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104話

カクヨム版104話を改稿。

「『ゴーズ領の人間がバスクオ村に来て、話を聞きまわっていた』だと?」


 バスクオ家の当主は村を任せている代官からの報告書に目を落としながらも、それを持ちこんだ者に確認のように問い掛けていた。


「魔道車で乗り付けてきたのは二人でした。魔獣被害の様子を調べに来たそうで、『よくこの村は無事だったな』と、驚いていました。村民は、昨日までバスクオ村が無人だったことを彼らに伝えてしまいました。その情報を得てから、『魔道車は北へ向かった』と聞いています」


「それは、災害級の移動経路を調べにでも行ったのだろう。人を置いて災害級を誘導した形跡、残してはいないだろうな?」


「それについては、昨日の段階で確認済みです。魔獣が人間を好んで食べるのはわかっていましたが、ああも簡単に誘導できるのは驚きでした」


「失敗したら大損害だからな。災害級でも生まれたてを総攻撃すれば何とかなると思っていた。しかし、その見込みも甘かった。それでも、これまでに得られた魔石の価値から言えば、十分過ぎるほどにお釣りは来るがな」


 バスクオ男爵は、ゴーズ家の発展が気に食わなかった。

 近隣の領地であるが故に、バスクオ領領主の爵位の変遷と比較してしまうからだ。


 バスクオ家の歴史は、三代前の初代当主が開拓村を興して、騎士爵から始まっている。

 初代は、準男爵に陞爵。

 それをそのまま維持した先々代。

 そして先代が男爵へと陞爵する。

 男爵の爵位を継いだ現当主。

 そんな流れになっていた。


 先代、即ち現当主の父は、男爵へ陞爵する前の準男爵の段階の時、ようやく領地を上手く回せるようになり、「さぁここから更なる飛躍を!」と、意気込んでいたタイミングで塩の供給問題に直面してしまう。

 先代は格下の、しかも魔力も全く持たない欠陥貴族、ぽっと出の若造が当主を務める騎士爵のゴーズ家に、頭を下げねばならなかった。

 その上、下げたくない頭を苦渋を呑んで下げたにも拘らず、芳しくない結果しか出なかった。

 そのような屈辱的なおまけまで付いたのだから、まさに泣きっ面に蜂である。


 不本意の塊のように事態が推移したのちに、対立関係にあるシス家の取り成しで塩の販売がされてしまう。

 そうなると、もう「更に腹立たしい」の一言に尽きる。


 勿論、それが単なる逆恨みでしかないのは、先代のバスクオ準男爵だって自覚はしていたのだが。

 だからと言って、ムカつく感情がなくなるわけではない。


 しかし、それに関してはこれまたムカつく話であるが棚ぼた的なメリットもあった。

 塩不足の案件で苦しくなった周囲の騎士爵家を取り込み、結果的にバスクオ家は男爵位まで爵位を上げたのだから、「悪いことばかりでもなかった」と言える。

 よって、不満はあるが我慢はできた。

 但し、愚痴をこぼしまくって、息子である現在の当主の思考に多大な影響を与えているわけだが。


 バスクオ家はシス家とは大昔の行商隊の話の件で揉めて以来、非常に仲が悪い。

 勢力を拡大したことで、通常なら来てもおかしくないシス家からの婚姻話や寄子の話も全く来ない。

 片や、ゴーズ家には、シス家の秘蔵っ子と噂されていたフランが嫁いでいる。


 バスクオ家から見たラックの姿とは、魔力を持たない特例適用の欠陥貴族のくせに、棚ぼたで塩の生産ができるようになり、領地替えで大金もせしめて、簡単に爵位も上げたように見えている。

 その上、ゴーズ家が陞爵する前までは間引きも兼ねて出入りし、将来的にはジワジワと開拓して支配領域に組み入れようとしていた旧ビグザ領の優先権とやらを取得し、バスクオ家はそこに出入りすらも許されなくなってしまった。


 結果的に、旧ビグザ領側から流れ出る魔獣はおらず、被害はなかった。

 しかしながら、「ゴーズ家が長城型防壁と呼んでいる領境の整備が済むまでは、出入りを禁止されて、バスクオ領側で魔獣の侵入に備える負担のみが増える」という、負債に近い状況に据え置かれたのだ。


 そのような状況を生み出した責任はファーミルス王国にあり、本来であればゴーズ家を恨むのは筋違いも甚だしい話であろう。

 それでも、行商人経由で継続していろいろな情報が入り、機動騎士の大量購入の話が聞こえてきたりすると、「元公爵家の出の夫婦は、実家の援助を影で受けまくっているに違いない」と、家内で愚痴をこぼすくらいには妬む。

 完全なやっかみ以外の何物でもないのであるが。


 親子二代に渡っていろいろな状況が発生し、身勝手極まりない思い込みも生じまくる。

 その結果、バスクオ家は、「ゴーズ家に追いつけ追い越せ」という意識と共に、憎悪も向け続けた。

 ちょっと無理や無茶をする程度にやっていたのでは、公爵家二つを背後の味方に付け、北部辺境伯であるシス家とも懇意なゴーズ家を凌駕することなど、とてもじゃないができはしない。


 そう考えたバスクオ家は、蟲毒に手を出すことを決めた。


 これが、時系列的に言えば、「ゴーズ家がファーミルス王国から機動騎士十六機を調達して少し経った頃の話」となる。


 蟲毒が危険なのはむろん承知だ。

 けれども、「弱い魔獣から中型魔獣へと成長させる程度で止めておけば、リスクなしに下級機動騎士やスーツに使える魔石が量産できるだろう」と目論んだ。

 従事させる人員は、蟲毒が禁忌であることを知らない年齢の子供を集め、隔離して作業ができるように仕込んだ。


 そうして、運もあったのだろうが、事故が起こることなく密かに魔石の生産が続けられて行く。

 それが行われていたのは、魔獣の領域からさほど離れていない危険な場所。


 本来はそうなのだが、超能力者が間引きをしまくっている影響もあり、ゴーズ家の支配領域から西側半径百キロメートルほどの範囲は、魔獣の密度が薄くなってしまった。

 そのせいで、現実的な危険度は低かったのはバスクオ家にとっての僥倖であったのだろう。

 但し、バスクオ家の当主はそんな事実を知ってはいないけれども。


 バスクオ家現当主の父が、そこを選んだのは危険地帯であるが故であった。

 それが理由で行商人などの余所者が来る可能性が限りなく低い。

 それに加えて、万一事故が発生した場合には、「魔獣の領域から這い出た魔獣による被害だ」と言い逃れをするため。

 更に言えば、「失っても惜しくはない人材」に作業を任せている。

 いざとなれば、見捨てて切り捨てる気満々であったのだ。


 一蓮托生のバスクオ家の寄子になっている騎士爵家は、寄親から買い与えられたスーツで、助力としてその危険な施設の警備を請け負っていた。

 但し、「施設内で何が行われているのか?」を、彼らは知らされてはいなかったけれど。


 そんな流れの中、代替わりしたバスクオ家現当主からすれば、更に衝撃的事件が起こる。

 ゴーズ家当主は災害級魔獣の魔石二つを王家に納入した功績で、なんと上級侯爵なる新設の爵位へと至ってしまった。


 災害級の魔石さえあれば。

 バスクオ家だって。


 そう考えた馬鹿が発生した瞬間である。


 それでも、いきなり「災害級がなんとかなる」などとは、さすがにバスクオ男爵でも考えはしなかった。

 まずは大型種を試験的に生み出し、討伐戦力も増強してから。

 具体的には、下級機動騎士の増強配備を目論んだ。


 それと同時に、危険性が更に跳ね上がることから、バスクオ村の住民を強制的に移動させ、旧ビグザ領側へ魔獣を誘導する手も打って行く。

 リスクを低減させるために何をしたかと言えば、「生餌として、老人を一定間隔で住まわせた」のだった。

 バスクオ村の村民側は、「働き手としての価値がない老齢の者でも住むだけで僅かながらも給金が出て、食料も支給される」とあって、その方策を受け入れた。


 老人たちを配置する名目は、魔獣の領域からの魔獣侵入の脅威への防備の一環。

 早期警戒の見張りとして、魔獣を発見次第、信号弾を上げるのが建前の役目である。


 そんなこんなのなんやかんやで、四つの中級機動騎士の製造に回せる魔石をバスクオ男爵が入手したのちに、ついに事故が発生してしまう。

 災害級魔獣が生まれ、蟲毒の施設は崩壊したのであった。


 当時周辺の警戒に当たっていたスーツ二体は、施設の人間が食われるのを尻目に即座に逃げだし、逃亡を成功させる。

 それにより、バスクオ家は緊急事態の状況を早期に掴んで、追加で状況調査を行ってから、バスクオ村へ人を戻したのだった。


 これらが、ゴーズ家でも未だに掴み切れていない、バスクオ領側の事情だったりするのである。




「バスクオ領は、元々の準男爵の爵位の時の騎士爵領相当二つ分の土地に加えて、過去にあった塩の値段が急騰した時の立ち回りで、騎士爵家二つを吸収して先代の時に男爵になっている。少し前に今の当主に代替わりしたのだそうだよ。シス家の話では、現在は下級機動騎士三機とスーツ六体の戦力を保有していて、間引きによる魔石入手が最近になって順調になり、財政面ではかなり良好らしい。ちょっと気になる話としては、『小型の砲の魔道具の購入が異常に思えるくらいに多い』ってことくらいだね。『たぶん、保有魔力量二百から四百程度の家臣を動員して、小型の砲を魔獣狩りの一助にしているのではないか?』というのが、過去のシス家の見立て」


 ラックは夕食会で妻たち五人を前に、まず、北部辺境伯から聞いてきた状況の説明を行った。

 続いて、ミシュラがビグザ村の一件の詳細を改めて説明して行く。

 もっとも、その部分は日中の段階で、随時報告書として各人に情報が渡されている。

 なので、ミシュラのそれは再確認の意味合いでしかなかった。


 ちなみに、ここで話に出た小型の砲とは、村に配備が義務付けられる必要魔力量五百の大砲に威力は及ばないが、火力自体はそこそこ高い。

 比喩的表現で性能を表すならば、上限性能のものだと、威力的には対戦車ライフルとか、個人携帯用のバズーカ砲を思い浮かべて貰えば、そう間違ってはいないだろうか。


 但し、威力とは別に、「対象に直撃させられるか?」の問題があり、通常だと対魔獣戦においては、あまり「有効」とは言えない武器の類の扱いである。

 必要魔力量は五百未満で威力はあっても、とにかく重量が重く、体積的にも嵩張って取り回しに難がある魔道具兵器だからだ。

 勿論、「ないよりはマシ」なのは言うまでもないが。


「大量の小型の砲は、おそらく蟲毒で生み出された魔獣を、生まれた瞬間に集中攻撃するために揃えられたものなのだろうな」


 フランが最初にぽつりと言う。

 彼女の表情は暗い。

 彼女に責任がある話ではなくとも、「ラックの留守中にゴーズ家の正妻と嫡男を失う可能性があった事態を防げなかったこと」に、自らの至らなさを痛感しているからだ。

 それは、スティキー皇国との戦争で、戦略、戦術、その他諸々で手腕を発揮し、少々天狗になっていた部分もあっての状態ではあるのだけれど。


「そうかもしれないな。だが、問題にすべきところはそこじゃない。『バスクオ家が禁忌に手を出していた証拠を掴めるかどうか?』が、今は一番大切ではないだろうか?」


 リティシアはバスクオ家の罪を暴いて、「ファーミルス王国への反逆者である」と明確にするのを優先する意見を述べた。


「バスクオ家が何故『蟲毒』という、この大陸全土で忌み嫌われる手段に手を出したのか? 理由を探ることも必要だろうな」


 エレーヌは理由を追求し、「そこを解決せねば二度目があるぞ」という立場で意見を述べる。


「わたくしは、旧ビグザ領へ災害級魔獣がほぼ真っ直ぐにやって来た理由が気になりますわね。偶然の結果であれば良いのですが。知り得る情報からでは、バスクオ村に被害がなく、バスクオ領に都合が良すぎる移動経路でビグザ村へと至っています。何らかの誘導手段を用いているならば、それを突き止めたいですわね」


 アスラは、災害級を利用しての、ゴーズ領への攻撃あるいは破壊工作を疑っていた。

 そして、彼女は真実を知り得ないが、現実はその疑いが大正解なのである。


「いろいろと知りたいことはありますけれど、どうやってそれを調べるのか? 最終的にはそこに行きつきますわね」


 ミシュラは全員の意見を纏める感じで発言しつつも、自身の視線は夫である超能力者へと向ける。

 ゴーズ家の正妻は、「通常の調査のやり方では、今から人を出して調べても、おそらく『蟲毒を行っていた』という証拠ですら消されてしまっていて、何もわからないだろう」と、考えている。

 そして、その考えは結果的に間違ってはいないのだった。


 尚、ミシュラの発言で、「フラン、リティシア、エレーヌ、アスラの視線もラックに集中していた」のは言うまでもない事実なのである。


「えーと。皆の視線が痛いんだけどね。『そのあたりの調査は僕にしかできない』ってことで意見が一致していると考えて良いのかな?」


 ラックは苦笑いしながらも、わかり切ったことを改めて言葉に出して確認を取った。

 その場にいた五人の妻が、全員即座に首を縦に振って肯定したのは、最早既定路線であったのだろう。


 続いて、話し合うべき優先順位が低いため、後回しにされた事柄へと話題は移って行く。


 それは、ラックとアスラが出向いた、王都での一件の報告と今後の対処についてだ。

 リムルやフォウルの将来の話も、「緊急性が災害級魔獣の案件より低い」と言うだけで、ゴーズ家にとっては重要事項であることに変わりはない。


 ラックの妹の息子は、暫定でミリザの婚約者となって登録済み。

 だが、それはあくまで暫定であって、「ゴーズ家内ではまだ検討して、どの娘と婚姻させるか?」はこれからの話となるのである。

 加えて、時期はともかくとして、また、本人が明言はしていない事項ではあるけれども、リムルのゴーズ領への移住もあり得る。


 この夜の夕食会は、過去最長の時間を費やす会合となったのだった。


 こうして、ラックは超能力を駆使して、バスクオ家の事情を暴き出すお仕事が割り振られることが確定した。

 他の誰にも不可能なことを可能にする能力の持ち主は、能力があるが故に働かざるを得ない状況に追い込まれたのである。


 ある時は土方親父。ある時は怪盗。そして今回はスパイが任務になるゴーズ領の領主様。「僕しかできないのはわかるけど、便利に使い倒されてるのも事実なんだよなぁ」と、ぼやくしかない超能力者。今更ながらに、自身に仕事が集中してしまいがちなゴーズ家の構造に、ちょっと思うところが出てきてしまったラックなのであった。 

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