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69話

「『ゴーズ家に軍の招集命令と、機動騎士の予備機を含む余剰機体の供出命令が出された』だと?」


 北部辺境伯は、王都の宰相から届いた書簡の内容を把握して驚いていた。

 それは、ゴーズ家が王家の炉の再稼働に必要な災害級魔獣の魔石を二つ納入した時の条件が、一部反故にされた内容であるからだ。

 しかも、正当な対価を出して合法的に買い取った機体を、強制提供させるという理不尽極まりないオマケまで付く。

 こちらも、経緯からすれば理不尽な目に遭わせたことに対するお詫びで、賠償的な側面もあって認められた案件であったはずなのだ。


 現状が、ファーミルス王国にとっての緊急事態なのは理解できる。

 使えるものは全て戦力化したい国内事情もわからなくはない。

 だが、ゴーズ家に事前に打診したわけでもなく、お願いですらなく、「いきなり命令」はさすがにやり過ぎであろう。


 要求として命令を出した側の理屈は、「国の存亡の危機なのだから、無条件に全面協力するのが当然だよな?」なのであろうことは、シス家の当主には容易に想像ができる。

 けれども、それを言うのならば、元々、特別強力な災害級魔獣が出現してしまえば、国の存亡の危機を迎えることはあり得た話なのだ。

 勿論、「その出現個体の能力次第」という条件は付くけれども。


 そして、ゴーズ家に与えられた条件は、五十年間の義務の免除。

 この条件には、追加招集時以外では適用に例外が発生するような、但し書き的な特記事項は付け加えられていない。

 過去の事例から、三十年に一回程度の割合で災害級魔獣が出現することを考えれば、免除期間中に一回か二回は、国の存亡の危機クラスの事態になる可能性がゼロではなかったにも拘らずだ。


 起こった事態は、「過去最大級の国難」と言っても過言ではなかった王家の炉の停止。

 それを回復させた、「入手が絶望的に困難であるはずの、『固定化処理前の災害級魔獣の魔石二つ』を提供した」というゴーズ家の功績。

 それを以て、彼の家には以後五十年間の軍事参戦を求めないのを、ファーミルス王国は正当な対価として既に認めているのである。

 しかも、それは忘れ去られるほどに古い話などではなく、つい最近の話なのだ。

 要するに、だ。

 一見、理があるように見えてしまう前述の理屈は、「『軍の招集命令』の部分だけでも振りかざすのに無理がある」と、考えるのが常識的判断であるのだった。

 まして、それに付け加えて「供出命令」までもあるのだから、そんなものは完全に狂気の沙汰。

 これは正に、正気を疑うしかないレベルの話なのである。


「元は王都の文官連中の発案だろうが、陛下や宰相がそれを是として命令を下した以上は、責任はそちらにあるな」


 ゴーズ家に何故災害級魔獣の魔石が二つあったのか?


 その点に想像力を働かせることができない連中の無能さに、北部辺境伯は眩暈がするような錯覚に陥る。

 ゴーズ上級侯爵は、話のわからない人間ではない。

 寧ろ、素直にお願いされれば、甘い顔を見せる傾向すらある人物だ。

 それは、渋々ながらであろうとも、「通常ならどう考えてもあり得ない、アスラたちを受け入れる決定をしていること」で証明されている。


 北部辺境伯は考える。


 多分に感覚的な推測になるが、「上級侯爵はおそらく様々な特殊能力を持っており、『他人には達成困難な事柄でも、大して労力や危険を感じることなく、成し遂げることが可能である』のが、その理由の大部分を占めるのだろう」と。

 端的に言えば、「ゴーズ卿の寛容さは、持つ者の余裕」なのだ。


 シス家の当主は、ラックのことをそのように分析していたりする。

 けれども、娘婿が「漫画の主人公の影響を多大に受けていて、甘さはそこの部分から来るのだ」とまでは、さすがの辺境伯でも看破できないのであった。


 それはさておき、災害級魔獣の魔石の話に戻ろう。


 それを「持っていた」ということは、「何時(いつ)何処(どこで)で、どのようにして入手したのか?」を、王都の無能な文官連中は当然の疑問として持つべきなのだ。

 入手経路の詮索禁止は、王家への納入の条件に含まれる。

 よって、彼らはゴーズ家に直接問い質しての確認はできない。

 しかし、だとしてもだ。

 彼らが推測して答えを考えることまでは、禁止されていないのだから。


 時期的には、ゴーズ家が特例騎士爵として独立した以降にそれを入手したのは明白であり、ファーミルス王国はその対象となる期間内に、二度も災害級亀型魔獣の行方を見失っている。

 普通に考えれば、出所は馬鹿でもわかる話だ。

 もっとも、それには「単独の家の戦力で、災害級魔獣の討伐を成し遂げた」という、理解不能な点をまず受け入れなければならないのだけれども。


 現在のトランザ村は、亀肉の加工品をガンガン売り捌いており、シス家の当主の視点からすると、寧ろ「魔石の出所を、本気で隠す気があるのか?」を疑うまである。

 一応、肉の入手経路は別途あるように偽装はしているようなのであるが。


 要するに、北部辺境伯としては、「ゴーズ家は(『ラックは』と言い換えても良い)災害級魔獣を相手に、領地が持つ戦力に被害を出すことなく討伐が可能な戦闘力を持っている。戦闘実績が最低二回はあり、どちらも完勝している。その二点を想像力で補え! 更に、そういう実力がある家として扱え!」と、声を大にして言いたい。

 もっとはっきり言ってしまえば、「自殺願望でもあるのか? 馬鹿丸出しで喧嘩を売る要求を突き付けるのではなく、素直に頭を下げて助力を願え!」なのだ。


 しかし、現実は残酷だ。

 辺境伯の言いたいこととは、「遥か彼方」と表現して間違いではないほどに、現状は乖離してしまっているのであった。


 戦争で敗れる以前に、婿殿がファーミルス王国を亡ぼすのではないか?


 そんな未来を、つい想像してしまった北部辺境伯だったのである。




「さて、『五十年間の義務免除であるはずということで、それが覆される命令の理由の説明を求める』のと、機動騎士の供出命令に関しても、『期間と対価、損害が出た場合の補償など、必要な要件をきちんと出して貰わねば応じられない』として命令書を運んで来た者は追い返した。真面な返事を持ってくれば、こちらもきちんと『検討』すると言い含めて時間稼ぎには成功したと思うんだけどね」


 ラックは妻四人を集めて、対応策の知恵を出して貰えるように頼んでいた。

 今回の案件は、「手段を選ばず」という条件下であれば、戦争に勝つこと自体は超能力を行使する彼にとって、「無理難題」とは言えない。

 だが、大前提としてゴーズ家の当主は、「ファーミルス王国の形を維持したままで、次代へ資産を引き継ぎたい」のだ。

 特に、魔道具関連は一度失ってしまえば、魔獣への有効な対抗手段が激減してしまう。

 それは、「超能力を持たざる者には、先行きが暗い未来しか思い描けなくなるのと同義」である。

 ゴーズ領の領主としては、「自身がいなくなった後のこと」を考えるだけの頭脳は持っているのだった。


 実を言えば、ラックは過去に、魔石の固定化技術の秘密を盗み出そうとしたことがある。

 正確には、千里眼で秘匿技術を持つ張本人を見張って、実務を盗み視ることでその秘匿技術を得ようとした。

 これは、ヤバ過ぎて誰にも明かせない秘密だ。

 だが、その行為の結果は散々だった。

 結局、時間を浪費しただけで終わったのだ。


 じっくりと視ていても、何をしているのかがそもそも理解できない。

 そして、自身で視た通りのことを、わからないなりに一応真似てみても、結果を再現することもできなかった。

 念のためにと、四人全員分を視て試してはみたのだが。

 おそらくは、視ているだけではわからない細かなノウハウがあるのだろう。

 当たり前だが、それは尋ねて教えて貰えるものではない。

 そもそも、尋ねることすら許されないのだ。


 もし、接触テレパスを使うことができたなら、話は変わるかもしれない。

 しかし、現実問題として、国王陛下と公爵家の当主三人の全員から、別々にそれを使って探り出すのは無理難題を通り越して不可能だ。


 ひょっとしたら、一人くらいは幸運に恵まれて、秘密を探り出すことに成功するケースもあるかもしれない。

 しかしながら、この技術は四つの工程の秘密が全て解明されなければ意味がないのだ。


 ラックは超能力を駆使しても、簡単には暴き出せない秘匿方式に、ご先祖様の考えだしたそれに、感服するしかなかった。

 完全に脱帽である。

 もっとも、技術継承の方式には若干の疑念を持っていたりするのだけれど。


 ラックは視ていて思ったのだ。

 思わず口に出して、「これ、技術を伝える前に当主が急死でもしたら、即詰むんじゃないか?」と、言ってしまうほどに、視ている対象がやっていることは複雑であった。

 一応、「そういう時のための保険があるのかもしれないけど。きっとそれぐらいあるよね?」とも考えはしたのだが、残念ながらその片鱗を探し出すことすら叶わなかった。


 ないものは見つかるはずがない。

 当り前である。


 ご先祖様が、「技術継承が途切れるなら、それはそれで仕方がない」と開き直っていたことを、単なる人の身でしかないラックは知る由もない。

 真実は偶然に偶然が重なって、奇跡的に継承が続いただけ。

 けれども、賢者の偉大な実績は、そのやばい事実を覆い隠す幻影となる。

 そんなわけで、超能力者はそこへ思い至ることはないのだった。


「往復の時間と、先方で対応策を考えて答えを捻り出す時間。最短なら明日の夜遅くには戻ってきますわね。機体の話をまず考えましょう。国の言い分通りに出すとして、それが『貸し出し』としての提供なのか、文字通り『差し出せ』なのか」


 ミシュラは問題を切り分け、答えが出しやすい部分から先に話を進める。


「わたくし、フラン、テレスの分で下級が三機。当家に留め置く意味でロディアの最上級、アスラの最上級で二機。問題はクーガの分ですわね」


「目の前で使用中だと見せれば、クーガの使用中の機体を無理に持って行くことはできまい。搭乗者の詮索は、回答拒否しても問題はないはずだ。どうしてもと粘られたら、『身内が事前練習を兼ねて、領地内のみでの運用だ』と逃げてしまえば良い」


 フランは、「現物が目の前で動いていれば、納得させられる」と意見を述べる。

 まぁ、その理屈を押し通すならば、その場に別でロディアとアスラがいることを見せる必要もあるわけだが。


「そうすると、最上級は必要魔力十八万を一機を出すのか? アスラ用に持ち込まれた機体は十五万の必要魔力だったはずだが」


 リティシアは、「一機は未使用として出す前提ならば、残す機体をどちらにするのか?」を問題とした。


「うーん。そこは本人に選ばせるよ。フラン。悪いがあとで下級機動騎士と一緒にビグザ村まで送るから、アスラを最上級の機体ごとこちらへ移動させるよう話をつけてきてくれ。勿論、僕の指示書も渡すけどね」


 ミシュラはさっさと夫のサインを貰うだけで済むように、書面の作成に入っていた。

 そこには、話に出てもいない娘のニコラについても記載されている。

 要は、「娘を連れて来るかどうかは自由だが、この国は戦争状態に突入しているので、それを加味して考えるように」とまで書き込まれていた。

 彼女の仕事は早い。

 そして、上質でもある。


「最初の命令の時点での王国の腹積もりは、『貸し出し扱い』ではなく、『召し上げだった』と考える。そうでなければ、なんらかの条件が付いていたはず。まぁ、『出される機体を運ぶ人員の手配もあるので、機体数を確認してからそこの部分を詰めるつもりだった』と、後付けの見苦しい言い訳がされるでしょうね」


 エレーヌも意見を述べる。

 彼女は、「最初は無償で取り上げる気であったが、一旦追い返されたことで、それがなかったことにされる」という、辛辣な見解だ。

 だが、しかし。

 ラックもそんな見解を聞かされてしまうと、「そうだろうな」と納得してしまう話となり、苦笑いするしかない。


 そんなこんなのなんやかんやで、ラックの四人の妻と話し合いは終わった。

 最終的に、「倉庫で寝ている機体は有償貸し出し」と、「機体に損害が出た場合は、修理もしくは同等以上の代替機での返却」の二つの決定がなされ、「招集に応じるかどうか?」については、ゴーズ家の方針をゴリ押すことが決定されたのである。


 ゴリ押しとは、具体的にどうするのか?

 

 ゴーズ家が持つ戦力は遊撃扱いとし、独自運用でスティキー皇国と戦う。

 もしも、戦後に戦果証明ができなければ、爵位以外の現在の特権の返上。


 要は「参戦はするが、使い潰されるような命令は聞く気がない」という、条件を突き付ける形だ。

 勿論、無償でその条件を通すつもりはゴーズ家にはない。

 よって、「履行に不備があった場合には、『特権の返上』」という話が追加されるわけなのだ。


 返上される“かもしれない”特権の詳細は、百年間の分割払いとなった金銭報酬の王国の未払い分や、五十年の義務免除期間の残存部分。

 もしも、ゴーズ家が戦わず、軍の招集に応じた場合に予測される応分の負担と比較して、「『不当に』戦果を上げる働きをしていない」ならば、それらを無効とする条件を付けての話となる。

 但し、戦果証明が成された場合、「決められていたはずの特権を都合よく反故にしてきた責任の所在と、それについての賠償を求める」のであるが。


 ラックは、南部辺境伯領の領都の惨状を現地で確認している。

 それ故に、彼は王都の連中が求めるであろう「招集される軍への三機の戦力の提供」を選ぶことはできなかった。

 ロディアはカストル家の人間で客人であり、この領地のために戦う理由はない。

 非情な言い方をすると、ゴーズ家の当主が「『死なせても構わない』と言えるのは、アスラしかいない」のである。

 つまり、三人選ばなくてはならないが、残りの二人が決定できない。


 だからこそ、ゴーズ領の領主様は、妻たちの知恵に従い、拒否でも承諾でもない第三の道を行く。

 ラックは戦後に領地としての戦果を王都の連中に見せつけることで、きちんと戦ったことを証明する意向。

 勿論、当主として、大切な人たちを危険に晒す気などはさらさらない。

 アスラに関しても、積極的に「死んで欲しい」と、考えているわけではない。


 結局のところ、超能力者は「いつも通り、ワンマンアーミーで無双する考え」でしかなかったのだった。


 こうして、ラックは翌日の深夜に訪れた王都からの使者を迎え、ゴーズ領の決定事項を伝えた。

 その後、即座に護衛を付けて、使者を送り帰したのである。


 戦闘前から、勝利を確信し、既に戦後のことに思いを馳せるゴーズ領の領主様。捕らぬ狸の皮算用的思考ではあるものの、「さて、反故にした分をどう償ってくれるのか?」と、呟く超能力者。思わずそんな独り言と、悪い笑みがこぼれるラックなのであった。

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