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24話

「『リティシアに捕縛命令が出ていて、王都へ連れて行かれた』だって?」


 息を切らせてラックの執務室に駆け込んできたフランが、ラックに真っ先に伝えた重要伝達事項。

 それは、リティシアに対して、“逃亡の嫌疑が掛けられた結果”の事案発生であった。


 リティシアが復興作業に従事していた集落跡地で、彼女と同様に作業依頼で拘束されていた二十六名。

 その全員の貴族家からの問い合わせに、ファーミルス王国の軍部は困惑した。


 件の復興作業従事者への解散命令は、“既に”伝令が出され、伝えるために走った者は“二十七名全員”に直接伝えた事実が確認できている。

 何故なら“個人個人の署名がされている命令受領の確認書”を持ち帰っているのだから。


 それが七日前の出来事であり、いくら何でも、もう全員が各自の領地に帰還していないとおかしい。

 中には遠方の貴族が混じっていたかもしれないし、現地からの出発が遅れた貴族もいたかもしれない。

 しかし、数人の話ならともかく、未帰還者が二十六名もとなると「何らかの異常事態が起こっている」としか考えられなくなる。

 各領地側としても、“招集に応じていた当主に解散命令が出されたこと”は通達されていたため、帰還を心待ちにしていた。

 だが、四日以上経っても当主の帰還が実現していなかった。

 そのため不審に思い、各々に問い合わせを行ったのである。


 そんな経緯があって、軍部からの急ぎの命で調査に人が出された。

 その結果、調査目的地の集落跡地では、荒廃した土地と戦闘の痕跡、スーツや機動騎士の一部が残骸として発見されたのであった。


 その発見により、「作業従事者は全員が死亡した」と考えられ、王都に戻った調査員から、確認された現地の状況の報告が上がる。

 この報告が上がったことで、“当主たちが自領に戻っていない理由”は判明したわけである。が、それはそれとして、「明らかに異常事態で緊急事態でもある」と考えられた。


 起こったであろう戦闘の“相手()の姿”の確認はまだなされてはいない。

 けれども、戦闘の痕跡の状況から見て、災害級の魔獣が存在するのは確実であった。


 これは、招集された対災害級魔獣討伐軍が、規定通りの日数で解散した後の話となっている。

 そのため、犠牲が出たのは仕方がないことではある。

 しかし、裏を返せば「規定の日数内で周辺にいたはずの災害級魔獣を、発見することすらできなかった失態の証明」でもある。


 実際は後から来た別の個体の話で、「対災害級魔獣討伐軍の面々の失態だ」と責められるのは筋違いも甚だしく、実に気の毒な話でもある。

 しかしながら、その事実を知るのは、“ラックが既に災害級魔獣を倒しているのを知っている人間だけ”となるのだった。


 そうして、慌てて別の調査隊が出され、結果として「未帰還の彼らは現地で巨大種と戦って、殲滅させられた」と結論付けられるに至る。

 だが、一人だけ、「帰還していない」という問い合わせがされていない者がいた。

 ガンダ領から後見人の立場で出た、リティシアである。


 当初軍部は、「単にガンダ領が、まだ問い合わせをしていないだけであろう」と考えた。

 それ故に。

 軍部は「ガンダ領への招集者死亡の連絡をせねばならない」ということに気づき、それを実行する。

 そうして、彼らは“リティシアが既に自領に戻っており、存命である”という事実を知るのであった。


 同時に解散命令の知らせを受けているにも拘らず、全員死亡ではなく、リティシア“だけ”が生き残っている。

 その事実が“指し示す”と推定できる事案。

 それは、「他の全員が戦っている時に、一人だけで逃げだしたからではないのか?」であった。


 ガンダ領から戻った連絡員の報告内容を聞いた軍部のとある人物。

 彼は、たった一人の生存者に対して、“戦場からの逃亡説”を考えた。

 その彼の考えは「もし、そうであったならそれは許されることではない!」とまで発展する。

 彼はリティシアを軍上層部に告発し、それを受けた上層部は捕縛命令を出すに至った。


 この一連の状況推移が、フランから報告を受けたラックの冒頭の発言に繋がって行くのである。


「リティシアは言ったんだ」


「何を?」


「『他の共に作業に従事していた貴族より先に現地を発っただけで、戦闘中の逃亡などしていない。そして、私の主張が嘘だという証拠、即ち戦闘が発生した時に現地に私がいたことを証明する証拠は出せないはずだから、嫌疑は直ぐ晴れる。私が逃亡などという卑劣な行為した事実はないのだから、証拠もあるはずがない』とな。彼女はそう言って、素直に捕縛に応じて連れて行かれた。私は偶々、彼女の不在時の話で引継ぎ事項があったため、その時その場に居合わせたんだ。だから、ことの経緯を知ることができた」


 フランは悔しそうに言った。

 その場にいたのに何もできなかったことが切なく、辛かったのであろう。


「僕にはよくわからないんだけど、解散命令が出たからリティシアはそれに従って帰っただけだよね? 『戦闘義務』って発生するの? 仮にだ、もし魔獣との戦闘が発生していたとしても、その場に居合わせた場合、『参戦義務』があるの?」


 これまでは横で黙って聞いていたミシュラだった。が、ラックの疑問を受けて、さすがにここで口を開く。


「復興作業が依頼されての作業中ならば、『害獣退治』が仕事内容に含まれるので『参戦義務』があります。ですが、聞いている状況ですと、解散後のお話ですから『戦う義務』はないです。ただ、現実問題としてその場に居合わせて、『全員で逃げる』のではない場合、結果として足止めをしたように見える状況の人間が死んだのなら、生き残った人間は遺族から冷たい視線を向けられるでしょう。そして、今回は復興作業自体に問題がありますから、イレギュラーな扱いになる可能性があります」


「そうだな。後は作業従事者の中に、指揮を取れる責任者が存在したかも重要になる。『命令権』というか『命令系統』というか。そのあたりが明確にされていない場合は、揉める案件になる」


 説明されても「今一ピンとこない」というか、「実感として理解できない」というか。

 そんな状態に陥っているラックは、「最終的な判断を自分ですればそれで良い」と開き直ることにした。

 つまりは、「『どうすれば良いのか?』を、妻二人に聞いてしまおう!」なのである。


「今の状況だと、『僕は何をどうすれば良い』と思う? 二人ともそれぞれ考えがあれば聞かせて欲しい。僕の判断材料にしたいから」


 ものは言いよう。

 この場合、「最終判断の責任は自分にある」と明確にしておけば、色々な意見は出やすいのだ。

 ラックは妻たちの知恵に頼ることが多いので、角が立たない言い方をよく知っていた。


「貴方。まず、『リティシアの身柄返還要求』を出さねばなりません。それと並行して、『彼女を捕縛した理由の根拠となる証拠の提示』を王都で求めるべきです。後の対応は王国や軍部の対応次第になります」


「それに付け加えて、『リティシアたちが復興作業に従事させられた経緯を、明確に書面で出して貰うべき』だ。大元の経緯がおかしいからな。『シス家からも、ミシュラが言った話も含めて確認をして貰うように要請するべき』だろう。私は今から直ぐに養父への手紙を書く」


 そんなこんなのなんやかんやで、妻たちからの話を元に、ラックは決断を下す。

 テレスをニューゴーズ領の守りに残し、フランをガンダ領でカールの補佐と防衛戦力という名目で派遣する。

 二つの領の執務は実質フランに任せる形だ。

 但し、超能力者が随時千里眼での状況確認を行い、“緊急事態で必要ならば直ぐにテレポートで戻る”という条件が付く。


 ミシュラは下級機動騎士でラックと共に出る。

 二人の行動としては、シス家にフランの手紙を届けた後に、王都に向かう形だ。


 方針が決まれば彼ら三人は即座に準備へと動き出す。

 そうして二時間後に、ラックたちは王都に到着していた。

 テレポートでの移動は早い。

 そして今回に限って言えば、急ぎ過ぎである。


 彼らが王都に着いた時、リティシアを捕縛した一行は、まだそこに向かっている最中であったのだから。




「お尋ねの件なのですが、まず、『リティシア様が復興作業へ従事した件』につきましては、現在のこちらの記録上は、第三王子の呼びかけに自主的に応じて参加したことになっています。ですが、この件は北部辺境伯からの告発により調査中案件です。ですので経緯の書面は今は出せないことになっています。それと『彼女の身柄の返還』について。確かに捕縛命令が出ているのですが、まだ捕縛されていませんので返還の要求の受付が不可能です。『捕縛理由の根拠となる証拠』は、『本人が署名した解散命令書』です。『未帰還の推定死亡者全員と同時に署名されている以上、同じ時期に現地にいたことは確実で、なのに一人だけ無事なのはおかしい』と、そういう話になっています」


 ミシュラと共に窓口で要求を突き付けたラックは、担当者から事情説明を受けることはできた。

 但し、それが「納得できる説明であるかどうか?」という点は、別にしてだが。


 そのような状況で、担当者の言いように、今度はミシュラが言い返す。


「解散命令書に署名した時点で、現地での全ての義務から解放されているはずです。ですのに、『逃亡』という話になるのはおかしいです。それと、『一人だけ無事なのがおかしい』という主張にも穴がありますわね。少なくとも、もう一人以上無事な人がいるではありませんか。その命令書を持って帰って来た人が、何人で現地に訪れたのかまではわたくしにはわかりかねますが、最低でも一名は無事に戻っているのですよね?」


「現地での義務のお話をさせていただきます。貴族には“国外”で同胞が窮地に陥っている現場に遭遇した場合、救助義務があります。ですので、『全ての義務から解放されている』という貴女の主張は、このケースでは通りません。命令書を持って走ったのは二名ですが、確かにその二名は無事に帰還しています。ですが、署名された命令書を持って直ぐに現地を出た人間と、そこから帰還の準備に入った貴族とが同じ扱いにはなりませんよ」


 担当者の言い分は、復興作業に従事していた人員が災害級魔獣に襲われた時に、リティシアが現場にいた前提の話になっている。

 しかし、そうではないことは、視ていたラックは知っているのである。

 もっとも、「僕はそれを視ていました!」とは言えないのだけれど。


「私たちはリティシアから『命令書に署名後、直ぐに現地を発った』と聞かされています。そして、それが『嘘だ』という証拠はないですね? 彼女の主張する、『直ぐに現地を発った』のが事実であれば、伝令で出されたと思われる二名の方と同様に無事であっても不思議はないですね? 今までお聞きした話からではそうとしか理解できませんが、それでよろしいですか?」


 ラックは重要な点の確認を担当者に迫る。

 この確認事項への彼の返答いかんで、リティシアの運命が左右される可能性があるのだから当然だ。


「常識的に考えて、『準備なしに即、現地を発たれた』という主張は無理があると考えます。ですが、その主張が『嘘だ』と断定できる物証はありません。しかしながら、逆に言えばその主張が正しいという物証もまたありません。どちらにも物証がない以上は、状況証拠を積み上げる形になるかと思います。『軍部の判断は、今のお話で覆ることはない』と私は思います。争うとしたら軍事法廷の場になるのではないでしょうか?」


 元公爵令嬢だったミシュラは、担当者のその言い分に付け入る隙を見つけた。


「では、『今わたくしたちがここにいる』という事実の記録をお願いします。そしてそれを『状況証拠の一環』に加えてくださいな。わたくしたちの領は辺境の開拓村ですからね。臨機応変に即応を是としております。それは領主の第三夫人であるリティシアも同様で、事前に想定できることについては準備をしていた。つまりは、即、帰路に就く形で解散命令書に応じただけの話です。わたくしたちは彼女への捕縛命令という事実に即応して今ここにいます。『捕縛に向かった人たちが王都へ戻る前にここにいる』のです。この事実を持って状況証拠とさせていただきます。よろしいですね? 後で揉めることがないように、今すぐ書面にしてくださいな。付け加えると、リティシアは捕縛に来た人たちに即応じて素直に捕縛されています。それは『後ろ暗い所がなく、嫌疑は直ぐに晴れるだろう』と信じての行動でもあるわけですが。その時の彼女は『なんの準備をすることもなく、ガンダ領から出ているはず』ですよ。それも状況証拠になりますかね?」


 リティシアが何の準備もすることなく、ガンダ領を出たのは事実だ。

 けれども、それはラックやミシュラ、フランへの信頼が存在し、安心があったからこその行動である。

 もし、彼らの存在がなければ、引継ぎや身支度でそれなりの時間を要求したであろう。

 監視付きで、身支度などを行う時間を要求することは、現行犯の場合を除き、“捕縛対象者に逃亡や自殺の兆候が見られなければ”という条件も付くものの、貴族であれば当たり前に認められる行為だ。

 つまるところ、彼女のその状況は偶然の産物なのだが、ミシュラはそれを承知で利用しているだけだったりする。


 こうして、ラックはミシュラを伴って王都で主張すべきことは主張した。

 後はリティシアの王都への到着と軍部の対応を待つばかりである。


 こんな状況下でも、何気に千里眼で災害級魔獣を監視するのを怠らないニューゴーズ領の領主様。「リティシアの案件より、災害級魔獣への対応が優先なのではないのか?」と、呟く超能力者。優先順位がおかしいと思われる王家や軍の対応に、不信感しか抱けないラックなのであった。

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