第十六話:若様一行、神々とロボ相撲する!
クリスマスを祝った軍配党の一行。
諸国を巡りの西国道中、巨大な神社で名の知れた八雲の地に辿り着いた。
「いやあ、良い天気だね若様♪」
「本当、お天気に恵まれてますわね♪」
「ああ、ニチリンオーのお陰だな♪」
晴天の下、八雲藩の関所を抜ける太郎と仲間達。
「さて、八雲に来たら八雲大社と八雲そばだね♪」
ひとまず入った茶店で足を休める中、楓が笑顔で語りかける。
「お蕎麦ですの? 私、うどんやお蕎麦には覚えありですの!」
そばと聞いて山吹姫の目に火が灯る。
「そう言えば、信野の地もそば所でしたね」
姫の気迫にたじろぐ太郎。
「ええ、同じく蕎麦の名産地の出として大いに興味ありですの!」
姫が拳を握り力説する。
「おお、これは食べないわけにはいかないねえ♪」
楓がニヤリと笑う。
「炊きつけないでくれよ、四島に渡ったらうどんでもひと悶着がありそうだな?」
コメテカ側の海に浮かぶ、みかんとうどんで有名な島を想い溜息を吐く太郎。
ヒノワは、地球の日本と食文化も似ていた。
山吹姫の山神領は日本の長野に相当したそば所、楓がいた勢賀は三重県相当。
自分が転生した軍配藩は、岐阜に似ている環境だった。
「まあ、食文化を知るのも民を知る事だからいただきましょう」
旅を楽しみたい気持ちは太郎にもあるので、楓の企みに乗った。
「うんうん♪ 流石は未来の名君だねえ、お姉さんはありがたいよ♪」
「お役目は真面目に果たしてますもの、楽しむことも大事ですわ♪」
「二人がそう言ってくれるのは、ある意味助かるよ」
太郎が正直に言う、姫や楓が自分の心の明かりになってくれているのはありがたかった。
「おや? 文が届いたな、二人共視覚の共有で見てくれ」
太郎の瞳に拡張現実で地球で言うメッセージが届く、差出人は八雲大社からだった。
仲間達と視覚をリンクさせ、虚空に浮かんだ巨大な青いデジタルスクリーンに記された文を読む。
「まあ、私達に神々の年越しの宴へとご招待ですわ♪」
「若様、神様に好かれてるねえ♪ お代は不要、お土産もあるって♪」
「まあ、神々のお招きなら断れないな♪ ロボ相撲にも出てくれとあるな?」
「勝てば賞品がもらえるんだ、やるしかないね♪」
「ロボ相撲に出る事が、宿代替わりでしょうか?」
「ですね、まあ神様とご縁を結ぶのは君主としても大事だから行きましょう♪」
ヒノワは人と神々が手を取り合って治める国、神との付き合いも君主の役目であった。
八雲大社は、神々にとって慰安旅行の旅館に当たる場所。
太郎達は、神々の宴に招かれた芸人のような立場に選ばれたと感じた。
ロボ相撲は、神とスーパーロボットの相撲対決。
相撲なので格闘のみだが、武芸の奉納でもあるので勝負は真剣に臨まねばならない。
太郎達は茶店で支払いを済ませると、神々の宿と呼ばれる異界の入り口がある八雲大社へと向かった。
蕎麦屋が多い素朴な和風の門前町、八雲の街の石畳の大通りを歩き八雲大社を目指す軍配党。
巨大な白い鳥居をくぐり、広い敷地の境内に入りまずは社務所へと挨拶に向かう。
「失礼、お招きいただいた軍配太郎と軍配党の者ですが?」
太郎が代表して印籠を神職へと見せる。
「お待ちしておりました、まずはお清めをしていただいてから本殿へご案内させていただきます♪」
対応してくれた白い装束に紫の袴の中年男性の神職の方に案内され、手水舎で手や口に目などを清める一行。
続いて、本殿へと歩いて行き大きな鏡の前で一行は正座をして一礼。
神職の方に合わせて柏手など、地球のお正月の昇殿参拝と言う神社の中でするお参りでする儀式を行うと祀られている鏡が輝いて太郎達を鏡の中へと吸い込んだ。
「いやあ、何か穏やかな場所だね♪」
「鏡の中に吸い込まれるとはな、ここが八雲大社の神々の空間か?」
「そらがメロンのような橙色ですわね♪」
鏡の中の世界、周囲は山に囲まれて地面はピンクの花が多く咲いており春の雰囲気。
空の色は、山吹姫が言うようにメロンのようなオレンジ色だった。
「ロボよりも大きい旅館だなあ、隣にはでかい土俵があるよ」
異界に聳える超巨大な日本旅館、その隣にはこちらも超巨大な相撲場。
「取り敢えず呼ばれてるんだし、宿の中に入ろう♪」
「そうですわね、観光は時間が取れたらいたしましょう♪」
「ええ、待って二人共!」
太郎が先に歩き出した山吹姫と楓を追いかけた。
「いらっしゃいませ、神々の宿へようこそ♪」
宿の入り口に付くと、緑の着物を着た黒髪にお団子頭の眼鏡をかけた美少女が笑顔で出迎えてくれた。
「どうも、お招きに預かりました軍配太郎です♪ こちらは郎党で婚約者の山吹姫と従姉の楓、三人で軍配党です」
太郎が旅館の人らしい少女に自己紹介に印籠を見せて自己紹介する。
「はい、存じておりますよ♪ 私がこの宿の女将、八雲姫でございます♪」
「ご祭神様でしたか、お招きありがとうございます!」
目の前の美少女が、八雲大社で祀られている神様だと知り恐縮する太郎。
「温泉の女神様が営むお宿かあ、ご飯が美味しそう♪」
「同感ですわ♪」
宿の食事に想いを馳せる楓と山吹姫。
「まあ、そう固くならずに♪ まずは、皆様をお部屋にご案内いたしますね♪」
八雲姫が挨拶を切り上げて手を叩く。
拍手を合図に、宿の中から黄色の着物姿の顔のない白い人型の仲居さん達が現れた。
広いエントランス、宿の中では様々な姿の神々が白い浴衣に青い羽織とラフな姿でボードゲームをしたりコーヒー牛乳らしきものや温泉万寿などを飲み食いをしたりと思い思いにくつろいでいた。
「ヒノワ風だけど、異界らしく微妙にちがうねえ?」
「洋風も混ざっている感じのお宿ですわ!」
「俺から見ると、前世の世界とも似てるよ」
太郎からすれば、客や経営者が神々でなければここは日本の温泉宿であった。
「オヘヤハコチラデス~♪」
「あ、どうも失礼!」
「売店は気になりますが、まずはお部屋へ参りましょう♪」
「現世とお金は違うのかな?」
仲居さんに促され、太郎達は部屋へと案内された。
「良い部屋だな、普通に」
「うん、広いし窓の外から相撲場が良く見えるよ♪」
「お茶を淹れさせていただきますわ♪」
緑の畳の上に長テーブル、窓側に小さな椅子ととテーブル。
太郎が部屋を見回すたびに、拡張現実が寝室やら内風呂やらとデータを表示してくれた。
「オショクジハ、エンカイジョウへゴアンアイイタシマス♪」
仲居さんが告げる。
「ありがとうございますの♪」
太郎達に茶を淹れて饅頭を配った山吹姫が、仲居さんに礼を言う。
一行が一休みをすると、仲居さんが現れて宴会場へと案内してくれた。
「おお、我が娘婿達が来たぞ♪」
「久しぶりですね、日輪の子よ♪」
「あら~♪ 山吹ちゃんはお久しぶり、そちらは可愛い坊やね♪」
日本の旅館の宴会場と言う奥に小さな舞台があり、畳の上に長テーブルと言う部屋。
「山神様に龍神様、お久しぶりです」
「お久しぶりですわ、お米神様♪」
「神様がいっぱいだね♪」
知り合いの神々や初めて見る神と、神様だらけの宴会場に来た太郎達。
太郎は山神達の所へ座り、山吹姫と楓は米神と呼ばれたおかめの様な愛嬌のある女神の所へと男女で別れて向き合う形で席に着き刺身やら鍋でともてなされた。
「太郎殿、しっかり食って明日の取り組みに励まれよ♪」
「あ、ありがとうございます」
山神が太郎の椀に鍋から肉を盛り付けてくれる。
「我らの加護武装は封じられるが、応援させていただく♪」
龍神が大事な事を言いう。
「相撲だからな♪ そうそう、姫のそば作りの腕は領内一でなあ♪」
「楽しみです、頑張ります♪」
山神が山吹姫を褒める。
「勝ったら、お米やお蕎麦や食べ物をあげるから美味しいお餅を作ってね♪」
「お餅♪ 若様、頑張って♪」
「太郎様、お願いいたします♪」
米神だけでなく、女子組に並ぶ野菜や穀物の女神達が我も我もと商品提供を表明する。
「太郎どん、明日は真っ向勝負と行こう♪」
男子組からは、顔が木で出来た臼や釜やら器物の神々が笑顔で語りかけてくる。
「はい、宜しくお願いいたします♪」
好意的に接してくれる神々に太郎は頭を下げた。
楽しい宴会の翌日。
沢山の神々が客席で見物する中、超巨大相撲場の土俵にニチリンオーが上がった。
「スタンドファイトモード起動、武装がほとんどロックされてるけど頑張ろう」
コックピットの中で太郎が構えれば、ニチリンオーも構える。
賞品は、神が直接くれる米や蕎麦などの食い物に神器クラスの臼や鍋釜など生活用具一式。
現物支給なのは何処か昔話っぽいが、美味しい米とかは太郎の中の日本人の魂が食いたいと叫んでいた。
「太郎どん、勝負じゃ♪」
対戦相手の臼の神が、巨大な臼の怪獣みたいな姿になってニチリンオーと向き合う。
行事の掛け声で取り組みが始まった!
真っ向勝負宣言に従い、臼の神がぶちかましで突っ込んで来るっ!
「ならば、こっちも負けずにぶちかますぜっ!」
こちらもぶちかましで体当たり、激しい衝突音が響きぶつかり合うもお互い倒れず残った。
お次は張り手、巨大な掌がニチリンオーに迫るがニチリンオーも負けずに突き出すっ!
両者退かない、意地と掌の張り合いからニチリンオーの手が赤熱化する。
「ソーラーアーム発動、紅炎諸手突っ!」
ニチリンオーの燃え盛る両掌の突っ張りが、臼の神の攻勢を押し返してのけぞらせた。
「今だっ!」
その勢いでニチリンオーが背中のバーニアを噴射して突進、臼の神に組み付いて土俵際まで寄り倒した!
決まり手は寄り倒し、行事がニチリンオーの勝利を宣言すると客席から大歓声が沸き上がった♪
「太郎様が勝ちましたわ♪」
「やった、お祝いだ♪」
客席で太郎の勝利を喜ぶ山吹姫と楓。
取り組みが終われば、ニチリンオーが臼の神の手を取り起こし土俵の上で握手を交わす。
「太郎どん、良い取り組みじゃったまた取ろう♪」
「ありがとうございます、臼の神様も凄いパワーでした♪」
「相棒の杵の神に散々搗かれて鍛えれとるし、餅食ってるから力持ちじゃから♪」
「美味い餅が出来そうですね」
「おう、正月は杵の神と米神とで遊びに行くから皆で餅つきをしてくれ♪」
互いを讃え合い、交流する太郎と臼の神。
太郎は見事、文字通りの熱い相撲で神々を喜ばせると言う大役をこなし豪華な賞品を手に入れたのであった。
その後、神々の宿を出て幽世屋敷に戻った太郎達。
「皆様、年越しのお蕎麦が出来ましたわ♪」
屋敷の茶の間、食卓で待つ太郎と楓の所に満面の笑みで山吹姫がそばを持って現れる。
「おお、蕎麦が輝いている♪」
「こ、これが神のそば♪」
「他にもいただいた材料で作りましたの、皆で美味しくいただきましょう♪」
山吹姫が笑顔で語る。
「うう、若様について行けば美味い飯に事欠かんって父上の言う事は本当だったんだ♪」
「伯父上、楓姉さんを食べ物で釣ったのか?」
「太郎様の人徳ですわ♪ ささ、召し上がれ♪」
「「いただきます♪」」
三人は、美味いとしか言いようのない年越しそばを食いながら年を越すのであった。