第二十八話:若様、桜と鹿と杉の国へ行く
「熊肥ではホクテンオーと対決、疲れた」
「まあまあ、ヒノワ本土最南端の桜鹿の景色を楽しみなよ♪」
「桜と鹿肉が有名だそうですの♪」
「いや、確かに桜が綺麗だけどさあ?」
ホクテンオーとの対決を終えた太郎達は、桜鹿と言うヒノワ最南端の地を訪れていた。
その地域は、名前の通り桜並木が美しい地であった。
並木と言うよりは、周囲が桜の森と言う程に野道の周りも満開の桜で満たされていた。
「富桜にも、負けじと誇る桜鹿かな♪ だねえ♪」
楓が句を読み上げる。
「富桜山にも負けてないってのは、確かだな♪」
太郎が桜を見て、本島の富桜山にも負けてはいない名所だなと実感していた。
「それに、この地には桜鹿示倒流と言う剣術がありあますの♪」
「そうなんだ、強そうだね?」
「示倒流は、一撃が重い剛剣だと聞きますの♪」
武術に詳しい山吹姫が解説する。
山吹姫の解説を聞きながら歩く一行。
「チェ~リャ~~~ッ!」
可愛らしいが力強い雄叫びと、ガンガンと木を鳴らす打撃音が聞こえてくる。
「もしかして、誰かが暴れてるのか?」
太郎が自分達が向かう方から聞こえる声に驚く。
「若様、私達がいるあkら大丈夫だって♪」
楓が笑う。
「そうですの、私達がお守りいたしますの♪」
山吹姫も微笑み進む。
「いや、俺も二人を守るぞ! 男の端くれとして!」
太郎も生身で弱いわけではないが、まだまだ修行中。
だが、気持ちでは引いてはいられぬと奮起はする。
進んでみると、桃色の着物に紺袴を着たおかっぱ頭で太い眉毛の美少女がいた。
剣術の稽古か、鹿の様なジャンプで自分より何倍も太い桜に突進し連撃を入れる。
「チェリャリャリャ~ッ!」
美少女の滅多打ちは、樵仕事のように桜の木に切り込みを入れて行く。
得物は木刀か? 木で木を切ると言う技に太郎達は目を奪われた。
桜の木が倒れて少女の動きが止まる。
刀身が太くこん棒のような稽古用の木刀を脇に下ろし、太郎達を見る美少女。
「身なりからして、高貴なお家の方達のようですがどなたですか?」
「ああ、稽古中に失礼! 俺は軍配太郎、軍配党を率いて漫遊中の身だ」
「こちらが身の証の印籠ですの♪」
「幟もあるよ~♪」
山吹姫が印籠を、楓が幟を出して美少女に見せる。
「お初にお目にかかります♪ 桜鹿藩主が娘、薫子と申します♪」
薫子が太郎達に会釈をしたので、太郎達も礼をした。
「ああ、ご丁寧にどうも♪ それでは我らはお先に失礼いたします」
「お待ち下さい、神君候補の若君をもてなさぬのは桜鹿の名折れ!」
去ろうとする太郎達を止める薫子。
太郎からすれば、権力者の姫君など下手な悪者より関わりたくなかった。
自分が権力を持つ身だからこそ、権力持ちが面倒だとわかる。
「若様、ここはお受けするのが礼儀だよ」
「そうですの、旅先の領主と友好関係を築くのも大事ですの」
「では、ありがたくお邪魔させていただきます」
山吹姫達に言われて、お誘いを受ける事にした太郎。
後の遺恨とか謀反の理由とかを作らないようにするのは大事だよな。
太い木刀を肩に担いだ薫子に先導され、太郎達は城下町へとやってきた。
「街の中にも桜が、豪勢だなあ♪」
「綺麗だね♪」
「美しい風景ですの♪」
太郎達は満開の桜が植えられた街の通りを見回しながら歩く。
「お褒めいただき恐悦至極♪ ヒノワ一の桜の名所でございます♪」
薫子が嬉しそうに微笑む、周囲の町人達は活気良く商売をしたりしていた。
「桜の箸や桜の飾りと、土産物も桜づくしか♪」
「桜の木刀も売ってますの♪」
「桜餅や桜饅頭に桜鍋と、食べ物も美味しそうだね♪」
「これは財布の紐も緩むな,後で買い物をさせていただこう♪」
来てみたら楽しそうな所だったので、この地を楽しみたくなった太郎達。
「皆様、お気に召していただけたようで何よりです♪」
太郎達が城下町を気に入った事に気を良くする薫子。
「それでは皆様、観光の前に桜鹿城へと参りましょうか♪」
薫子が通りの先の、桜に囲まれた黒い城の方を指さす。
「姫~~~っ!」
同時に城の方から、年老いた男性の武士が家臣達を引き連れて駆けて来た。
「爺や、控えなさい! 城を抜け出しはしましたが、神君候補の案内と勤めの最中ですっ!」
薫子が先手を取って武士に叫ぶ、山吹姫がサラリと印籠を出して見せれば武士達は平伏した。
「いや、面をお上げ下さい! 神君家に免じて、お目通りの手はずをお願いいたします」
山吹姫が薫子を庇ったので、爺やさん達の為にも出汁にされたのを受け入れた太郎。
笑顔で自分に振りむき微笑む薫子に、太郎は溜息を吐いた。
「ご配慮感謝いたします太郎様、それでは我らと共に」
爺やさんも加わり太郎達は城へと通された。
「ようこそ桜の国へ♪ 娘が世話になりもうした♪」
天守の間で上座から出迎える中年美形マッチョな殿様、桜鹿角進。
鹿の神の眷属たる鹿の獣人らしく、頭の角は立派であった。
「お目通り感謝いたします、薫子姫の剛剣はお見事でした」
「我が娘ながら馬鹿力でお転婆でのう♪ 嫁の貰い手が心配で♪」
「父上、私は太郎様より父上のような逞しい殿方が好みですから♪」
「これ、甘えん坊め♪」
太郎はスルーした、迂闊な事は言えないしあれは薫子の助け舟だろう。
薫子も頑張れと心の中で応援し、太郎達は無事に城を出た。
「薫子様、良い方でしたのに?」
「俺の嫁は貴方だけです♪」
「私も夫は貴方だけですの♪」
「うんうん、家はこれで良いね♪」
チームの仲も強まり、ひとまず城下の茶店で桜の菓子と茶を味わう。
「で、この地の様子はどう?」
太郎が楓に尋ねる。
「うん、桜がどれもご神木で何重もの結界になってる」
「御領主様や姫君も、悪人ではないとは思う」
「悪事が起きても、薫子様やこの地の武士の腕なら鎮められますの」
「俺達、軍配党の仕事はここではないと言う事だな」
山吹姫も混ざり意見を交わす、観光しつつも街の様子は調べていた。
民の様子も虐げられている気配はなし、領主の人柄も良し。
ここではニチリンオーの出番はなしと太郎が決める。
「では、別の街に向かおうか?」
太郎が移動を提案する。
「では、次は鹿神のおば様にご挨拶いたしましょう♪」
「と言う事は、種杉島か?」
「杉花粉に気を付けないとね」
「ああ、花粉症は怖いからな」
太郎達は、桜と並ぶ桜鹿の名産品の杉が有名な鹿の神のいる島を目指す事にした。
だが、突如鳴り響く轟音と鹿の鳴き声が鳴り響く。
「ここの皆の勘定だ、釣りは心付けで!」
「ありがとうございました~~っ♪」
有事だがまずは支払いだと、太郎が小判を十枚ほど店に支払う。
店員に礼を言われながら、仲間と店の外へ飛び出す。
桜を蹴散らし、巨大な黒い鹿の怪物が城下町へと迫っていた。
「あれは、鹿神のおばさまっ!」
「ちょっと、神様に一体何があったのっ!」
「わからんが、一気に行くぞっ!」
太郎達は自分達のロボを一気に召喚して乗り込み空中で合体。
「おば様、失礼いたしますわ!」
カルテットニチリンオーの形態で空から鹿神に強襲を掛けた!
空から攻める文字通りの、フライングボディプレス。
だが、相手も神ゆえに潰されはせず蹴り上げで迎え撃ちで双方が弾かれた。
「着地成功、どうする若様?」
「勿論相手を倒して浄化し、神もこの地も救うのみだよ!」
「ええ、おば様をお助けしますわ!」
互いにここからが勝負と向き合う、鹿神とカルテットニチリンオー。
鹿も四つ足、牛も四つ足とは誰の言葉か。
鹿神は鼻からドロリと黄色い液体を出して首を振って撒きちらす!
巻かれた液体が桜に掛かれば、霊気に満ちたはずの神木の桜が煙を上げて溶ける!
「あれ、杉花粉と酸の鼻水じゃない? 桜が溶けちゃってるよ!」
楓が外の様子を見て叫ぶ。
「どうにもあの神様は正気じゃないな」
太郎が敵の動きを警戒する。
「おば様から、異界獣の気配も感じられますわ!」
鹿神の知り合いである山吹姫が、異変に気付いた。
「異界獣に汚染とかされて花粉症か? だが俺達なら救える!」
カルテットニチリンオーは右手にダイグンバイ、左手にアカベコシールドを構える。
恐怖の花粉交じりの鼻水を飛ばして来た鹿神。
美しい桜と街の人々を守る為、カルテットニチリンオーがダイグンバイを振るう!
ダイグンバイからの風が汚物とぶつかり合うと、神威の炎を燃え上がらせて浄化する。
「軍配は邪気を払い運気を招く物っ! 鎮まり給え、ニチリンブレイズッ!」
普段の戦いのように格闘などをしていれば被害は甚大。
カルテットニチリンオーがダイグンバイで鹿神を扇げば、大地から火柱が上がり鹿神を包む!
火柱が消えると鹿神の黒い皮が剥がれ落ちて霧散化する。
青き輝きを放つ巨大な牝鹿は鳴き声を上げ、ニチリンオーのダイグンバイに光線を放つ。
「よし、扇げば桜が蘇るんだな」
鹿の神の意図を組んだ太郎がカルテとニチリンオーを操作する。
カルテットニチリンオーがダイグンバイを扇げば、青き光の粒子が周囲に降り注ぐ。
光が注がれた場所からは、新たに桜が芽生え伸びて行き花を咲かせた。
再び周囲が桜で満たされると、鹿神は急速にその身を縮めて行き人の姿となった。
太郎達もニチリンオーを送還して大地に降り立つ。
「感謝いたします、日輪の子よ♪」
長い鹿の耳を生やした白い肌に金の瞳を持ち、青く長い髪を生やした美しい巫女。
鹿神が太郎に礼を言う。
「どういたしまして、何があったのですか?」
礼を言われた太郎が原因を尋ねる。
「おば様、私達がお力になりますの♪ おっしゃて下さいませ♪」
山吹姫が言葉を促す。
「島に現れた異界の獣との戦いに敗れ先ほどのような事に」
申し訳なさそうに語る鹿神。
「若様、お助けするしかないよね?」
「勿論だ、異界獣を倒して種杉島を救わねば!」
楓の問いに勿論だと答える太郎。
「ありがとうございます、それでは島までご案内させていただきます」
鹿神が笑顔になり、案内を申し出てくれた。
「おば様、涙とお鼻が溢れておりますわ!」
山吹姫が鼻紙を取り出して差し出せば鹿神が受取り顔を拭く。
「神様を花粉症にさせるって、人間なら地獄だよね」
楓が島民たちの身を案じる。
「ああ、急がねば! 楓姉さんは、ヒスイマルを呼んでくれ」
「任せて、空から殴り込みだね♪」
太郎が楓に頼みヒスイマルを召喚してもらうと、皆で乗り込む。
軍配党の一行と鹿神は、異界獣の征伐に向かうのであった。




