第四話:若様、初の仲間を得る
「さて、いよいよ軍配領を出ての旅の始まりだ♪」
領地の外へ初めて出た太郎、虚空から幟を取り出して背負い街道を歩く。
「さて、西へ行こうか東へ行くか? まずは東の日戸でも行くか♪」
歩きながらひとまずの行き先を決めるも、峠の入り口に差し掛かった所で異変が起きた。
「死ね~~いっ!」
「たあっ!」
「くたばれ、この山犬女っ!」
「その侮辱、万死に値します! 破っ!」
汚れた着物の上に、肩や足など部分的に昔の鎧を身に付け竹槍だこん棒だと武装がバラバラな明らかな山賊。
それと戦うのは、金髪をなびかせながら白鞘に金鍔の名刀を振るう狼獣人の美少女剣士と言うか姫武者。
太郎は彼女を見て素直に美しいと感じた。
神気が漂う金の甲冑に身を固めた姫武者が山賊を切り捨てて行くが、まだ敵の方が多い。
「殺伐すぎるだろ? そこの美しき剣士殿、軍配太郎が加勢するっ!」
「かたじけないです、助太刀感謝いたしますっ!」
太郎も抜刀して加速、素早く動いて敵を切り反撃する間も与えずに山賊達を切り捨てる。
姫武者も雄叫びを上げて勢い良く跳躍し、山賊を一刀両断した。
姫武者と太郎は、山賊達を全員討伐する事に成功した。
互いに納刀して向き合う二人、姫武者がにこやかな笑みを太郎に向けて来た。
「助太刀感謝いたします、私はこの山を治める犬神の娘で山吹姫と申します♪」
「改めて、軍配太郎と申します見事なお手前でした」
「お見苦しい所をお見せいたしました、お礼を申し上げたいので我が館へおいでいただけますか軍配の若様♪」
「では、お受けいたします」
龍神様の次は犬神様かと、気を引き締めて太郎は山吹姫について行く。
太郎の瞳は自動的に山吹姫をアナライズし、彼女が神格と人間の半神であると表示する。
いつの間にやら武者姿から白地に桜柄の着物へと着替えた山吹姫、その胸は豊満であった。
山道を歩き、狼頭の武士が門番をしている立派な門構えの武家屋敷に辿り着く太郎達。
すんなり屋敷へと通された太郎、玄関に狼頭の女中達が湯の入った桶を持って現れる。
履き物を脱ぎ、足を洗ってもらい屋敷に上がると太郎は女中の案内に従い座敷へと通された。
太郎は作法に倣い正座して、頭を下げて礼をして待つ。
その間に脳内で天網に繋ぎ、ヒノワ中部、山の神、狼で情報を検索し自分が間違いなく神域に招かれたと自覚する太郎であった。
「よくぞ参られた日輪の子よ、面をお上げ下され♪」
太郎が頭を上げると、金毛の狼が裃を纏った武家の正装姿で上座に座して微笑んでいた。
その傍には、山吹姫もいた。
「この度はお招きいただきありがとうございます、山神様」
龍神と同じく神格で屋敷の主なので礼を尽くす太郎。
「良い良い♪ こちらこそ、おてんば娘を助けてくれて感謝する♪」
山神も太郎に礼を言った。
「いえ、姫君のお陰で悪党退治が出来ましたのでこちらも感謝しております」
「そうか、そなたも巨人での悪党退治の旅の道中であったな?」
「はい、諸国をめぐる旅へと出たのですがまずは日戸へ向かおうかと思います」
「ふむ、ならば我からも加護を授けよう♪ だが、その前に娘が礼をしたいそうなので泊まっていかれよ♪」
「では、ありがたく休ませていただきます♪」
「うむ、ごゆるりとおくつろぎなされよ♪ 我は少々夕餉に、熊を狩って参るゆえに失礼いたす♪」
そうして山神が先に退室していった、すると山吹姫がやって来る。
「父が太郎様をお気に召したようです、夕餉の前にお茶など如何でしょうか♪」
「ありがとうございます、喜んでいただきます♪」
歓待してくれるならありがたく受けようと、太郎は応じて姫について行き茶の間へと向かう。
障子の開け閉めや、茶器や茶菓子の用意は女中さん達がしてくれていたらしい。
姫様が殿方にお茶を出すなんて♪ ついに姫様に春が来た♪ などと、感涙する声に赤面する山吹姫。
茶室にて向き合う太郎と山吹姫。
山吹姫がぎこちないながらも作法に従い菓子を差し出し茶を淹れて出して来たので、太郎も同じくぎこちないながらも作法に従い
お茶とお菓子をいただく。
「も、もしかして太郎様もお茶のお作法は苦手でしたの?」
「恥ずかしながら、苦手ですがそれでもありがたかったです」
「そうでしたか♪ 宜しければまた、私の茶にお付き合いいただけますか?」
「はい、俺で良ければ喜んで♪」
次の機会がいつになるかはわからないが、太郎は山吹姫と向き合い過ごした時間を楽しいと感じた。
前世では得られなかった美少女と二人きりで過ごすというシチュエーション、楽しくないわけがなかった。
「太郎様? 何やら遠くを見られてどうなされました?」
「いえ、恥ずかしながら姫のような愛らしい方と茶をいただくと言う事が初めてで♪」
「まあ♪ 私も、太郎様が初めてお茶をお出しした殿方ですの♪」
「それは光栄です、宜しければもう一杯いただけますか?」
「ええ、粗茶ですが♪」
互いに頬を染めつつ、茶と茶菓子で和む二人であった。
だが、そんな和やかな空気を壊す事態が起こる。
「姫っ! 狩りに出かけられた御屋形様が巨大な亡霊武者と交戦されております!」
障子を勢い良く開けて、女中さんが叫ぶ。
「太郎様、お力をお貸しくださいませ!」
「喜んで♪」
太郎と山吹姫が立ち上がり、館の中を駆け出すと、狼頭の武士達が姫と太郎に刀を差し出す。
二人は刀を受け取り、外へと飛び出す。
太郎はニチリンオーを呼び出し、山吹姫と共に乗り込み敵の元へと向かった。
「神域を汚さんとする無礼者っ! 覚悟せよッ!」
「うるせえ、山犬の化け物がっ! この落ち武者丸なら、テメエも倒せらあっ♪」
手傷を負った巨大な金色の狼と相対するのは、朽ち果てた黒い鎧を纏った髑髏頭の巨大武者。
戦国の世に打ち倒された巨大ロボの怨霊に乗り込むのは、野卑な山賊の頭。
「祟りや亡霊が怖くて、山賊やてられっかっ! 喰らえ~~ッ!」
落ち武者丸が虚空に巨大な人魂を召喚し、山神へと向けて放つ!
「そうはさせんっ! 邪気よ吹き飛べっ!」
天からニチリンオーが降って来て、山神と落ち武者丸の間に割り込みダイグンバイで扇ぎ人魂を消し去ったっ!
「ゲゲ~~ッ! ご公儀のスーパーロボットだと~~っ!」
「神君五大分家が一つ軍配家のスーパーロボット、ニチリンオーであるっ!」
「ちくしょう、こんな所に出て来るとはっ!」
「その機体、戦国時代の怨霊機と見た! 怪異ならば人の裁きでなく神威によって成敗するっ!」
ニチリンオーから太郎が叫ぶっ! 邪気を吹き飛ばす軍配を持つ太陽神の巨人に落ち武者丸が恐れおののく。
化け物退治もスーパーロボットの倣い、ニチリンオーはその中でも特に怪異には強かった。
「日輪の子よ、礼を言う!」
「礼なら夕餉で、勝って皆でいただきましょう♪」
「父上、ご無事ですかっ!」
「何と姫よ、そなたも乗っておるとはっ!」
ニチリンオーに、山吹姫が乗っている事に驚く山神。
「洒落臭えっ! 動け落ち武者丸、こうなりゃ自棄だっ!」
落ち武者丸、ニチリンオーの神気に消されかけつつも最後っ屁とばかりに巨大な刀を作り出して襲い掛かる!
「怨霊退散、ニチリンビ~~~ムッ!」
ニチリンオーの兜の金環が神威の輝きを一直線に放ち、落ち武者丸を乗り手ごと消滅させた。
「怨霊悪霊何ずるものぞ、これにて一件落着っ!」
ニチリンオーが見得を切り、勝負はついた。
ニチリンオーが全身から先ほどとは違う金色の輝きを放てば、周囲の土地は浄化され山神の傷も癒えた。
皆で館に戻ると、山神が取って来た熊肉で宴となった。
「日輪の子、いや太郎殿には恩ができましたな♪」
「賊の討伐に助力していただけたばかりか、父の命をお救い下さりありがとうございました♪」
「いえいえ、宿代を支払っただけですのでお気になさらず♪」
太郎は妙な流れを感じて、熊肉のほうとうを食って誤魔化そうとした。
「父上、このご恩をお返しするにはおもてなしだけでは足りませぬ!」
「であるなあ、ならば姫よ太郎殿について行くが良い♪」
「いや、流石に姫君をお連れするわけには参りません!」
「太郎様は、私の事がお嫌いですか?」
「太郎殿、娘は気立ては良いのですが頑固でお転婆なので宜しくお願い申す♪」
「末永く、宜しくお願い申し上げます♪」
「やはり、そう言う流れか~~っ!」
狼からは逃げられない、こうして太郎は山吹姫を仲間に加える事となった。