第三話:若様、初のお裁き
「相変わらず、大きい湖だな♪ 神社へと行くか♪」
太郎は、土産物屋や雑貨屋などがある村の通りを進んで歩く。
湖畔村は、龍神が住むという湖を神宝として祀る神社が名所の観光地だ。
彼を見かけた村人達の顔は明るかった、扱いが人気俳優か横綱のようだった。
やはり握手や写真、バチバチと叩かれたり赤子を抱き上げてくれと頼まれる。
支えてくれる人々が喜んでくれるならと、太郎も喜んで応じた。
そうして、村人達と触れ合いつつ湖の傍の赤い大鳥居の神社へ向かう。
「若様、ようこそ当社へおいで下さりました♪」
「お久しぶりです、宮司殿♪ お変わりはありませんか?」
社殿に通されて、村長でもある宮司と挨拶を交わす太郎。
デジタル手形で、記録を送信しつつ話を聞く。
「これから諸国を巡られる、若様のお手を煩わせて申し訳ございませんが頼み事がございます」
「いや、構わないです♪ ニチリンオーが必要な相手なんですね?」
「はい、ここの所ロボットで湖を荒らし鯉や魚を奪う賊が出ましてお手数をおかけいたします」
「いえ、神罰を恐れぬ不届き者に容赦なしですよ♪ 可能な限り、湖を荒らさずに倒します」
「それでは、龍神様に若様が湖で戦う事のお許しを願いましょう」
「よろしくお願いいたします」
宮司との対話を終えて、そのまま祈禱に立ち会う太郎。
作法に則り、平伏して宮司の儀式を見守る。
社殿にある護摩壇に宮司が魔法で火を灯し、雷の形に刻まれた紙が付いた棒を振り呪文を唱える。
すると、燃え盛る護摩壇から青い龍のヴィジョンが現れる。
「龍神様、湖を荒らす賊を討つ為にこれなる軍配太郎に湖で戦う事をお許し下さい」
宮司が要求を述べると、龍神が頷くと共に太郎に野球ボールサイズの光る玉を授けた。
『日輪の子よ、汝に我が加護を授けるゆえに乱を治に平せよ』
「ありがたき幸せ、軍配太郎必ずや賊を打ち取らせていただきます」
平伏したまま龍神に礼を言う太郎、龍神が消えると同時に湖の方から爆発音が聞こえた!
「ひゃっは~♪ ガチンコ漁だ~♪」
「兄貴~♪ 魚がいっぱい取れるぜ~♪」
「龍神なんざ怖くねえ、魚を獲りまくって売りまくるぜ♪」
湖の上では、二体の茶色い狸型の巨大ロボットが暴れていた。
それぞれの機体を操るのは、赤い半纏に褌一丁の太った狸の獣人の男と痩せて細長い狸獣人の男。
太った兄貴分が操る一体が腹から爆雷と投下して湖を爆破。
弟の操るもう一体が手から出した網で浮かんだ魚を捕獲とダイナミックな密猟をしていた。
「な、何と言う罰当たりな事を!」
「宮司様、早速行って参ります!」
軍配を虚空から取り出して、ニチリンオーを召喚して乗り込み向かう!
「げげっ! 兄貴、あれは御公儀のスーパーロボットだっ!」
「マジか? こうなりゃやるしかねえ!」
ニチリンオーに気が付いた狸ロボット達が慌てる。
「貴様ら、神聖な湖を荒らし盗みを働くとは言語道断! ニチリンオーが成敗してくれる!」
コックピットの中で簡易裁判の作業を行う太郎。
コックピットの中に仮想空間が展開され、奉行所へと変化し太郎の姿が長上下の正装に変わる。
スーパーロボットは武家の魂と言う、スーパーロボット武家社会であるヒノワ国。
国法である、スーパーロボット武家諸法度第一条曰く。
分家と本家を問わず神君家に連なるスーパーロボットのパイロットは、遭遇した悪事への裁判権と罪人への処刑執行権を持つ。
「その方ら、ロボを悪用し神域を荒らした罪は許し難し! よって、我が手による死罪を申し付ける!」
神君家のパイロットとして、地元を支配する領主の息子として、臨時の奉行権を行使し罪人達に裁決を下す太郎。
「うるせえ! お上が怖くてやってられるか! 合体するぞ弟よ!」
「兄貴格好良い、わかったぜ♪」
二体の狸ロボが変形して合体し、黒い茶釜のようなボディに手足と頭が付いた狸ロボットとなった。
「ブンブク丸、見参! お上のロボなぞ、怖くないわっ!」
敵ロボット、ブンブク丸が手足を引っ込めた穴からバーニアを噴射して突進する!
「その挑戦、受けて立つ!」
お白州空間が消滅し元に戻ったコックピットで、太郎がニチリンオーを操作し背中からバーニアを展開して火を噴き突進っ!
だが、ブンブク丸は軌道を変えて急上昇してニチリンオーの突進を回避した。
「へっっへ~ん、化かされてやんの♪ おら、腹太鼓爆雷だっ!」
ブンブク丸が空中で腹を叩いて爆雷を透過する。
「いかん、周囲に被害が出るっ!」
コックピット内で太郎が叫ぶと、龍神から貰った玉が懐から飛び出してコックピットの天井に神棚が設置される!
そして、ニチリンオーの両足に二頭の青い龍が靴を履くように追加され両肩の鯱も二頭の金の龍に変わった。
「加護武装、リュウジンニチリンオーッ!」
いつの間にかニチリンオーが手にしていた、青い柄に刃が山の字のような三又矛を突き上げる!
すると、ニチリンオーの周囲に水柱が上がり落ちてきた爆雷を逆に敵へと押し返した!
「げげっ、兄貴! 爆雷がこっちに!」
「避けて見せらあっ!」
ブンブク丸、慌てて回避を試みるも爆雷が爆発し炎に包まれて落下してくる!
「あんな物が、湖に落ちて来られてたまるか!」
リュウジンニチリンオー、両足の龍頭が吐き出した水流で天に上り空中でブンブク丸をキャッチ。
「た、助かったのか俺達?」
「兄貴、違う! 熱いっ!」
「釜茹での刑に処すっ!」
リュウジンニチリンオー、両手を熱してその熱でブンブク丸を赤熱化させて遠くの山へと放り投げた!
ドカンと大きな音を立て、山肌にぶつけられたブンブク丸が大爆発を起こす。
「やってしまった、今度はあっちの後始末だっ!」
リュウジンニチリンオーを飛ばして山へと向かう太郎、三叉鉾を天に掲げて振り回して雨を降らせて消火。
「加護武装解除! 汚れを払い清める、ニチリンビームッ!」
元のニチリンオーに戻し、兜の金環から金色の光線を発射してブンブク丸の残骸を原子分解させて消滅させた。
ブンブク丸のパイロットだったであろう下手人達は、骨も残らず消えていた。
ニチリンオーは合掌し罪人達の成仏を祈る。
「これにて一件落着、敵とは言え殺めるのは気分が良いもんじゃないがやるしかない」
司法の者として裁きを下した結果とはいえ、太郎は殺めた業を背負い湖畔村へと機体を動かす。
『日輪の子よ、感謝する♪ 我が棲家で心身を清めるが良い』
コクピット内の神棚から龍神の声がしたので、太郎はニチリンオーで湖の中に潜った。
湖の中に入ると、ニチリンオーの全身が淡い光に包まれて太郎の気分が軽くなった。
そんなニチリンオーの前に、頭に鹿の角を生やした黒い長髪の美青年が現れる。
美青年の目は金色、白い肌には頬や額に青い鱗が生えており、服は白い狩衣に青い袴と公家の衣装であった。
相手が一目で神だとわかった太郎は、コックピットの中で頭を下げる。
「日輪の子よ、面を上げよ♪」
「ははっ、この旅は龍神様にはお騒がせしてしまい申し訳ございませんでした!」
「良い、気にするな♪ そなたの働きは大義であった、今後も我が力を好きに使うが良い♪」
「はい、ありがとうございます♪」
「そなたの旅と戦に幸あらん事を♪」
「ありがとうございます、それでは失礼させていただきます!」
龍神に礼を言い、湖から出て行くニチリンオー。
地上に戻り、ニチリンオーから降りた太郎は機体を異空間へと送還する。
「若様、ありがとうございました♪」
「いや、こちらこそ龍神様のお陰で大事なく勝てました♪」
やって来た宮司と会話する太郎。
その日は神社に泊まり翌朝、太郎は湖畔村を旅立ち自身の領地から出たのであった。