第二話:若様、旅立つ
「さて、これで後は幟かお共がいたら桃太郎だな♪」
水色の着物に灰色の武者袴、その上に渡された白に金地の陣羽織を羽織る太郎。
脇に大小二本差し、黄金軍配は収納魔法でアイテムボックスと言う名の異空間に入れている。
「しかし、魔法にナノマシンにと混沌とした世界だよなあ? サモンスクリーン!」
声に出せば、パソコン画面のように文字が表示されたスクリーンが虚空に浮かぶ。
スクリーンは指でも視線でも操作できた、キーボードやマウス無しでの操作は便利だった。
「これ、父上に母上に師匠とかできる人はできるんだよな? 他の人達は端末使ってるし?」
天網と言う地球で言うインターネットもあり、パソコンやスマホのような機械があるヒノワ国は江戸時代に似ているが魔法と超過額の技術の恩恵を受けている国であった。
「前世と通じる世界に生まれ変われて助かった、米も食えるし♪」
太郎はその辺りは神仏に感謝していた、支度を済ませた太郎はスクリーンで母に連絡する。
「あら、太郎♪ 似合ってますよ♪」
「ありがとうございます、母上はご出産のご武運を♪」
「おほほ♪ 後、九十人は産む予定なので負けてられません♪」
「帰る頃には弟妹がまた増えますか♪」
太郎から見れば、和風な造りの病室で洋風なベッドに横たわるの一人の女性。
金髪碧眼で色白と西洋の風貌に、犬耳と尻尾を持つピンク色の入院着姿の豊満な美女。
太郎の母である狼獣人の軍配ゴールディ。
西洋の獣人の国、レトリバー王家から嫁いで来たこちらもかつてのニチリンオーのサブパイロット。
夫である春吉とは今も熱愛冷めやらぬ中で、今度十人目が誕生予定だ。
「太郎? 元服したのですから旅の中では、悪を退治するだけでなくお嫁さんも見つけて来なさいね♪」
「母上、それが一番の難題なんですよっ!」
「それでは帰ってきたら実家に連絡して、お見合い相手を探してもらいましょうかね?」
「そこまではまだ早いので最後の手段で、それでは!」
急ぎ連絡を切る太郎、前世では彼女を探す以前に死んだので恋愛方面は苦手であった。
「両親のお陰で、前世より遥かに良い顔になったとは思うが色恋はわからん」
自室の鏡で己の顔を見る太郎、一応ラノベやアニメの主人公っぽいそこそこ良い顔である。
母から受け継いだ青目と獣人らしい牙っぽい犬歯が、鏡に光る。
何はともあれ、旅支度を終えた太郎は旅立ちの時を迎えた。
出立前にニチリンオーを呼び出し城内全員で神職による祈願を済ませ、太郎は家族や家臣達に見送られて城から旅立った。
城下町を通れば、旅人以外の街の人々が応援してくれる。
「ありがとう、それでは行って参る♪」
城下街を過ぎれば電柱が並ぶ静かな野道、道の脇に地蔵を見つけたので太郎は握り飯を供えて旅の成功を祈願した。
茶店を通り過ぎれば、店の主人や授業陰が頭を下げたので笑顔で手を振った。
「家の領内は治安は良いな、皆の働きのお陰で♪」
城下町と農村の間の茶店を過ぎれば、農村が見えてきた。
「お、若様だ♪」
「おお、本物だ~♪」
「若様~♪ 酒や菓子をありがとうございます~♪」
「こちらこそ、暮らしを支えてくれてありがと~♪」
畑仕事をしていた農民達に姿を見られ、声を掛けられたので太郎は手を振り叫ぶ。
和洋折衷な村の中に入れば、子供や女房衆や年寄り達が笑顔で騒ぎだす。
「若様、家の赤子を抱っこして下さい♪」
「はいはい、良し良し♪」
相撲の横綱のように赤子を抱いてくれと頼まれるは、年寄りから拝まれるは農村でも太郎はスター扱いであった。
そんなこんなを越えて、村長の家でもある西洋風の白い二階建ての建物。
村役場に太郎はやって来た。
「たのも~♪ 軍配太郎、村長殿にお話をお伺いしたく参上仕りました~♪」
「い、いらっしゃいませ~~っ♪」
洋風の制服姿の村役人達が頭を下げて出迎えた、太郎は心の中で江戸と現代日本の混ざり具合に苦笑いした。
洋間な村長室に通された太郎、やって来たこちらも洋風な制服姿に大小を帯刀した村長の老人男性と多面する。
「若様、お初にお目にかかります♪ 団扇村団扇村村長の、米田畑作と申します♪」
「お初にお目にかかります、軍配太郎です♪」
「ニチリンオー継承、おめでとうございます♪ 旅のお帰りの際も、お立ち寄り下さいませ♪」
「ありがとうございます、米田殿♪ こちらでは、何か俺にできる困り事はございませぬか?」
村長の米田に尋ねる太郎、領地の外に出る前に領内で何かできる事があればしておきたかった。
「そうですなあ、この間山に出た若様にガマの怪物は退治していただきましたのでございません♪」
「ご迷惑をおかけいたしました、では今後巨大怪物が出た際は代官所にお願いいたします」
「いえいえ、この村が平和なのも村を洋風化し民草も戦えるようにして下さた殿のお陰です♪」
「そうおっしゃていただけると幸いです、それでは俺がこの村を通過した事は記録して下さい♪」
「かしこまりました、それではこちらのデジタル手形にお手を拝借♪」
米田村長が、タブレットを出して来たので太郎はその画面に右手を押し付けて城へ記録データの送信を行った。
村長とのやり取りを終えた太郎は、役場を出て村人達に見送られながら団扇村を出て行った。
「さて、次の村まではまだ距離があるなあ」
電柱程度しか建造物がない道を歩く太郎、だが彼の平穏はここで破られた。
空を見上げれば瞳に警報と数字が表れる、それは空間の破壊率だ!
「空にヒビ? まさかまた巨大怪物か!」
太郎は虚空から軍配を召喚し、ニチリンオーを緊急召還して乗り込む!
それと同時に、空にブラックホールが開き中から赤いトカゲもどきの怪獣が落ちて来て叫びを上げた。
「出やがったな、先手は貰う! ニチリンオー、台場キャノン!」
ニチリンオーの下腹が開き、黒い砲身が突き出し砲口から巨大な火炎弾を発射した!
攻撃は命中、着弾するも怪獣は体に少々焦げ跡ができたのみでニチリンオーへ突進っ!
「ちいっ! 熱に強いタイプか! ならば受けて立つ!」
突っ込んでくる相手に、こちらも腰を落として背中からバーニアを噴射してぶちかましに行くニチリンオー!
ぶつかり合う怪獣と巨大ロボ、征したのはニチリンオー! 怪獣は突き飛ばされて転倒した!
「熱に強いなら熱に打撃を加えて攻める! ソーラーキック!」
ジャンプして空中で機体を回転させ、足裏に日光を当ててエネルギーを集めるニチリンオー。
怪獣が起き上がりかけた所に空から赤熱化した足での踵落としを、怪獣の脳天へとニチリンオーは叩き込んだ!
熱と重力が乗った打撃は怪獣の頭部を粉砕し、ニチリンオーは足で怪獣を真っ二つにして着地した。
「良し、後は供養だ成仏してくれ! ニチリンウェ~~ブッ!」
太郎はニチリンオーの顔を天に向け、兜の飾りに日光を集めてから怪獣に亡骸に飾りから熱波を照射して焼き払った。
敵の亡骸を骨まで焼き尽くした太郎は周囲が平地である事を確認して、ニチリンオーを寝かせる。
「さて、一休みついでにニチリンオーも日光を当ててエネルギーチャージだ♪」
まるで日光浴のように、ニチリンオーの表面全体に小一時間ほど陽射しを浴びせる太郎であった。
自分の休息とニチリンオーの充電を終えた太郎は、機体から降りてニチリンオーを異次元ドッグへと帰還させる。
「良し、今日中に領内の村を視察して回ろうその後は関所へ向かう♪」
と言って太郎は歩き出し、再び旅を始めた。
他の村でも団扇村と同様にスター扱いをされつつ、役場で話を聞く太郎。
「若様、湖畔村へ行かれては如何ですか♪ 龍神様にも旅の祈願はなされても損はありませんよ♪」
「わかりました、それでは領内の最後の視察は湖畔村にします♪」
三番目の村役場で此方は年若い青年の村長からの勧めを受けて、領内の最後の村である湖畔村へと向かう太郎であった。