表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/161

93話

カクヨム版93話を改稿。

「『飛行船の船長全員を妻として迎え入れたい』ですって?」


 ミシュラは、唐突且つ突拍子もないラックの発言に驚いていた。

 そもそも、最初から驚き自体はあった。

 執務室に突如現れた夫の姿に、彼女は通常なら作業中で戻ってこない時間帯であったが故にまずそれだけで驚かされたのだ。

 その事実だけで夫に、「緊急で伝えたい何事かが起こったのだろう」と、察しはついた。

 ラックが今見せている、ミシュラの知る少しばかり困った時だけ夫に表れる癖、特徴的な表情がそれを雄弁に物語っていたのだから。

 そうして、ミシュラの愛する夫が告げた内容は、彼女にとって全く予想外のことであり、それが冒頭の発言に繋がっていたのである。




「怒らずに、事情を冷静に聞いて欲しい。大前提として、僕には『彼女たちに惚れたとか、性的対象として囲い込みたい』という考えはない。そこは大事な点だから誤解のないようにお願いしたい。今回のこれは、『形式的に必要』と判断したからこその話だ。政略結婚ってわけではないけど、内実は限りなくそれに近いんだよ」


 ラックは困った表情のままで、ミシュラに語り掛けた。

 ゴーズ家の正妻は、「冷静に聞かなければならない」と、湧き上がる怒りの感情を抑え込もうと努力をしていた。

 彼女がそう努力しているのは、立派なことではあるのだろう。

 けれども、逆に言えば「そうしている時点で、もう既に失敗している」とも言えたりするのだけれど。


「ええ。わたくしにわかるように説明してくださる?」


「うん。順に説明する。ドクが飛行船の改造に着手したことは知っているよね?」


「以前に概略の構想だけは順調に進んでいた件ですわね? 飛行機の引き渡しの対価で得られた魔道具の組付けと、その稼働実験が行われていることは承知していますわ」


「地上での稼働実験段階で、レフィールが手を出し、彼女に魔道具が動かせることが判明した」


「何ですって!」


 初期の実験である以上は、いきなり大型の必要魔力が大きな魔道具を試していることがあり得ないのはミシュラにも容易に想像がつくし、理解できる。

 話の内容からは、「レフィールが二百を超える魔力量の持ち主なのだ」と察しもついた。

 しかし、それであれば、レフィールをゴーズ家の直臣扱いの家臣にすれば済む話となる。

 よって、その程度なら“妻にしなければならない理由”に該当はしない。

 つまり、ミシュラの視点からすると、この話にはまだ先があるのである。


「普通ならそこで、所持と使用が厳格に定められている魔力量の検査機の出番になるから、本来なら僕のところにまず連絡が来るはずなんだけれど、そうはならなかった。何故かと言うと、ドクが検査機を持っていたんだよね」


 魔力量を正確に計測できる機器は、王都だと王家と魔道大学校にしかない。

 それ以外だと東西南北に配置されている四つの辺境伯家が、それぞれに所持と管理をしていた。

 これは、遠い王都まで行かずとも検査をできるようにしているのがその理由だ。

 例えば、北部辺境伯領であれば、開拓領主から希望があれば機器の貸し出しは行っている。

 検査機の数自体は、一つしか持っていないわけではないからだ。

 但し、使用には魔力量二千が必要となるため、領主全員が希望するわけではないし、残念ながら全員が希望すればそれに応じるだけの数はないのだけれど。


 管理が厳格であるので、魔力量の検査機は、使えば使用回数と対象者のリストの作成が義務付けられる。

 機器側に使用記録が自動で残るため、それを誤魔化すのは難しい。

 付け加えると、機器に残る使用記録も、使用対象者のリストも、確認をしても測定された魔力量の数値の結果はわからない仕様となっている。

 それを知るのは検査機を使用した人間のみで、検査を受けた人間ですら結果を知らされなければ数値はわからないのだ。


 余談になるが、そうした制限が掛けられているのは、記録の流出の危険性を考慮した、ラックのご先祖様である賢者の拘りの仕様だったりする。

 けれども、「検査した人間が知った数値をどう扱うか?」で、情報流出の危険性が変化する事柄でもある。

 そのため、せっかくの賢者拘りの仕様も、実はあまり意味がなかったのかもしれないが。


 辺境伯からの検査機の貸し出し自体は、届け出れば概ね受けられる。

 しかし、借りていると月に一度の使用実績報告書の提出が必要となってしまう。

 つまりは、借りる側も管理が面倒だったりもする代物なのだった。

 それでもゴーズ領は、ミシュラがクーガを身籠った時以降、ずっと貸し出しを受けたままであるのだけれど。 


 ここでは関係ないが、周辺国の長には簡易検査が可能な検査機をファーミルス王国から贈与されている。

 それは、色と発光量で大まかな魔力量を判別できる機器だ。

 具体的には、魔力量が二百以上の者が手で触れると、それ以下の場合とは明らかに違う発色をし、更に色の濃淡と光の強さで魔力量を類推する仕組みの機器。


 簡易と称されるだけあって、魔力量の数値が正確にわかる性能ではないし、色合いの差や発光量の差が微妙だったりもする。

 要は、慣れているベテランでもなければ、それを見ておおよそでも魔力保有量を判別するのは難しいのであった。


 ちなみに、簡易検査のみしかできない検査機はそれなりに値は張るが、一応普通に売られている合法品。

 輸出の制限もされておらず、使用に当たっての必要魔力量は一でラック以外なら誰にでも使うことができる魔道具だ。


 それ故に。

 事例として多くはないが、人買い目的の行商人が持っているケースもある。

 但し、そこそこ高価なそれの所持がバレれば、行商の道中で盗賊に狙われて襲撃されかねないリスクも負うわけだけれど。


「ファーミルス王国がきっちり管理しているはずの魔力量の検査機を、貴方の叔母様が個人所有しているのは問題しかないような気がしなくもありません。でも、今はそれを脇へ置いておきましょう。で、レフィールの魔力量の検査結果は?」


「『一番船のレフィールが二千二百、二番船のルクリュアが二千、三番船のサバーシュが二千百の魔力量の持ち主だ』と、ドクからは聞いている。ちなみに彼女らの息子たちの検査結果は、全員百に届かない。平民としては高い方ではあったみたいだけど、その程度なら正確な数字を僕らが把握しておく必要はないでしょ」


 魔力量を聞いた瞬間、ミシュラは理解した。

 ラックが三人を妻に迎える理由は、過去に自らがテレスの魔力量を知った時に行った措置と、本質的には同じだからだ。


「『彼女たちを貴族籍に入れるための手段』というわけですか。そして、貴方の妾にしてしまえば、『魔力量目的の求婚を彼女らが受けることもなくなる』と。これは、そういうお話ですのね?」


「うん。まぁ平たく言うとそんな話だね。なので、ミシュラの許可が欲しいのだけど」


「事情はわかりました。他にそれ以上に有効な手段がない以上は、仕方がないでしょう。ですが、正式な夫人枠ではない以上、三人の扱いに差は付けますわよ? 夕食会への参加は当面許可しませんし、妻としての権力行使は妾に相応しいレベルに制限します。『貴方が彼女たちをどう扱うか?』までは制限しませんけれど、常識の範囲内でほどほどにお願いしますね。家内でも対外的な面でも、それなりの体裁は整えます」


 ミシュラの言い分は、三人の妾に対して厳しいようにラックには聞こえた。

 それでも、「その程度は仕方がない」と納得もできる。

 現状だと、トランザ村の館にはカストル家のロディアが滞在しているのが、そうする理由となるからだ。


 ゴーズ家の当主が、正妻や第五夫人までの妻たちと妾との差を、明確ではない扱いをして、それを他所に知られると問題になってしまう。

 厳密には、ロディアだけに知られるならば問題は少ない。

 しかし、彼女経由で外部にそれが漏れた場合に不味いことになってくる。


 その可能性をゴーズ家の正妻が未然に潰しに行ったのが、こうした対応となる原因であった。


 そんなこんなのなんやかんやで、ミシュラの許可が出た後は、事態がサクサクと進む。

 レフィール、ルクリュア、サバーシュの三人は王都の役所で然るべき手続きを滞りなく終える。

 そうして、ラックの妾としてあっさりとゴーズ家の一員に名を連ねることになったのだった。


 例え、ここまでルクリュアとサバーシュの二人は台詞すらなく、人物像が全く読者様に全く伝わらない女性だったりしても、そのような結果になったのである。


 いいね?


 尚、この話には続きがあり、ミシュラと船長たち三人の面談が行なわれた結果、当初のラックの「形式的にだけ」という主張は、女性側三人の強烈な要望により崩壊した。

 具体的に何がどう崩壊したのかと言えば、それは「夜のローテーション」のお話となる。


 結論から言うと、従来の夫人たちの日程六日の後、彼女らには一日完全休養日を設定し、そこが船長たち三人に割り当てられることになったのだが、それはゴーズ家の当主の意思を確認することなく、女性陣のみで話が勝手に進められて決められてしまった。

 なんだかんだと、その手の部分は決定権が完全に正妻の手の内となっている。

 その点は、歴史もなく伝統もないはずの新興の家であるのに、何故か既にゴーズ家の「不文律」というか、「しきたり」となっていたのだった。




 時系列的に状況を整理すると、秋にゴーズ家に次男のライガが生まれ、冬になって直ぐにカストル家の長男メインハルトが生まれた。

 その後、そう時間を置かずにスティキー皇国との戦争が始まって、短期間でコッソリと実質終戦となったのは年の瀬の足音が迫る頃の話だ。

 そうして、春を迎える前の、冬の終わりよりまだ少しばかり早い時期には、ラックの叔母様がゴーズ家に居座っていた。

 前述の船長さんたちの魔力量が発覚したのは、カールが魔道大学校に入学する直前の時期となる。

 

 特に触れる機会がなかったため、ここまでの話に記述が一切なかったが、ラックの第三夫人リティシアの連れ子の娘のルティシアは、既に魔道大学校に入学しており、この年の四月で最終学年に進級する。

 時はちゃんと流れており、子供たちは順調に歳を重ねているのだった。


 クーガはこの年の誕生日を迎えると十五歳となり、来年の春には魔道大学校に入学することになる。

 つまり、彼の豊富な魔力量はその時点で白日の下に晒される。

 その時が来れば、色々な厄介事が起こるのは確実であり、それまでにラックは地力を蓄えねばならない。

 

 尚、ラックの嫡男のクーガは未成年で婚前であるのに、魔道大学校入学前にミレスとの間の子供が生まれて来る予定がある。

 だが、将来彼に起こりそうな問題の大きさを考えると、それは些細なことなのだった。


 上級侯爵の爵位を賜っているラックには、爵位で言うと上にいるのは「王家と三つの公爵家」しかおらず、そこを黙らせるだけの力さえあれば良い。

 幸いなことに、北部辺境伯であるシス家とは良好な関係を保っており、ゴーズ家に無茶な要求が出れば、ラックの義父は擁護の口添えをしてくれるはず。


 ゴーズ家の当主には、ファーミルス王国から離脱する気は、現在のところ「毛頭ない」と言って良い。

 クーガの代以降になっても、ゴーズ領が独力で現行以上の生活水準を保ち、魔獣の脅威を撥ね退けることが可能にならない限りは、王国から離脱しての独立は長期的視野に立てば自殺行為以外の何物でもないからだ。


 ファーミルス王国から円満に独立し、現在あるスピッツア帝国や、バーグ連邦のような国と国との関係を王国に対して保てるのならば、独立王国の建国に一考の余地はある。

 けれども、独自の技術を抱えている今、そのようなことは起こり得ない夢物語であろう。

 まして、王族級の高魔力の持ち主がゴロゴロいるのが発覚すれば、婚姻の話も来るに決まっている。

 つまるところ、前提に大きな変化が起こらない限り独立はない。

 その点は、ラックの五人の妻たち全員の意見が一致しているのである。




「『飛行船の燃料の大元の原材料になる藻の生産は、この大陸の気候だと無理』か。残念だけど、そういう結論なんだね?」


 ラックはスティキー皇国へ技術習得に出した譜代の家臣扱いの娘から、中間報告を受けた。

 船体の建造技術も大切だが、運用に必要な燃料確保も重要な課題となる。

 但し、現行では戦時に鹵獲した分が大量に在庫としてあるため、現有している三隻の飛行船だけなら、フル稼働させても数年は平気だったりするのだけれど。


「ゴーズ領で量産可能な油は菜種油だけど、それでは代用品にはならないのかい?」


 おそらく無理だとわかってはいても、一応確認せずにはいられないラックだ。


「混合して試した結果、現行の皇国産の燃料八割に菜種油二割の比率までは、出力に若干の低下が発生するだけで運用自体は可能でした。ですが、それ以上の比率だと、内部での燃焼に問題が発生するようで、故障が頻発しました」


「当面は輸入と、2割混合で節約して使うしかないか。皇国に燃料を輸出する余力はあるんだよね?」


「はい。『皇帝の命が既に出ている』と聞いています。ゴーズ家への有力な輸出品として、フル生産体制が維持されています。皇国内での車両の燃料としても必要ですし、仮に輸出に回せずに余ったとしても、工業生産に必要なエネルギー源として流用も可能のようですね」


 報告内容から「燃料の目処は今後の継続課題だ」と判断したラックは、別の話へと話題を移す。


「飛行船の乗組員の訓練の方はどうかな?」


「製造の方と並行で、地上での訓練のみですが順調です。このまま行けば春の終わりごろを目処に、三十名がアナハイ村に移れます」


 乗組員向けの人材は、製造技術の習得に出している人材が、試験的に組み上げている動力機関を使用しての地上訓練を行っており、座学と大陸内での車両の移動での、天測航法の訓練もされていた。

 ゴーズ家に必要なスティキー皇国からの技術の移転は、報告を聞く限りは順調であったのだった。


 こうして、ラックは飛行船の運用の目処を立て、妾の問題も一応解決した。

 新たな問題が王都で発生しているとは露ほども知らず、足場固めに邁進する日々が続いていたのである。


 次話で青天の霹靂となる急報を受けることになるゴーズ領の領主様。在学中のルティシアが実弟のカールの入学後に、弟からミレス妊娠の情報を知って怒り狂う未来があるのを想像だにしない超能力者。神ならぬ身のラックは未来の出来事を知る由もないのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ