第十九話:若様、香松で呪術教団と対決する
四島を旅する若様一行こと軍配党。
阿島でひと騒動を起こした事で殿さまと縁が出来た彼ら。
「太郎殿、この阿島徳太夫貴殿を応援させていただきますぞ♪」
「恐縮です、この度はお騒がせいたしました」
「何の何の、楽しい祭りでしたぞ来年も宜しければ起こし下され♪」
「ありがとうございます、それでは失礼いたします♪」
阿島の殿さま達に見送られて太郎達は旅立った。
「阿島の龍麺は美味しかったね、若様♪」
「ええ、まさか大陸の麺料理が伝わって根付いていたとは思いませんでした」
「麵と言えば、この先の香松はうどん国らしいですの♪」
旅と言えば名物料理、楓や山吹姫から出るのは料理の話題。
「姫、うどん作りがやりたそうですね?」
「ええ、龍麺も覚えましたし香松饂飩も覚えますの♪」
「二重の意味で名実ともに、御台所様だからね山吹姫は♪」
「姉さんは洒落が効いているな」
「私、剣も包丁も腕に覚えありですわ♪」
楓が笑い、姫や太郎も微笑む旅の空は晴れていた。
街道を歩み宿場町に入れば、街の空気に醤油とカツオ出汁の香りが漂ってくる。
「うどん屋さんが多い宿場だねえ♪」
「流石はうどん国ですの」
「取り敢えず、情報を探ろうか?」
「うん、敵がどんなに上手に隠れても暴いちゃうよ♪」
一行は、ひとまず足を休められる場所を探して『おたふく屋』と言う民宿に泊まった。
「気持ちが落ち着く宿ですわね♪」
「ああ、部屋も見晴らしが悪くない」
「通りも良く見えるし、式神のお札を飛ばすね♪」
楓が窓から呪符を放り投げれば、紙は鳥に泣て飛んで行った。
「失礼いたします~♪」
衾が開いて桃の着物を着た、おたふくのような温和な笑顔の女性が入って来た。
「女将の福と申します、若様にお泊りいただけるとは幸いでございます♪」
「お世話になります、なるべくこの街では戦わないようにします」
太郎が女将さんと挨拶を交わす、世話になる以上礼儀は大事だ。
「お福様は、何かこの近辺で悪事に繋がりそうなお話はご存じありませんか?」
山吹姫が尋ねる、地元民からの話は聞いておきたい。
「この街では今の所は、何かあるとはわかりかねます」
女将が申し訳なさそうな顔で答える。
「そうですか、ご協力いただきありがとうございます」
「お役に立てず申し訳ござません」
「いえいえ、お宿のうどん楽しみにしております♪」
太郎達の部屋から去る宿の女将さん。
「取り敢えず、振舞いや口から嘘はなさそうでしたわ」
女将さんを観察していた山吹姫が呟く。
窓から鳥達が入って来て呪符に戻ると楓も口を開く。
「うん、こっちも収穫無しだったよ」
楓がごめんと頭を下げる。
「うん、取り敢えず普通の宿場町だとわかったのが収穫だよ♪」
「確かに、宿場町そのものが戦場になるなどがなくて何よりですの♪」
「そうだね、じゃあうどんを食べよう♪」
「いや、楓姉さんは本当に食道楽だな?」
三人は言い合いつつ、宿の女将さんが作ってくれた香松うどんをいただく事にした。
「こちらが、当宿自慢の香松うどんでございます♪」
女将さんと仲居さんが、太郎達の部屋に名物のうどんを持って来てくれる。
「うわあ♪ お出汁の良い香りだよ若様♪」
「カツオの香りですの♪」
「香松の隣はカツオの名所の佐知だったな?」
「ええ、出汁は佐知のカツオを用いております♪」
「先の阿島の一件でのカツオは、佐知の方から潮の流れを持って来たのでしょうか?」
「かも知れないなあ、コシの強いどんだ♪」
「こっちのうどんも美味しいね♪」
「どこかで香松うどんの打ち方を学びたいですの♪」
うどんを楽しむ太郎達、太郎は前世で食べた香川のうどんを思い出しながら食べていた。
「お気に召していただきありがとうございま、城下の方ではうどん大会などが開かれておりますので足を伸ばされては如何でしょうか♪」
女将さんが笑顔で語る。
「へえ、面白そうだね若様♪」
「いや、悪党探して懲らしめてと世直しが先だからね?」
「まあまあ、目立つ所には悪党も出てきますわ♪」
「若様、私も任務で旅をした事はあるけれど旅を楽しむ気持ちも大事だよ♪」
「今は力を緩めましょう、次に力を入れる時の為に♪」
「じゃあ、そう言う事にしておきますか」
太郎は、宿場町で一休みと仲間達とうどんを楽しんだ。
「お世話になりました♪
「お世話になりましたの♪」
「おうどうん、美味しかったです♪」
「いえいえ、皆様のまたのお越しをお待ちしております♪」
宿を立つ太郎達と女将の挨拶、女将は太郎のサインと手形を貰いご満悦であった。
小判で宿代を支払った太郎達は、宿場を後に城下を目指し歩き出す。
「そう言えば、なにやら妙な話が聞けましたわね?」
歩きながら山吹姫が呟く。
「ああ、ハニワ教だっけ?」
太郎が呟きに答える。
「最近出てきた宗教らしいねえ? 気にした方が良いかも?」
楓が訝しむ。
「確かに、そんな神様は神の宿でも見なかったな?」
「うん、あそこにはヒノワ中の神様が集ってたはずだよね?」
「宿にいた神々全員から、太郎様はバチバチとお体を叩かれてましたしね♪」
太郎も訝しめば楓と姫も思った事を口に出す。
ハニワ教、崇めているの神ではなく邪悪な者であれば退治しなければならない。
太郎は宿の女将から聞いた珍しい話を調べようと決めた。
宿場町を出た太郎達は、再び街道を歩み城下町を目指す。
道中で異変に気が付いたのは楓だった。
「ありゃ、この先の村が焼かれてる?」
「大変ですの、急ぎますわっ!」
「姫、お願いします! 楓姉さんは空からで!」
「わかった、任せてっ!」
楓は翼を生やして空を飛び、太郎は狼となった山吹姫の背に乗り事件の現場へと急ぐ。
「殺せ! 燃やせ! この地は我らハニワ教団が乗っ取るのだっ!」
丸い土の仮面を被り矛や剣と古代の武装をした、白い衣褌の男達が村人達を襲い家に火を付ける。
「だ、誰かお助け~っ!」
「子供だけは~っ!」
逃げ惑う者、子供を守るとする者、苦しめられる村人達。
「助けに来たよ、天狗の大風っ!」
まず空から来た楓が、風を起こして敵兵を吹き飛ばして飛び回り建物を消火していく。
「軍配党参上、狼藉は許さんっ!」
狼の背から跳躍した太郎が敵を一刀両断する。
「農村の皆様、お助けに来ました!」
狼から戻った山吹姫が、疾風となって狼藉者達を切り捨てて行き人々を救う。
「ああ、ありがたやっ!」
「お武家様、ありがとうございます! でもまだ庄屋様の家がッ!」
「わかった、任せてもらおうっ! 姫、行きましょうっ!」
「かしこまりましたわっ!」
太郎と山吹姫が駆け出して、村で一番大きな庄屋の家に向かう。
「誰か、誰かお助け~っ!」
「助けなど来るものかっ!」
「いいや、ここに来たぞっ!」
「ご公儀の目は、悪事を見逃しませんわ!」
庄屋の居間、土の面を被った古代人もどきの男が小ぎれいな着物姿の老人男性に矛先を向ける。
そこへド派手に飛び込み庄屋と敵の間に割り込んで来たのが我らが主人公、軍配太郎と山吹姫だ!
「ぐぬぬ! 我らハニワ教団の邪魔立てをするか!」
「当たり前だ、ヒノワの民は俺達が守る!」
「五大分家の紋所が目に入らぬかですわ!」
山吹姫が印籠を出せば、庄屋さんは土下座した。
「むむ、こうなればロボでなければ勝負にならん!」
仮面の男は山の方へと逃げ出した。
「奴らは我らが成敗します、庄屋さんは村の人達をお任せします!」
「か、かしこまりました~っ!」
跪いている庄屋さんに太郎は叫ぶと、姫と一緒に敵を追いかける。
「建物の火は消したよ若様♪」
「ありがとう姉さん、敵は山の方へ行った!」
「山なら被害を気にせず戦えますわ!」
楓も合流し、皆で山へと向かえば林の中から巨大な茶色の武人雄型の埴輪ロボが現れた。
「出たな、ロボを出したなら容赦はしない! トライニチリンオーで行こう!」
「「応っ!」」
敵がロボを出せば、太郎達もロボを召喚し最初からトライニチリンオーにして乗り込んだ。
「行くぞ皆、世と人に害をなす邪悪な輩は我らトライニチリンオーが許さん!」
「いざ、成敗ですのっ!」
「先手必勝だよ、雉の爪っ!」
トライニチリンオーの背に合体したヒスイマルの足の爪がワイヤー付きで射出される!
「ぐわっ! 小癪な真似を!」
敵パイロット、丸い土の仮面が特徴の白い衣褌の男がコクピット内で唸る。
自分の操る巨大な埴輪ロボが、トライニチリンオーに縛られたのだ。
「私、独楽廻しが得意なんですの♪」
トライニチリンオー側のコックピットでは、今度は山吹姫が操作をし縛った埴輪ロボを振り回して山肌に叩き付ける。
ワイヤーは楓が操作して、敵から離してヒスイマルへと戻す。
「うん、お見事です」
「豪快だね、姫♪」
「お褒めに預かり恐悦至極ですの♪」
初手から猛攻を仕掛けたトライニチリンオー、だが埴輪ロボはまだ破れてはいなかった。
「ぐおおっ! 貴様ら小童共になめられてたまるかっ!」
敵パイロットの土の面から、墨のように黒い邪気が噴き出し埴輪ロボが立ち上がる。
埴輪ロボの無表情な埴輪の面が割れて、憤怒の形相をした黒い男の面相に変化した。
更に、埴輪ロボの全身も装甲が弾けて黒い古代の武者と言う風体に変形した。
「埴輪から魔人に化けたな、まさにハニワ魔人だな! スタンドファイトモード移行っ!」
敵の名をハニワ魔人と名付けた太郎、相手が本気ならこちらも本気で迎え撃つ。
トライニチリンオーの内部もシートがスライドするなど変形。
太郎が舞台の上に立ち、楓と山吹姫が左右の脇に控える形になる。
「よし、次は俺の番だ♪ コダイオーブレード!」
太郎が叫べばその手に金の蕨手刀が握られる。
対するハニワ魔人も腰の剣を抜いて襲い掛かる。
敵の猛烈な打ち込みをコダイオーブレードで受けて鍔迫り合うも、トライニチリンオーは押し返す!
「お返しだ、コダイオースラッシュ!」
トライニチリンオーが、コダイオーブレードを振り光の斬撃を飛ばす。
だが、ハニワ魔人は飛んできた斬撃を両腕をクロスして受けて耐えた。
「やられはせん、俺はやられんぞっ!」
ハニワ魔人のコックピットで叫ぶ敵パイロット。
「やるなあ、だけどこっちもまだ手はあるぜ♪」
腕の立つ敵と対峙して闘志が燃える太郎、コックピット内で蕨手刀を上段に構える。
「行くぜ、金環日食崩しっ!」
人機一体の必殺技、太郎が機内で剣をぐるりと回せばトライニチリンオーも同じ動作を行う。
「な、何をする気だ小童っ!」
金環日食崩しの動作を勁秋して動きを止めたハニワ魔人、それがいけなかった。
トライニチリンオーが描いた金の光の輪が飛び、その直撃を受けて燃え上がるハニワ魔人。
続いて振るわれた、トライニチリンオーによる胴への斬撃でハニワ魔人は両断されて消滅した。
「これにて、一件落着」
残心を決め、敵を倒して勝負がついた事を宣言する太郎。
機体から降りて村へと一行が戻れば、全員揃った村人達が跪いて礼をしていた。
「ああ、面を上げて下さい皆さん!」
慌てて姿勢を戻すように言う太郎、その言葉で村人達は立ち上がる。
「太郎様、この度はありがとうございました」
庄屋さんが礼を言う。
「いえ、どういたしまして。 庄屋さんは奴らに心当たりはありませんか?」
太郎は庄屋に事情を尋ねる。
「いえ、私達もさっぱり! 怪しい輩がでるとは聞きましたが、この村に攻めて来るとは!」
心当たりはないと言う庄屋さん。
「若様、これはご城下も不安だね?」
「ひとまずの脅威は去りましたが、どうなさいますの?」
「うん、城下町へ急ごうか? 御領主っ地が奴らの事を把握しているのか調べたいし」
太郎達は城下町へ急ぐと決めて、農村を出て行くのであった。