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33話

「『ガンダ領で最上級機動騎士が稼働しているのが確認された』だと?」


 北部辺境伯は領内の情報部門の配下から、行商人が雑談の中で何気なく喋った内容の報告を受けていた。

 衝撃的な内容である。


 シス家の当主は領内の各所に情報源を持っており、定期的に気になる情報を上げさせている。

 今回はそのうちの一つに引っ掛かった話であった。


 シス家はフラン経由での要請に応え、ゴーズ領への機動騎士の機体の移送を請け負った過去がある。

 そのため、各機体の必要魔力量を把握している。

 それだけに「操縦者がいないはずの、最上級機動騎士が稼働している」となれば、看過できる話ではない。


 下級機動騎士辺りまでなら、時折現れる変わり者の貴族の旅人が何らかの理由で機体を借り受けて稼働させる可能性はある。

 しかし、対象が最上級機動騎士となると話は変わって来るのだ。

 辺境伯家や侯爵家以上の家の者で、豊富な魔力量を受け継ぐことに成功した者に限定される話であるので、それが可能な人数が元々限られているのだから。


 勿論、魔力量二千以上で下級機動騎士を操れる人数だって限られてはいる。

 だが、十五万以上の魔力量持ちは、王族も含めて年齢も性別も無視して人数を合計しても、二百に届くことがないくらいに桁違いで少ない。


 その人数は、幼少で体格的に操縦が不可能な者や、高齢で激しい機動を行うのは厳しい人材も数に含めての話であるから、実際に戦力として稼働できる頭数は、総数の三割~四割が関の山である。

 つまり多くても八十機程度しか戦闘に投入することは不可能というわけだ。

 まぁ、“それだけの数の最上級の機体を用意できるのか?”という問題が別で存在するけれども。


 高魔力持ちの操縦者の総数が知れているほどに少ない。

 その事実に対して、北部辺境伯の立場ともなれば、「ほぼ全員」と言って良いレベルで、最上級機動騎士が操縦が可能な者の情報を持っている。

 少なくとも魔力量、名前、年齢、性別の四つの項目だけは、完璧にシス家の当主の頭の中に入っていた。

 そして、名前がわかれば自ずと爵位と家名もわかることになる。

 ファーミルス王国の貴族のミドルネームの部分は、爵位を簡略化したものだからだ。


 移送した機体のうちの二機の最上級機動騎士は、稼働に十八万か二十万の魔力量を必要とする。

 今回目撃されたのがどちらの魔力量の機体かまではわからない。が、ギリギリのラインで十五万を超えているだけの人材では、どちらでも稼働させることはできない。

 よって、操縦している候補者は更に人数が絞られる。


 そのような人材は高い地位にいるため、辺境伯家の関係者を除外すれば、辺境へ来ること自体が稀だ。

 その上、単身で辺境地域へ訪れるような地位でもないため、やって来ることがあれば団体となり、どうしても目立つ。


 つまるところ、この件は北部辺境伯にとって、「搭乗者に心当たりが全くない」という不気味な話となっているわけなのだ。


「『最上級機動騎士を購入した以上は、何らかの形で使える当てがあるのだろう』と考えてはいた。てっきり『次期ゴーズ家当主か、現当主の娘四人のうちの誰かが“将来”使うために用意した』と思っておったのだ。あの家は子供の魔力量を明かさないし、フランに娘の婚約の話で水を向けても『それはゴーズ家の当主が決定することなので』と躱すばかりであるしな。そして、最年長の子であっても年齢はまだ十歳だったはず。いくら何でも操縦するには体格的に無理があるだろう。確か、長男は『父親に似て小柄な体格だ』という情報もあったしな」


 いくら情報をしっかりと集めているシス家の当主であっても、ラックが超能力を使っている事実は知らない。

 いや、この場合は「ゴーズ家の情報統制が上手く働いているのだ」と、褒めるべき案件ではあるのだろう。


 北部の魔獣の領域を抑え込む。

 北の要の役目を果たす家の当主は、過去にゴーズ家やガンダ家の領を囲む堅牢な長城に対して、非常に強い関心を抱いていた。

 しかしながら、建設方法に興味があって人を出して調べた時、何ら有益な情報を得ることはできなかった。


 ゴーズ家の長城建設は人目を避けて行われている。

 その建設中の領内に人を出して、不自然な形で監視するのは難しい。

 ならばと、目撃者を探して情報を得ようとしても、「ある日ある朝、気づいたら、立派な壁ができていた」という全く信じられないような話しかする者がいない。

 丁寧に調べてもそんな状況なのだから、どうしようもなかったのである。


 また、ゴーズ家に嫁に出したフランにその件について尋ねても、「家の秘事です」としか答えが貰えない。

 更に言えば、「シス家から仕事として、長城建設工事の発注可能か?」と、尋ねてみても、「現状は自領の整備で手いっぱいで不可能です」と、至極当然の話になってしまうのであった。


 まぁシス家としては、ゴーズ家にこれ以上借りを増やすわけには行かない。

 なので、「ええ。発注されれば受けますよ」と、返答をされても、それはそれで微妙に悩んでしまう話になりかねないのであるけれども。


「父上。私は機体を運んだ時に、ゴーズ家の次期当主であるクーガ君と会う機会がありました。見た目は普通の範疇に入る子供でしたよ。精神年齢が高そうな、利発な子供でしたけれどね。『まだ十歳なのに、二十歳を超えている婚約者が二人もいる』という話には驚かされました。が、あの見た目の年齢に似合わない、『大人びている』と言うか『異常』とも言うべき知能の高さや物腰は、『婚約者が歳の離れた成人だから』というのもあるのでしょうか? その二人は姉妹でゴーズ家の養女になっている娘たちでして、調べてみたら魔力量は四百と二千でした。私はてっきりクーガ君の魔力量が低いので、『男爵位の維持が特例になっても大丈夫な嫁を自家で確保したのだな』と思っていましたが、それは間違った認識だったのでしょうか?」


 同席していたシス家の次男は、父の言を聞いて思わず口を出してしまった。

 この場の彼は今後の勉強のために同席を許されていただけで、本来発言権はない。

 そうであったにも関わらず、彼が特に叱責されることもなくスルーされたのは幸いであったのだろうか?

 単に辺境伯当主に、次男が試されているだけの可能性もあるけれど。


 現状の後継ぎ関連の話は、サエバ領を任されている長男がシス家を継ぐことが決まっており、次男の立場的には元々所謂部屋住みのスペアの要素が強かった。

 けれども、現在は分家として伯爵家を興し、近い将来長男と交代する形でゴーズ村に赴任する予定になっている。


 それは、長男の家に豊富な魔力量を誇る後継ぎ候補が、既に生まれていることが原因だ。

 辺境伯家での次男のスペアとして必要性が、低くなってきたための仕儀なのであった。


 シス家の次男の魔力量的には、爵位は侯爵であってもおかしくはない。

 だが、北部辺境伯家の分家として下に置くには、建前上、辺境伯と同格の侯爵になるのはまずい。

 また、貴族に叙せる権利を過去に国から賜っている中で、一番上の爵位が伯爵だったというお家の事情もある。


 母親が違う三男は別として、長男と次男は兄弟仲が悪いわけでもなく寧ろ良好。

 シス家の次男は「自分より魔力量が秀でている兄を立てて、己は当主を支えて行く」という生き方に納得している。

 故に、特に問題が起こる可能性は低いのである。


「いや、可能性の話としてはお前が考えたことは常識的だ。だが、『ゴーズ家は調べてもわからない事柄が多い』という点を加味して考えた場合は、異なる答えが出る。これはもう感覚的な話で勘のようなものであるから、お前の考えはそのままで良いのだ。北部辺境伯を継ぐのであれば、こういった勘も大切だ。が、支える立場ならば堅実な常識に重きを置くべきだからな」


「わかりました。『当主の勘で物事が決まりそうな場合には私が諫めつつも、時には受け入れて最善の対処方法を共に考えて行くのも必要だ』ということなのですね? 難しい役どころですが頑張って熟せるように努力致します」


「ああ。それで良い。さて、今回の件。フランから聞くゴーズ家の当主の為人(ひととなり)からは、『金で雇える操縦者を信用して、領の整備をさせるために最上級機動騎士を貸し出す』とは考えられない。使える機体は複数あるのだから、もし貸し出すのであれば下級や中級が妥当であろう。それですらも、実行に移すとは思えないがな。つまり、『最上級機動騎士を彼の身内が操縦している』と判断するしかない。そうなると、どうやっているのかはまったくわからんが、子供に操縦させている可能性が高くなる。順当に行けばそれは次期当主の長男なのだろう。本来、絶対ないはずの状況が正解だと考えるしかない結論になるわけだ。全く以って、勘として片付けるしかない暴論であるな」


 シス家の当主は、自虐的な笑みを浮かべながらも最終的な結論へと至った。

 そして彼自身は“暴論だ”と理解しているのにも拘らず、ちゃんと正解を引き当ててもいる。

 つまりは、「当主としての資質」と言うか、「能力」と言うか。

 そういった部分が、「高い次元で纏まっている」と言えるのだろう。


 今回の状況を可能性の話で考えるのであれば、ゴーズ家の当主や正妻の実家は公爵家なので、「そちらから応援が出された」と、判断するのが最も自然である。

 実際、もし王都で同じ目撃情報が流れた場合、どうなるのか?

 それを聞いた貴族や役人の全員が、「ああ、実家の公爵家がこっそり援助したんだろう」と、事実とは異なることを普通に考えて言葉にしてしまうだけであろう。


 そして両公爵家は、この案件の事実確認を他者からされた場合、“沈黙を以て答えるだけ”なのは確定だ。

 肯定しても否定しても、それだけでは済まずに追加で細かな質問を受けてしまえば、答え難い困った事態に陥る可能性が高過ぎる。

 よって、その対応は当然の話ではある。


 いくら血縁とはいえ、公爵家にある最上級機動騎士を動かして、辺境にある男爵家を援助をしてしまえば大事(おおごと)だ。

 そうなれば大っぴらな話となり直ぐにバレる。

 しかし、「現地に機体があって、搭乗者だけをこっそり派遣するのであれば可能なのではないか?」と、家同士の関係性や状況を深く知らない人間は、それっぽい想像して納得してしまうのだ。


 勿論、“搭乗者を派遣すること”それ自体も決して簡単な話ではない。

 けれども、この場合はそれっぽい答えが出て、答えを知った側がそれに納得してしまえば、その時点で終わってしまう話となる。


 だがしかし。

 シス家では、フランを嫁に出す前とその事後とで、二度に渡って綿密な調査がされていたのだ。

 その調査結果からは、“二つの公爵家がゴーズ家を援助をする可能性”などというものが、完全に切り捨てられている。

 それが北部辺境伯家の、当主以下全員の共通認識となっているのであった。


 加えて、ゴーズ家の夫婦の両者共に、「高魔力保有者への独自の伝手がある」とは考えられない。

 学生時代に上位のクラスにいたのであれば、或いはそういうこともあったのかもしれない。

 だが、「夫は最底辺、正妻は男爵家のランクのクラスにギリギリで引っ掛かっただけ」というのは有名な話だ。


 二つの公爵家の要らない子扱いの学生であった二人に、イジメであったり、無視したり、最大級の無関心の対応をする者はいても、積極的に係わろうとする者は皆無であった。

 それはもう、絶望的なまでに誰もいなかった。


 良い家の出で高魔力保有者なら尚更の話であり、ゴーズ夫妻にはそういったご学友など存在しないのである。


 だからこそ、彼らはお互いがお互いを必要とする、強固な相互依存関係ができ上がったのだから、「世の中、何が幸いするかわかったモノではない」とも言える。

 けれど、それはここでは関係のないお話となるのだった。


「現在は特に規則などで縛られているわけではないのと、今までは物理的に体格の問題で子供が機動騎士を操縦するなどという事態はあり得ない話だったので、今すぐどうこうというのはないかもしれません。しかし、『精神的に幼い、実際に幼いのだからそれが当然ですけど、子供に機動騎士を扱わせるのは危険だ』と考えます。この件が広まって『搭乗者は誰だ?』と、追及されるような事態が発生すれば、年齢制限や体格制限などの新しいルールが作られるかもしれませんね」


「前提が『操縦者が予想と合致しているのなら』の話になるが。各所から流れて来る噂話を聞き及ぶ範囲で総合的に判断するのであれば、今回の件に限って言うと『現実的なトラブルが発生する可能性はない』であろうな。『神童と言って良いレベルの聡い次期当主だ』と、評判だからな。彼は」


 そんなこんなのなんやかんやで、シス家においては何の証拠がなくとも、推論を以てガンダ領で稼働していた最上級機動騎士の操縦者を特定し、親子間の認識が共有された。

 そこまでで、この話題に関する話は打ち切られた。

 どんな過程を辿っていようとも、最終的に正解の答えに辿り着いているのだから全く問題はないのである。

 但し、この件が確定したとなれば次の問題が出て来る。


 最低でも十八万以上の魔力持ちがゴーズ家の次期当主になるのだから、シス家としては第一夫人か第二夫人を送り込みたい。

 けれど、「年頃が合う、魔力量も釣り合う女性の当てが全くない」という厳しい現実がある。


 また、王都にいる宰相が、別の切り口で最悪の事態の想定からクーガの魔力量を推察することに成功している。


 宰相と北部辺境伯の二人は、奇しくも同じ問題に直面することになるのである。


 こうして、この話で出番がなかったラックは、息子の嫁問題を勝手に悩んでいる二人がいることを知らないまま、領地開発に勤しむお仕事を続けていたのだった。


 機動騎士への乗り降りを、他人に見られるわけには行かない息子を持ってしまったゴーズ領の領主様。ガンダ領の作業に従事していても、ガンダ村へは一切顔を出さずにトランザ村に帰ってしまうクーガの“暴挙?”に対して、遂にブチ切れたルティシアへの対応を、リティシアから懇願された超能力者。息子の恋人の一人が滞在する部屋を、トランザ村の館に用意させられる羽目になったラックなのであった。

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[一言] そんなこんなのなんやかんやでクーガが主人公の番外編が・・・
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