いに落とすのだな? 一時とは言え、王太孫になったはずのフォウルが王になる可能性がほぼないのも、看過できない。これは、『テニューズ家へは契約不履行となっても構わない』という姿勢に見えるのだが?」


 テニューズ公爵は静かな怒気を発しながら、宰相へ問う。

 彼的には本音を言ってしまうと、「どう転ぼうと元々の話と大差がない」と思っているが、「それはそれ。これはこれ」の話だからだ。

 怒りを向ける姿勢を見せなければならない理由はちゃんと存在するのである。


 テニューズ公の視点からだと、リムルは正妃であっても側妃であっても、王家への影響力が元々大してあったわけではないのでどうでも良い話であるし、資質的に考えて娘に王妃が務まったとも思えない。

 孫のフォウルにしても、棚ぼたで王太子になる目が一時浮上しただけの話で、それがなくなっても別に困るわけでもない。


 但し、テニューズ家の当主の立場は、家として契約が守られないのを見逃すことはできないし、公爵家の面子の問題から黙って受け入れることはあり得ない。


 内心の本音がどうであれ、面子を守ることは重要なのだった。


「テニューズ卿の疑問に答える前に、一点確認がしたい。その点をクリアすれば、前提の継承権の順位変更の話が了承されると解釈してよろしいか? そうであるなら、『その問題を解決するための話し合いに移行したい』と考える」


「そう受け取ってもらって構わんよ。勿論、納得できる対価が得られることが条件だがな」


 ヤルホス公爵は二人のやり取りに口を挿まなかった。

 下手に発言すると藪蛇になる公算が高いからだ。


 そんなこんなのなんやかんやで、三者はたっぷりと時間を掛けて様々な意見を出し合ってゆく。

 落としどころを探る話し合いは、決着するまでにそれなりに長い時間を必要とした。

 全員がなんとか受け入れられる結論を得られるまで、根気よく長時間話し合いが続けられたのは、この話し合いを決裂させてしまえば、公爵家の現在の存在価値が毀損(きそん)してしまうことを、テニューズ公とヤルホス公の双方がちゃんと理解していたせいもある。

 勿論、それを理解していて、この話の決定を委ねてくれたカストル公にも配慮せねばならない。


 結局のところ、両公爵はどこかで折り合いをつけなければならなかった。

 そうである以上、我を通すだけにはならないのが幸いなのだった。

 そうして、97話で列挙された事項が結論として出され、話し合いは終わって解散となる。

 公爵二人は帰路に就き、宰相は陛下の元へ報告に走ったのである。




「そうか。公爵家が合意した決定であれば、問題はない。王位継承権の順位変更の決裁書にサインもしよう。だが、息子へは今夜中に伝えておけよ。それは宰相に任せる。あと、この決定内容だと、国王代理に王家の炉の稼働方法と、魔石の固定化について伝授自体は行うが、実務の引継ぎは可能な限り先延ばしするのか。離宮での隠居生活だけでは済まんようだな」


 国王は宰相からの最終報告を受けながらも、思考は既に「退位の時期をいつにするか?」の方へと向いていた。

 年齢的に、国王の決裁執務を行うのはきつくなりつつあるのは事実であり、そうする理由の一つではある。

 けれども、本音のところは、王権を次代に譲って責任から逃げたいだけだったりする。


 国王が「何の責任から逃げたいのか?」と言えば?


 それは「ゴーズ家に対しての報酬の案件」なのである。


 国王はどうにも上手く処理できる気がしない、この最大の難問を宰相は当然として、代理を務める息子か次代の王へと、押しつけて逃げる気満々であった。


 こうして、ラックが提供した原案を基にした宰相と二人の公爵の思惑で、第二王子の立場は激変したのだった。


 この話では出番のなかったゴーズ領の領主様。時系列的にはこの話の翌朝にカストル公爵邸にて、リムルからの手紙を受け取った結果、実妹に会うために王宮へと出向くことになる超能力者。神ならぬ身故に未来がそんなことになるとはつゆ知らず、深夜に物色していた家具から特注品と思われる巨大ベッドを発見して、「これはクーガにプレゼントしよう」と、緊張感の欠片もなく呟いてしまうラックなのであった。

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