表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/129

109話

カクヨム版109話を改稿。


体調不良でぶっ倒れていたので、投稿が遅れました。

申し訳ありませんが、体調を鑑みると先行しているカクヨム版の投稿だけで手いっぱいになりそう。

なので、次回の110話の投稿まで、一か月ほどお時間をいただくかもしれません。


「『戦闘時の魔石の消費量が多くて、費用対効果が悪過ぎる』ですって?」


 ドクことラックの叔母である狂気の研究者兼技術者のドミニクは、彼女の甥が語った話と、ミシュラの書いた所感の文面を読んだ結果、怒りを含ませた声音で雇い主に問うた。


「うん。通常の下級機動騎士が移動を含む戦闘行動がとれる量の魔石を百機分消費している。たったの二十分ぐらいでね。面制圧が目的の榴弾攻撃だったのを差し引いても、推定戦果は中型種と小型種限定で五百なんだ。確定と言える数量なら百あたりまで減る。時間効率や投入する操縦者の数に対して、多大な戦果が挙げられる点については、大きな利点だと思う。けれども、消費した魔石の量は推定戦果から全て魔石を回収しても完全に赤字レベルなんだよね」


 魔獣が千を超える規模の集団を成して襲って来るのは、通常の魔獣被害の話とは一線を画す。

 そのような状況から生み出されるのは、小規模な戦闘行為ではなく、最早戦争のレベルだ。

 そうした視点で物事を考えるドクは、「戦争で最優先するのは戦果の物量であって、そこで赤字が発生するのは当然だ」という考えである。


 ドミニクの考え方自体は、「間違いだ」とは言えない。

 但し、「他に手段がない場合で、赤字がいくらになろうとも許容せざるを得ない状況下であれば」という条件がついてしまうが。

 通常は、支出が莫大で、出す費用に得られる結果が見合わないと考えた場合、他の手段を検討するのもまた現実であるからだ。


「見解の相違ね。戦闘での消費だけを切り取って考えるなら、ラックの言い分は通るわ。けれど、今回のケースで物事を語るのならば、機動騎士を操縦する魔力持ちの育成や確保、機体数の確保と維持、それらに掛かる費用を想定して比較すべきではないかしら? 今回の推定戦果である五百を叩き出すのに通常の機動騎士を一体何機投入するの? 操縦者の衣服や食料に住居、戦力化できる人間を育てて確保し続けるのに、一体いくら掛かると思っているのよ!」


 ラックも、そして、試作機を使用したミシュラでさえも、確かにドクの言う視点で事象を考えてはいなかった。

 五百の魔獣を屠るのに必要な機動騎士の戦力は、「投入する機体の全てを下級で揃える」という現実味のない仮定で考えても、最低で三十機以上は必要だろう。

 但し、今回のケースで考えるならば、敵の総数が千を超えている点を加味しなければならない。

 それを考慮に入れると、五十機以上は確実に必要となる。下手をすれば百機だ。

 そこで消費される魔石の量は、ミシュラの消費した量の半分に届くかどうか。

 そのあたりだとゴーズ家の当主は目算を立てた。


 保有魔力量が最低二千の魔力持ちを五十人と、全員を搭乗させることができる数の下級機動騎士。

 それだけの戦力を維持する費用は馬鹿にならない。

 そもそも、「お金を出しさえすれば手に入れられる」という類のモノですらないのだ。

 そう考えると、今回の費用対効果に対する考え方を根本から見直しせねばならない。


 だがしかし。

 そこまでの思考に至った時点で、ラックはふと我に返る。


「ドク。そんな感じの話なら、まず先に確認しなくちゃならないことが一つある」


「なにかしら?」


「あの試作機。一機造るのに一体いくら掛かるんだい?」


 ラックの問いに、ドミニクの視線は泳ぐ。

 それはもう、盛大に泳ぎまくった。

 ドクの挙動があからさまに、不審なモノへと変化する。


「えーっと。ほら、『新機軸』と言うか、新しいものには開発費が必要よね? 試行錯誤で無駄は発生するし、テストも行わなきゃ試作機を完成させることもできないし。その類の費用は除外して考えて良いのよね?」


 ラックは、ドクが問われたことに対して答えずに質問を返して来た時点で、「やっぱりか」と悟る。

 単なる推測でしかなかった事柄は、どうやら現実と等しいのだろう。


「勿論、そこは別として計上してもらって構わない。でも、その開発費の額も知りたいね。量産タイプの下級機動騎士が、一体何機買える金額になるのかな?」


 ドクの表情からは、「すっごい答え難いな」というのが、ありありと伝わって来る。

 それを見せられるラック的には、「元王女が、感情を隠せないとかダメなんじゃないかな?」と思わなくもないが、それはここでは関係がない話ではあった。


「開発費で二十五機から三十機相当分。製造費は人件費や設備費は考慮せず、機体と追加武装に使った素材の価値を換算して考えると、六十機分くらいよ! たぶんね!」


 やけくそ気味に。

 叫ぶように。

 ドクは言い放った。


 ミシュラの新たな機体は、なんと「『下級機動騎士八十五機分以上に相当する金額』が投入されて作られた」という事実が判明した瞬間である。

 しかし、あくまでこれは、「使用した物資を換算すればそうなる」というだけの話であり、実態はゴーズ家から現金の支出があったわけではなかった。

 ラックが持ち込んだ魔獣由来の素材が、ドミニクの独断で惜しみなく消費されただけではあるのだけれど。

 付け加えると、ミシュラ機は試作機であり、完全な完成品ではない。

 よって、まだ改良の余地がある。

 そこにも当然、今後消費される物資が必要とされるのだった。


「まぁ、僕も機体修理の指示をきちんと出していなかった部分は反省しなくちゃいけないし、魔獣素材の使用は許可自体は出してたわけだし」


「そうよね! 『素材は自由に使って良い』って言ってたわよね!」


 ラックの「自分自身にも非がある」と認めるような内容の発言に、死人化しかけていたドクは息を吹き返す。


「『自由に使って良いけれど、事前に使用予定の報告書だけは出してください』って条件も付いていたはずですけれどね?」


「今度から気をつけまーす」


 そんな感じで、なんとかラックからドクへの追及話っぽい何かが終わる。

 けれども、「それが済んだから」といって、彼ら二人の話の全てが終了したわけではなかった。


「費用対効果の話に戻るけど。まぁ開発費は仕方がないから割り切るとして、ドクの考え方を考慮に入れて判断し直せば、『ダメだこりゃ』ってまでの話じゃないのは理解した。でも、消費する魔石の確保と有事に備えての備蓄を考えると、現実問題で運用は厳しいよね?」


「そこはまぁ、ラックなら何とかなるでしょう?」


 ドクは楽観的過ぎる見解を述べた。

 彼女的には、今の段階で運用できる機体でありさえすれば良いのだから。


「僕が何とかできる期間中は良いとしても、その後は? クーガの代やその次代。将来の運用だって考えなくちゃ」


「尖った機体だから、二十年、三十年先の話はよしましょうよ。将来開発される新しい技術で、問題が克服される可能性だってなくはないのよ?」


「そうくるか。なら、そのような改良型や次世代機の開発も、引き続き頑張ってもらうってことでよろしく」


 話が纏まったかな?


 ラックがそう考えたところで、今度は逆に、ラックとしては理不尽に感じる主張をドクから受けるのだが。


「任されました。ところでラック。今回の戦果は、機体の観測器で着弾修正した砲撃じゃないのよね?」


「ええ。僕の力で直視射撃に近い状況に」


「独立運用したデータじゃなく、ラックが手助けした状況の運用データだと開発の参考にならないのは理解できるわよね? それと、徹甲弾と散弾の使用実績がないじゃないの。散弾はまぁ『使いどころがなかった』と言えるのかもしれないけど、徹甲弾は大型種相手に撃ち込めたはずでしょう?」


 そんなことで文句を言われても。

 状況的に、魔獣の数を減らすことが優先されて然るべきであり、もし途中で弾種変更を行っていたならば、結果的に敵の残存数はより多くなってしまったはずであった。


 移動目標に対して、徹甲弾を当てる運用データが欲しい叔母の気持ちも理解はできる。

 そこは理解するが、機体を投入した主目的は、バスクオ領への救援でしかない。


 今回の実戦は、決して、超遠距離砲撃戦仕様の試作機の試験運用が主目的ではなかったはずなのだから。

 それは、「あくまでついで」と言うか、「余禄」の部分なのだ。


 つまるところ、ドクの心情は理解できなくはないが、ラックからすれば彼女の発言は理不尽極まる言い分なのだった。


 だがしかし。

 ここでこの件について言い争うのは意味がない。

 超能力者は、そう判断して、理不尽を呑み込む。

 ラックは、「そういうのはまた別の機会を待ちましょう」とだけ言って、話を切り上げたのだった。




「と、まぁそんな話になってね」


 トランザ村へ戻ったラックは、ミシュラにドクとの会話の流れを話した。


「移動目標に徹甲弾を直撃させるのは、正直なところかなりの技量を必要としますわね。射撃練習もなしにいきなりの実戦では、おそらく一割も当たれば御の字というレベルではないでしょうか?」


 ミシュラはそう言いながらも、砲撃を行っていた当時の状況を思い出す努力をした。

 彼女は確実に直撃させようと躍起になっていたわけではないが、初期の着弾目標には大型種の個体を選んでいたのだ。

 要は、端的に言ってしまうと「狙って撃っても当たっていない」のである。

 そして、今回は使用しなかったが、機体に搭載された着弾観測用の機器を使用しての砲撃であったなら、命中精度が更に低下するのはおそらく避けられない。

 装備として徹甲弾が必要であるのは確実だが、これは大型種に対して有効と考えるよりは、固定目標かあるいは災害級魔獣への攻撃手段と割り切るべきなのかもしれない。

 ゴーズ家の正妻は、操縦者の視点で考えるとそう結論付けざるを得なかった。


「費用対効果の件に関してはどう思う? 僕は、数の確保や維持って面を考えると、微妙なとこだなって思ったけどさ」


「『操縦者一人、機体一機で可能』という部分は大きいですけれど、そこが欠点にもなりますわね。『予備がない状況は対応力の柔軟性に欠ける』とも言えますし。そもそも、この試作機は、有効に使える戦場が限定されますわよね? 武装を外せば高機動型の機体として運用は可能ですけれど、それをしてしまうといざ砲戦が必要となった時に、砲撃仕様に戻すのに時間が掛かり過ぎます」


 結局のところ、「使い方は限定されるが、費用対効果は総合的に判断すれば『使えない』というほど悪くはない」という結論になった。

 そして、武装の脱着は「緊急対応力を下げることにしかならない」として、ミシュラが常用する機体をもう一機別で用意することとした。

 超遠距離砲撃戦仕様の試作機は、決戦兵器とか、切り札的な存在として、トランザ村のハンガー内に鎮座することになったのである。


 そんなこんなのなんやかんやで、バスクオ領の救援に投入された試作機は、ゴーズ家で運用方法やその価値についての結論が出される。

 そうした部分や、機体性能の話は、後日にシス家の当主へも情報共有がなされるのであった。




「話を聞く限りでは、その機体は、追加武装のコアでしかないのではないか? そうであるなら、コアとして組み込む機体は、下級でなくとも良いはずだな?」


 北部辺境伯は、娘婿が語った情報に興味を示す。

 そうして、彼なりの疑問点をラックに投げ掛けたのだった。


「それはそうかもしれませんが、今のゴーズ家では下級機動騎士の乗り手が多いですからね」


「今回の件もある。バスクオ領の中級機動騎士の追加武装として同様の装備を造ってもらうことは可能だろうか?」


 北部辺境伯の考えは、「ラトリートやその妻の誰かに、改造を施した中級機動騎士をシス家の所有機体として貸し出し、バスクオ村に置きたい」なのだった。


「えーっと。大変申し訳ないのですが、ゴーズ領が射程距離内に入る武装をバスクオ領に持たれるのは、正直なところ怖くてできません。これは話がサエバ領であったとしても同じです」


 実のところ、「射程に入る」というだけなら、容認できなくもない。

 ないのだが、問題となるのは砲弾の種類とその威力である。

 ラックはミシュラの砲撃によってボコボコにしてしまった跡地を、遠目にも、現場ででも確認しているのだから、これは当然の話になるのだった。


「そうか。残念だ。『中級、あるいは上級でも最上級でも良いが、下級を上回るパワーの機体なら、機体自体に無理な軽量化を施さなくとも、運用できるのではないか?』と思ったのだがな」


 実に危険な発想である。

 ラックも北部辺境伯も知らないことだが、仮に最上級機動騎士に同様の改装を行うのであれば、機体が本来持つ外装の装甲部分を犠牲にするだけで、余裕で追加武装の装着が可能だ。

 そしてその場合、移動速度は元来の最上級機動騎士のそれを保つことができる。

 もっとも、武装をパージした時の機体は装甲がほぼないため、搭乗者の生命を第一に考えると危なくて使えない代物になってしまうけれども。


「まぁ、追加武装の部分だけの費用はわかりませんけれど、半分としても金貨十五万枚分に相当する武装ですからね。そして、一度の実戦投入で吹き飛ぶ魔石の物量は、シャレにならないですよ? あまりおすすめできる機体ではないですね」


「それもそうだな。いざとなれば、ゴーズ領に助けを求めれば良いだけだな? 婿殿。ところで、そろそろこの家に、少しは借りを返させる気遣いも見せてはくれんか?」


「あはは。そんなことを気にしてらしたのですか? そうですね。では、『北部辺境伯領が次期当主に代替わりしてから、経過期間で五年。そのあとに、ゴーズ家の相談役として、最上級機動騎士付きでゴーズ領に居を構えていただく』というのはどうですか? ルイザも喜ぶと思いますが。勿論、フランも」 


 ラック的には軽い気持ちでの、冗談交じりの発言だったのだが。

 年長者のアドバイザー的な人材が、元ヒイズル王国の国王だけでは『全く足りていない』という面もあっての発言だったのだが。


「わかった。そうしよう。寧ろこちらから頼みたい話で、借りが返せるのなら素晴らしい。経過期間については、ルウィン次第とさせて欲しい。『基本方針はそれで決定』ということにしよう。妻も連れて行くが良いな?」


 こうして、ラックは自身の失言から、ゴーズ領の未来の住人を増やすことに成功した。

 ミシュラへの相談なしに決めて良いはずのことではないのに、「今更前言を翻すわけにも行かない状況に追い込まれた」とも言えるが。


 お義父さんとの話し合いを終えてトランザ村へと戻り、「これはちょっとまずいかも?」と思いながらミシュラと顔を合わせてしまったゴーズ領の領主様。正妻にあっさりと何かがあったこと察知され、ことの次第を白状させられてしまう超能力者。「感情を隠せてないのは僕もだった!」と、ドクのことをどうこう言えないことに気づかされてしまったラックなのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ