第五話:若様、隠し金山を解放する
山吹姫を仲間に加えた軍配太郎、日戸へ向けての旅は進む。
「太郎様? お顔が強張っておられますわ? どうなさいましたの?」
「申し訳ありません、女子に慣れておらぬ身なのに更に共に旅をするなど初めてで」
「私も、殿方に慣れておりませぬし旅をするのも初めてです♪」
「姫もですか? まあ、姫の御立場ならそう言う事もありましょうな」
「太郎様も、大名領主のご子息ですのにお決まりの相手がいないのも同じですわ♪」
山吹姫が尻尾を揺らして微笑む、その様子が愛らしかった。
しかし太郎は、前世でも今生でもどう女子と付き合えば良いのかわかってなかった。
「用足しや身だしなみはきちんとしております故に、ご安心下さいませ♪」
「いや、俺はナノマシン洗浄とか体内分解とかで済ませられますけど?」
「太郎様と同様に術で処理もいたしますが、隠し事は致しませぬ♪ 私の幽世屋敷にご案内いたしますわ♪」
山道を行く途中、つい姫の風呂や寝所をどうしようかと思い聞いてしまう太郎に思わぬ答えが返って来た。
姫が虚空に人が通れるほどの黒い穴を開ける、太郎は姫を信じて彼女と一緒に穴に入るとそこは別世界であった。
武家屋敷があり、庭に屋敷よりも大きな金色の狼型のロボットが狛犬の如く鎮座している。
「なるほど、これなら確かに問題はございませんな」
「父が私の為にと用意した物です♪ 太郎様もどうぞご利用下さいませ♪」
「あ、ありがたく上がらせていただきます!」
これが神格の領主と、一応は薄いながらに神の血は引いているが人間の領主の息子の差かと太郎は感じた。
屋敷の門には、二足歩行で紅白の注連縄を巻いた着物を着た小犬。
太郎が拡張現実をオンにすると、小犬達の頭上に式神とステータスが表示された。
同時に、太郎が屋敷に住人登録がされたと表示文が現れた。
「権限を付与いたしました♪ 太郎様も、今日からこの家の人ですわ♪」
太郎に手をかざして、にこりと微笑む山吹姫。
「もしや、姫も生機融合体なのでしょうか?」
「いいえ、ですが神や半神はそう言った機械やさいば~な物と繋がれたり操れるそうですの♪」
「初めて知りましたよ! いや、スーパーロボットは神が作ったと言う伝承からすれば当然なのか?」
「まあまあ♪ 太郎様、些末な事に悩まずに屋敷でお茶でも致しましょう♪」
スーパーロボットと共に王権は神が君主に授けられたと言う、スーパーロボット王権神授説を思い浮かべつつも太郎は屋敷に招かれた。
「姫様~♪ 若様~♪ お似合い~♪」
式神達が太郎と山吹姫を囃し立てる。
「あらあら♪ この子達ったら♪」
「あっはっは♪ こっ恥ずかしいです♪」
これは、もうこのまま婿入りしても良いかなとか思いつつ太郎は気を取り直した。
「というわけで、暮らしの事は気にせず人助けと世直しと悪者退治の旅をいたしましょう♪」
「はい、ロボ持ちに屋敷持ちとはお見それいたしました」
「いえいえ♪ 太郎様が、私を一人の女子として気遣っていただけた事は嬉しく思っております♪」
式神が用意してくれたお茶と茶菓子で、屋敷の縁側で一服する太郎と山吹姫。
太郎としては、異空間に屋敷とロボがあるなら細かい心配は余計だったなと改める。
だが、女性である事には違い何のだから心配りは忘れてはならない両親の教えだ。
「そうそう、コガネマル~♪ こちらが太郎様ですよ~♪」
山吹姫が狼ロボの名を呼ぶと、コガネマルが身を伏せて頭を太郎達に向けて来た。
「ささ、太郎様♪ コガネマルを撫でてやってくださいませ♪」
「それでは失礼して」
太郎が、コガネマルを撫でるとコガネマルが僚機に登録されたと太郎の瞳に表示された。
「えっと、これはもしや加護と言う事でしょうか?」
「ええ、私とコガネマルがロボ戦ではお供いたしますわ♪ 」
「おお、それは本当に頼もしいです♪」
太郎の戦力にコガネマルが加わった、そうして太郎達は屋敷を出て元の道へと戻る。
「それでは、改めて旅路を進みましょうか♪」
「ええ、参りましょう♪」
寝床の心配がなくなり、改めて足を進める二人は山道を行く。
「も、もう駄目だっ!」
太郎達の前に草むらから、みすぼらしい着物に褌一丁の体の弱った男が現れて倒れる。
「ややっ、どうなされた!」
「太郎様、お手当を!」
「ええ、龍神よこの者を清め癒したまえっ!」
太郎が叫ぶと小さな青い龍が現れ、倒れた男にキラキラと輝く水を浴びせる。
すると男は身の汚れが消え、傷も言えて活力を取り戻した。
「お、おおっ! 助かった、お武家様ありがとうございます!」
太郎達に土下座をして礼を言う男。
「取り敢えずこれでも食われよ、何があった?」
太郎が男に握り飯を差し出すと、男は涙を流して喜び羽握り飯を受け取って食った。
「ありがたや! あっしは金三郎と言う者で、あの先の隠し金山に連れ去れれて働かされてました!」
金三郎が名乗り事情を語る。
「隠し金山とはまた、善政で有名な甲山殿の支配所で不穏な?」
「御領主は何も知らねえはずです、悪代官が私服を肥やす為にならず者を雇って探させた隠し金山なので」
「では、退治いたしましょう♪ こちらの太郎様は、神君候補のスーパーロボット乗り♪ 悪は逃しません♪」
「あ、ありがとうございます~~~~っ!」
「いや、叫ばないで追手にバレるから!」
太郎が金三郎を宥めるも、遅かった。
「曲者っ!」
山吹姫が超音波の雄叫びを上げれば、木の上から意識を失い落ちて来る灰色の忍者達!
太郎が倒れた忍者達を刀で仕留めて行く。
「ひ、ひいっ! こいつらは悪代官の手下っ!」
金三郎がビビる。
「太郎様、これはもはや容赦なりませんわ! 金三郎さんも、コガネマルにお乗り下さい!」
「あっしもですかい?」
「そうだな、近くで守った方が良い頼みます!」
「では、出でよコガネマル!」
山吹姫が雄叫びを上げれば静かに巨大な金の狼ロボ、コガネマルが現れて太郎達を飲み込むように収納する。
太郎と山吹姫はコガネマル頭部のコックピット、金三郎は腹の貨物置場に割り振られる。
「ここが、コガネマルのコックピットですか?」
「ええ、特等席で露払いをご覧あれ♪」
八畳間の球体コックピットの中、太郎は山吹姫の後部のシートに座らされる。
山吹姫は、黄金の甲冑を纏い立っと外の様子を写すスクリーンが展開した。
「コガネマル、出陣っ!」
姫の叫びと共に、コガネマルが雄叫びを上げて走り出す。
偵察など無しの強襲に、金三郎を探していた敵の十メートルサイズの白い兵士ロボは蹴散らされた。
「太郎様、見えましたわ♪ ニチリンオーをお呼び下さいませ♪」
「かたじけない、出でよニチリンオー!」
コガネマルのコックピット内で軍配を掲げ、太郎がニチリンオーを召喚する。
「代官様、ご公儀の強襲です!」
「ええい、もはやこれまでか! だが、こちらもただではやられん!」
脱走騒ぎの始末に来ていたアンコウの如く太った悪代官の悪大夫、手下の忍者からの報告を受けて坑道から出る。
コガネマルとニチリンオーを目撃。覚悟を決めて行動へと戻った。
「ニチリンオー見参っ! 代官、悪大夫っ! 領地の財源たる金山を見つけて私物化し横領とは言語両断っ!」
コガネマルからニチリンオーのコクピットへと転移した太郎、容疑者を検索し地元領主へと報告。
そして戦いの前の作法に従い、簡易裁判を始める。
すると目の前の金山が唸りを上げて、ニチリンオーと同等のサイズの悪代官ロボットが現れた。
「この地の御領主の断罪許可が来たのと、違法サイズのロボット建造による国家反逆罪も加えて成敗いたす!」
悪大夫の様な代官レベルの身分では、二十メートルまでしかロボの所持は許されない!
「黙れ、田舎領主の小童が! スーパーロボット何するものぞ~っ!」
悪代官ロボが抜刀し大ジャンプで襲い掛かる、だが、コガネマルが雄叫びを上げて衝撃波を発して吹き飛ばした!
「黙りなさい下郎っ! 冥途の土産に私と太郎様の合体姿で葬りますっ!」
「え、姫っ? 合体って、何ですか?」
「ただいま参ります、太郎様♪ 加増合体っ♪」
太郎が驚く中、コガネマルが金三郎をコンテナに入れて排出しバラバラに分離する!
コガネマルの頭部がニチリンオーの胴に尽き、ニチリンオーの手足には金色の爪の手甲と足甲が追加されれる。
そして、ニチリンオーのコクピットに武装した山吹姫が現れた。
「ささ、太郎様♪ オオカミニチリンオーで悪人にどうぞお裁きを♪」
「いや、こんな事ってわけがわからないですよ!」
唖然とする太郎と微笑む山吹姫、だがそこに立ち直った悪代官ロボが現れた。
「おのれ、小癪な山犬娘め! こうなれば諸共にっ倒してくれるっ!」
再び大ジャンプからの、跳び蹴りで襲い掛かる悪代官ロボ!
オオカミニチリンオー、その直撃を受けて倒れずも後ずさる。
悪代官ロボは、ドカンと大音を立てて大地に倒れる。
「おのれっ! 我がロボットの質量で無傷とは、ご公儀のロボは化け物か?」
お驚きつつも立ち上がる悪代官ロボ、資金をつぎ込んだだけに丈夫であった。
「色々頭が混乱してるがその程度の攻撃、避けるまでもない! ソニッククロ―ッ!」
オオカミニチリンオーが爪を振るい衝撃波を飛ばす!
「何のこれしき! か、金を掛けて作った刀が~~~ッ!」
悪代官ロボ、衝撃波を刀で受けるも刀がバラバラに砕けた。
「さあ行きましょう、姫♪」
「はい♪」
「「吹けよ山風、オオカミトルネードッ!」」
太郎と山吹姫が同時に叫び、オオカミニチリンオーがくるりと回れば巨大な竜巻が生まれて悪代官ロボを空へと飛ばす!
「「必殺っ、オオカミ獣王斬っ!」」
オオカミニチリンオーも空へと舞い上がり、悪代官ロボを手足の爪を振るいバラバラに斬り裂いた!
地上へ降りて残心を決めたオオカミニチリンオーの後ろで、爆発四散する悪代官ロボこれにてお裁きは完了した。
「これにて、一件落着と♪」
「後は、こちらの御領主にお任せですわね♪」
「えっと、何と言うかそれにしてもこの合体は一体?」
「姫と若のロボ同士の合体は、正式な婚約ですわ♪ 両家にも、日戸の神君家にも報告が自動で送信されますの♪」
「き、既成事実ができてしまった~~~っ!」
「末永く宜しくお願いいたしますね、太郎様♪」
出会って数日も経たぬ内に、山吹姫により外堀を埋められた太郎であった。