第十八話:若様、阿島で鯛を獲る
「ここが四島の一つ阿島か?」
「阿島踊りて言う、盆踊りが有名だね」
「盆踊りと言う事は、何やら慰霊が必要な事があった場所なのですね」
「そうなんだ、しかし橋があれば本島とも行き来が楽になるだろうにな?」
兎神の作った橋を渡りやって来た若様一行、地球の瀬戸大橋を知る太郎には船以外の普通の交通手段がないのが不便に思えた。
「その辺りは、地元の方々や端を架ける先の方々との話し合いですわね?」
「そうそう、色々な人の生活に関わって来るから私達だけで決めちゃ駄目だよ?」
「う、確かにそうですね! こういう時に他の奴らなら、剛腕を振るって決めるんだろうな?」
太郎は、自分が物を申せる権力がある事に気付くも戒める。
「ここで忠言を聞いて留まれる事は、若様の良い所でもあり弱さでもあるね」
「時には振り払って進む事も必要かもしれませんのよ?」
「そうだね、今は聞くという決断をするよ」
太郎はそう決断した、今後も決断の時は来るであろうがしっかりと決めて行こうと思った。
晴れやかな空の下、海岸から里へと向かい歩く一行。
「さあさあ皆々様♪ 天下の世直しスーパーロボット、ニチリンオーを駆る軍配党がやって参りました♪」
と、楓が軍配党の幟を持ち大声で語りかける。
「旅芸人の気分ですわね♪」
「うん、そんなノリだよな」
太郎と山吹姫は、気恥ずかしくなった。
「魔物にごろつき異界獣、悪党退治にロボがいる程の大仕事♪ 軍配党にお聞かせいただけないでしょうか♪」
太郎達を気にせず楓は営業の声掛けを高らかに叫ぶ。
「民の皆様のお困りごと、我ら軍配党がお聞きいたしますわ~♪」
山吹姫も叫ぶ。
「ああもう、姫もか! できる事は成し遂げる、出来ない事も相談には乗る! 助けを呼ぶ声には答えるぞ!」
仕方なく太郎も叫ぶ、助けに応じると言う言葉に嘘はない。
「お~た~す~け~を~っ!」
「待ちやがれ、この魚盗人が~っ!」
太郎達の声掛けに反応したのか、彼らの後ろの方から活きの良い一匹のカツオをかけて走る黄色い着物姿の小狸とそれを追いかける漁師姿の大人の狸達の姿があった。
「あ、お侍様! 阿島一可愛い娘っ子のおいらを助けて~っ!」
そう言って小狸が太郎達の後ろに隠れる。
「テメエ、山狸の癖にずうずうしい事抜かすな! お侍様、その盗人狸を引き渡して下せえ!」
「お願い、殺されちゃう!」
双方から訴えれる太郎。
「盗みはいかんが、見殺しもできん。 双方助ける故に、話を聞かせてくれ! でなければ我らのニチリンオーがすべてを焼き尽くす!」
太郎が真剣に告げると、狸達は皆一斉に土下座した。
「ひ、ひええっ! お助け下さい、病気の母に滋養を付けさせたくて~っ!」
「そこの山狸に取られたカツオは、御領主様へお誕生日のお祝いの献上品でございますっ!」
大小それぞれの狸達が訴える。
「ふむ、領主への献上品を奪うとは重罪だな? 漁民だけでなく山の狸達にも累が及ぼう」
「返したからと言って、許される咎ではございませんからね」
「どうするの若様?」
狸達は被害者も加害者も双方助けを求める。
「仕方あるまい、ならばこの一件は俺が預かろう♪ 姫と楓姉さんは小狸の方を頼む」
「ひゅ~♪ じゃあこのカツオは私達が貰ったという体でその子のお母さんに上げるんだね♪」
「でも、この子へのお仕置きは必要ですわよ?」
「仕置きは、隣の愛予にある狸の尼寺へ預けるだな」
まずは小狸の方の処遇を決める太郎、小狸は驚いた顔をするが山吹姫が圧を放ったので文句は言わなかった。
「そして漁民達よ、いただいた以上俺が詫びると言う事で一緒に海へ出て鯛を取るぞ!」
太郎が芝居がかった口調で宣言すると、漁師狸達は従った。
太郎は、虚空から印鑑と書状用の用紙と筆と文箱を取り出して大急ぎで領主へのお詫びとお祝いの文章を書き上げる。
こうして太郎達は、自分達が招いたとも言えなくはない騒動の解決に乗り出した。
太郎はニチリンオーを召喚して漁師狸達を掌へと載せて、漁村へと飛んで行く。
「な、あれは軍配家のニチリンオー! 皆の者、平伏せ!」
「「はは~~っ!!」」
献上品を受け取りに来た役人達や村人達が一斉に地に平伏す。
着地したニチリンオーが漁師達を下ろして太郎も出て来る。
「お役目ご苦労、詳しい事はこの書状に書いたが献上品のカツオは俺がいただいてしまった」
太郎が役人の武士に文箱を差し出す、下級の役人としては受け取るしかなかった。
「そ、そう言う事でしたか!」
「ああ、漁民達に一切の咎はないのはおわかりいただけるだろう? そこで御領主へのお詫びとお祝いに、これから鯛を取りに行くので貴殿らには少々お待ちいただきたい」
「その通りでございます、かかしこまりましたっ!」
「あ、この軍配太郎とニチリンオーに免じてご容赦いただきたい♪ くれぐれも今後、漁民達に無体や理不尽な仕置きなどはなさらぬように?」
神君家に連なる家柄の権力をフル活用する太郎。
権力を笠に着るのは性分的には嫌いなのだが罪のない漁民達や母を想う幼い子狸の為だと、自分に言い聞かせる。
ニチリンオーへ乗り込んだ太郎は、機体をリュウジンニチリンオーへと変化させて漁師達を率いて海へ出た。
「鯛やカツオの流れを引き寄せる、我に海の恵みを分け与えたまえ!」
アメノサンサホコを天に掲げると、海が波立った。
「おお、これは潮の流れが変わったか?」
「お前ら、網の用意だっ! 魚に備えろっ!」
海の変化に気付いた狸の漁師達が、仕事を始める。
狸漁師達が投げた網には大量の魚がかかっていた。
「うおお! 大漁だ~~~っ!」
「こいつは春から、縁起がいいぜ~~っ!」
ニチリンオーが呼んだ魚群を喜び勇んで取る漁師達。
「ヤベえよ船長、デカい魔物化した鯛が出たっ!」
漁師達が調子に乗って作業をしていると、小島かと思われるほどの巨大な鯛が海面から飛び出して来た!
「これは任せろ、電光稲妻突きっ!」
リュウジンニチリンオーが飛び出し、稲妻を纏ったサンサホコで巨大な鯛を突いて捕獲する。
「魔鯛とったぞ~~っ!」
リュウジンニチリンオーが矛で刺して生け捕りにした巨大な魔鯛を掲げれば大歓声が沸き上がる。
こうして、大漁の釣果を持って帰って来た太郎と漁師達を役人達は腰を抜かして出迎えた。
「さあ、お役人の方々♪ 鯛もカツオも進呈いたしますので、祭りの支度をお願いいたします♪」
巨大な鯛を抱え上げたスーパーロボットを見た役人達は、頷くしかなかった。
「太郎様~♪ こちらも解決いたしましたわ~♪」
「おお、すごい大きな魔鯛だよ~♪」
大地を疾走して来たのはコガネマル、空を飛んで来たのはヒスイマルと姫と楓も合流する。
漁村の漁民達は大喜びで太郎達を讃えた。
太郎達は漁民や山狸の親子に見送られ、役人の先導でニチリンオーで魔鯛を抱えたまま城下町を練り歩いた。
これには阿島の城下町の住民達も驚いた。
「な、我が誕生日の祝いに五大分家の方のスーパーロボットが祝いに来てくださるとはっ!」
狸のように太った中年男性の殿様、阿島徳太夫が城の天守から様子を見て唖然とする。
「父上の人徳は、五大分家の方にも知られているのですね♪」
事情を知らない幼い少年、阿島の若君が父親を尊敬のまなざしで見つめた。
「うむ、普通に領地を治めていただけなのだが天は見てくれていたのか?」
書状は読んだ物の、サプライズすぎるにもほどがあるお返しが来るとは思ってもいなかった徳太夫。
「父上、これはお祭りでしょうか?」
「そうであるな、ここまで大事になっては祭りにするしかあるまい踊らねば損じゃ♪」
徳太夫は側近に命じて祭りの支度をさせれば、あちこちが慌しく動き出した。
「あらら~? 大事にし過ぎちゃったね、若様?」
「いや、もう大事にするしかなくなっちゃたんだよ~っ!」
「まさか山狸の親子と漁村を救う為とは、思いもよらぬ事でしょう♪」
「うん、こうなったらやり切るから二人ともついて来て!」
機体の通信機で楓や山吹姫とやり取りをする太郎、芝居を続ける覚悟を決める。
「阿島徳太夫殿、お初にお目にかかります♪ 此度はお祝いの品を頂戴したお詫びに参りました♪」
城の前まで来て機体の中から用件を述べる太郎。
「うむ、こちらこそ見事な魔鯛をいただき感謝いたすがこれはもう我が腹だけでは収まりきらぬので皆に振舞いたいと思います♪」
「それでは、僭越ながらニチリンオーにて切り分けさせていただきたいと存じます」
太郎と徳太夫がやり取りを行う、この様子は当然ながら記録が撮られた。
阿島藩も、どこに用意していたのかわからない大きさの巨大な寿司下駄を城から小型ロボが十台で神輿の如く担いで出して来た。
「うん、頼むぜコダイオーブレード!」
太郎が祈るとコックピット内の彼の手に蕨手刀が握られており、シートがスタンドファイトモードに切り替わる。
「太郎様、助太刀に参上いたしましたわ♪」
山吹姫がコガネマルのコックピットから転移して来た。
「良かった、料理の達人が来てくれた♪」
「楓様は、私は食べるのを楽しみに待つだそうですの♪」
「姉さんらしいな、じゃあ一緒に行こう♪」
巨大寿司下駄に魔鯛を載せ、スーパーロボットによる鯛の解体ショーが始まった。
コダイオーブレードで全身の鱗をくまなく落とし、龍神の加護で洗い流す。
鯛の頭を切り落としたら、阿島藩のロボ達も作業を手伝い内臓の除去などの下処理が終わる。
骨取りをしつつの巨大な三枚おろしができれば、城から歓声が上がる。
更に骨取りや切り分けが行なわれ、巨大な魔鯛は切り身へと変化した。
「さて、後はお城の皆様方にお任せいたします♪」
解体ショーを終えた太郎達は機体を降りた。
その後、城で更に切り分けられて魔鯛は城下町へと振舞われた。
「ふう、何とか終わったな」
「お疲れ様でしたわ♪」
「お疲れ様、山狸の親子も尼寺へ連れて行ったよ♪」
「ああ、楓姉さんもお疲れ様♪」
ひと仕事終えた所で、楓が合流し山狸の母子の顛末を伝える。
太郎達は城へと招かれて、贈呈した鯛の相伴に預かる事となったのであった。