第八話:港町の吸血鬼退治
「は~♪ やはり野山の空気は良いですわ~♪」
「まあ、都会より落ち着きますからね♪」
「私、街はほどほどの規模の所が好きですの♪」
「なら、我が軍配藩の城下町はお気に召すかもですね♪」
日戸から旅立ち、東街道を歩き西へと向かう太郎と山吹姫。
天気も良く晴れて、楽しい徒歩の旅であった。
「太郎様とコガネマルでロボ駆けか、私の背に乗っていただいて野を駆け巡りたいですわ♪」
「楽しそうですな、狼となった姫の背は心地良さそうです♪」
「当然ですわ♪ いつか来るその時を、楽しみにさせていただきます♪」
立ち止まって胸を張り、尻尾をパタパタと振る山吹姫。
やがて二人は、川浜と言う港町に辿り着いた。
「この街は、外国の方も多いのですね」
「ええ、ヒノワにいくつかある貿易の街で外国の領事館などがあります」
「まずは、管轄の奉行所へご挨拶ですわね♪」
「ええ、街で戦うならば住民の避難や後始末の協力を仰がねば」
「地元の方との関係は良好にしておくことに越した事はありませんわ♪」
本来なら、悪党退治は自由と認められている太郎達神君候補。
だが、太郎はある程度は地域に筋を通して協力を得る事が大事だと考えていた。
それ故に二人はまず、街の警察と消防を兼ねて治安全般を預かる川浜奉行所へと足を運んだ。
人間だけでなくドワーフやエルフに獣人と、様々な人達が行きかう和洋折衷のメインストリートを進む二人。
奉行所に辿り着き太郎が印籠を見せて奉行との面会を求めれば、直ちに通されて面会となった。
奉行所内の客間で太郎達は、実直そうな顔で逞しい体形の中年男性である川浜奉行と対面した。
双方で、軽く名乗りと挨拶を済ませてから話に入る。
「まさか、神君候補の方でこちらを訪問されるお方がおられるとは思いませんでした」
「親戚達が申し訳ないです、我ら軍配党がこの地で戦う時は民の避難や事後処理のお力添えをいただきたく参上いたしました」
「こちらこそご配慮痛み入る、喜んで協力させていただき申す」
「ありがとうございますわ♪」
「宜しくお願いいたします」
どうやら、太郎以外の候補者は川浜に来た際は勝手に悪を倒してはそのまま去って行ったと言う感じらしい。
根は悪い奴らではないが、幼子よりも自由過ぎる従兄弟やはとこ達の所業に頭を痛め溜息を吐く太郎。
太郎と山吹姫は、対面した奉行と川浜にいる間の協力関係を締結した。
奉行所を出た太郎達は、昼時になったのでメインストリートの洋風茶屋に入って見る。
畳などの和の要素があった日戸のファミレスとは違い、完全な洋装のカフェ。
メイドと言われるエプロンドレスの給仕が働き、様々な客でにぎわっていた.
二人席に腰を掛けて、太郎はパンプキンパイとコーヒーを頼む。
山吹姫は、紅茶といちごのショートケーキ。
頼んだ品が届けば軽く食べながら語り合った。
「こういう異国のお菓子も、たまには良い物ですね♪」
「ですね、しかし港町は良い物だけでなく悪い物も出入りするのが怖い」
「米潟も海賊騒ぎがありましたしね、こちらは異国の飛び地もあるのでしょう?」
「ええ、まあ異国と戦ともなれば引けは取りませんが民に迷惑が掛かるのは良くない」
「うふふ♪ 太郎様は、やはり君主に向いているお方ですね♪」
「いや、面倒くさい事は嫌いですよ! ただ、だらける為には世の安寧がいるので仕方なくです」
「真面目でもありと、難儀な性分ですねえ♪」
「面倒くさがりなのに、人任せが嫌いなんです厄介な性分ですが」
菓子を食い、コーヒーや紅茶を飲む二人。
そんな中、山吹姫がふと気が付く。
「そう言えば、太郎様のその南瓜のお菓子は人の顔みたいですわね♪」
「ああ、西洋のお盆でハロウィン祭りだそうです夏や冬にやるそうで」
「なるほど、楽しそうですわね♪」
他愛もない話で太郎達が寛いでいると、店の中に同心の男が入って来た。
「軍配の若様と山吹姫様、こちらにおられましたか! 御助力をお願いいたします!」
同心が叫びながら、店員に太郎達の支払いは奉行所が持つので残りがあれば追加して包んで届けよと店側に金を支払う。
「あらあら、お仕事ですわね♪」
「茶代が手付けなのは安いが、受けよう!」
二人の旅先でのちょっとしたデートは終わりを迎える。
太郎と山吹姫は立ち上がり、同心の男について行く事にした。
二人がやって来たのは、周囲には西洋風のコンテナが積まれた倉庫街のある川浜の貿易港。
現場には、奉行所の同心や十手持ち以外にも人がいた。
その人物の風体は、上下青のジャケットとパンツに黒ブーツで腰にはレイピア。
太郎緒達と同じくらい場に似合わぬ西洋の軍服を着た、長い茶髪の美しい男装の麗人がいたのだ。
太郎は素早く脳内で天網に繋ぎ検索し、相手が西洋の国の一つネランス領事館の人間だと知る。
「おや、君達は一体どなたかな?」
男装の麗人が、太郎達を見て訝しみつつヒノワ語で問いかける。
太郎達は麗人に頭を下げてから、太郎がネランス語で名乗り用件を告げる。
太郎としてはマウントを取る気はないが、相手の国の言葉をきちんと話せば態度が変わるかもと踏んでの事だ。
「我が国の言葉での丁寧な挨拶痛み入りますプリンス太郎、ネランス領事のタリアと申します」
「りょ、領事自らの御登場ですの!」
外国語がわからないのと、初めて外国人と話した山吹姫が驚く。
領事は一国の代表、こういう事件は下位の者が動くものではと自分達を棚に上げて姫は思った。
「貴殿らと同じく貴族の責務です、プリンセス山吹♪ ところで、遺体の見分はお慣れですか?」
姫の服装が着物の上に胴丸を付けて帯刀と武装している事から、荒事の経験はあると見たタリアが尋ねる。
「ご配慮感謝を、遺体は見慣れておりますので問題ありませんわタリア様」
「ヒノワでは王族や貴族の子弟達に捜査権などがあるとは聞いておりましたが、吸血鬼の仕業です」
まさか、目の前の美少女が剣の達人で山賊退治などをしているとまでは思い至らないタリア。
シーツで隠された遺体を見せる、被害者はエプロンドレス姿の若い西洋人の女性で首には穴が開いていた。
遺体を見た太郎は、死因は失血死で首に穴を開けて殺す存在を脳内検索し犯人を吸血鬼だと断定する。
「吸血鬼ですか、面倒ですね? どこかに潜伏先があるはずですが、この辺りに地下や日の差さぬ場所は?」
「太郎様、吸血鬼とはどのような化け物ですの?」
「ああ、死人の化け物で昼間は闇に隠れて夜に這い出して人の血を吸い世に害をなします」
太郎が山吹姫に簡単に説明するとタリアが感心する。
「プリンスは西洋の事にお詳しいのですね?」
「母が異国の出身で聞いていたのと、脳を天網につなげて調べました」
「それで、私達はその吸血鬼を探して退治すればよろしいのですね?」
山吹姫の言葉に、同心達とタリアが頷く。
「姫、もしや敵の臭いを嗅ぎつけられましたか?」
「はい、遺体に化け物特有の臭いが残っておりましたの! 嫌な臭いですが辿れますわ!」
太郎が山吹姫に尋ねると姫が答える。
狼の神の半神である山吹姫が、遺体から邪悪な魔物の臭いを嗅ぎ付けたのだ!
「ヒノワの民には驚かされますな、敵を追えるなら直ちに向かいましょう!」
遺体の処理などは領事側で人を寄こして行う事となり、協力して山吹姫を先頭に犯人の吸血鬼を探す。
異人達の居住地を駆け抜けて、太郎達が辿り着いたのは開けた場所に立つ灰色の壁の洋館であった。
「よし、ここなら暴れても問題ないですね?」
「この辺りは無人の土地、問題ない!」
タリアから承諾を受けた太郎は、ニチリンオーを召喚して山吹姫と共に乗り込んだ!
「吸血鬼は太陽が弱点,ならば俺とニチリンオーの出番だ! ニチリンビーム!」
「先手必勝ですわ♪」
ニチリンオーの兜の金環から金色の光線が発射され、館が爆発する!
破壊によって上がった煙が晴れると、巨大な黒い西洋の棺桶が現れた。
「あれは、吸血鬼が使うと言うロボット!」
「西洋は化け物もロボットを使うのですか!」
ニチリンオーから離れた場所で驚くタリアと同心。
彼らが驚く間に、巨大な棺から手足が生えて黒い蝙蝠を模した人型ロボットへと変形した。
「おのれ! 落ち伸びた先でも狩り立てられるとは我慢ならん!」
蝙蝠ロボのコックピットの中で、黒いタキシードを着た青白い肌に黒髪オールバックの吸血鬼の男が叫ぶ。
「黙れ! 何者かは知らぬが、人であれ化け物であれヒノワの地を荒らす者はニチリンオーが許さん!」
「我ら軍配党が成敗いたします!」
太郎と山吹姫が言い返しニチリンオーがダイグンバイで打ち掛かる!
「小癪な、やられてたまるか!」
すると、吸血鬼の蝙蝠ロボも手首から剣を出してぶつかり合い鍔迫り合いになる。
「今はまだ昼間、太陽の加護のあるニチリンオーが負けるか!」
ニチリンオーが相手を押し返し、突き飛ばす!
「ぐわ~~っ! くうっ! せめて夜ならばスーパーロボットにも負けぬものを!」
悔しがる吸血鬼,だがニチリンオーは容赦しない。
「吸血鬼の狩り方は知っている、ヒノワに落ち伸びた自分の所業を恨め! ニチリンブレイズ!」
ニチリンオーがダイグンバイで敵を扇げば、地面から火柱が上がり蝙蝠ロボを包み焼きにする!
「お、おのれ~~~っ!」
断末魔の叫びを上げて消滅する蝙蝠ロボと吸血鬼、炎が消えた後に残るのは大地に刻まれた焦げ跡のみであった。
「ふう、話には聞いていたが姫のお陰で吸血鬼が弱っている昼間の内に叩けました♪」
「どういたしましてですわ♪」
コックピット内で太郎に寄り添う山吹姫、敵の素性は知らぬとも自国の街を荒らす異国の怪物を退治した太郎であった。
「お二方にはお世話になり申した、ところで川浜にはもうしばらく逗留されるので?」
事件後に訪れた奉行所で奉行に尋ねられる。
「いえ、諸国を巡る旅ですのですぐに出立したします」
「貿易の街にスーパーロボットがいては、諸外国に威嚇と思われますわ♪」
「確かに、神君候補の旅を妨げるのは重罪でもありますしなお名残り惜しいですがお達者で」
太郎達の旅はまだまだ途中、長居は無用と奉行所を出た二人は東街道を歩き出したのであった。