第十五話:若様、クリスマスを祝う
「若様も姫も、中都へは行かないのかい?」
新たに加わった仲間、楓が太郎達に尋ねる。
「私は気にはなりますが、太郎様がお嫌だそうです」
「あそこはギンゲツオーと月夜姫のお膝元だから、楓姉さんは知っているだろう?」
姫と太郎が答える、五大分家の者は求められない限り他の候補者の地元は避ける習わしがあった。
「まあね♪ いやあ、でも中の都は良いよ♪ 食べ物もお洒落もさ♪」
楓は都会好きだった。
「それなら神路の街の方が港町で西洋の物もあるからそっちに行こう」
太郎が別のルートを提案する。
「私は、太郎様について行くのみですわ♪」
「まあ、私も従兄弟で兄弟分な主君について行くよ♪」
「じゃあ、中都は北回りの際に寄れたらで今回は神路を経由して進み南国へ向かおう」
三人は次の行き先を決めると、街道を歩き始めた。
「そう言えば、若様は乗り物は使わないの?」
楓が太郎に尋ねる。
「特に考えた事はないですね、歩き旅でしたし姫が加わってからは適度に幽世屋敷で休んでいるので」
「私が狼になって太郎様を乗せたり、時にコガネマルを使うかでしょうか?」
太郎が答え、山吹姫がそれに続く。
「ああ、なるほど♪ じゃあ、私と変わらないんだ♪ 私も、幽世に庵があるんだ♪」
それ聞いた楓が納得した、彼女もヒスイマルを使ったり自分の翼で飛べるからだ。
互いの事を語り合いつつ、一行は和洋折衷な港町である神路の入り口に到着した。
「小田鎌や川浜と似た感じだな」
「川浜に近いね、異人街もあるしコメテカ合衆国とも貿易してるしね」
「楓様は、異国事情にも通じておられますのね♪」
「一応、私も忍だからね♪」
山吹姫の言葉に楓が笑う。
街に設けられた関所で、太郎達は印籠を見せては役人に頭を下げられ街に入る。
「さて、この街では何が起こるやら?」
「ですわね、くえすと屋さんにでも参りましょうか?」
「まあ、まずは街を回って見ない? 市井の様子を自分の目で見るのは大事だよ♪」
「楓姉さん、一理あるけど観光気分もありますよね?」
楓をジト目で見る太郎。
「まあまあ♪ 私は街を楽しむのも良いと思いますわよ♪」
山吹姫が微笑む。
「むう、そうですね? では、しばし街を楽しみますか」
二対一では分が悪い、太郎が折れてまずは街を散策して回る事となった。
「案内を見ると、我々の知るヒノワ風な地域と洋風な区域に別れてますね?」
「港の方にある、異人街奉行所は洋風らしいよ♪」
「そうですか、では久しぶりに洋菓子でも食いに港の方へと行きましょう♪」
太郎達が、港の方へと歩けば街の様相が和より洋の割合が増えて行く。
「若様♪ 聞き耳で情報を仕入れに洋風茶店に入りましょう♪」
「あちらのお茶の香りがしてきますわ♪」
「俺も、少し腹が空いたので行きますか♪」
度世人、姫武者、若武者姿の太郎達が白壁の洋風なカフェに入る。
ちょんまげ頭のウェイターや、メイド服姿の女給などが働くカオスな店内。
案内されたテーブル席に着いた三人、メニューを見てそれぞれがロールケーキなどを頼む。
「多種多様な客層ですわね」
「港町だからね、外国の軍人らしき客もいる」
「何と言うか菓子の前では、身分や素性は関係ないな」
種族も職業もバラバラな客達が皆笑顔で、菓子や茶を楽しんでいる。
太郎はその光景を尊いと感じた。
「誰もが、こんな時間を楽しめる国づくりをしないとな」
「太郎様なら出来ますわ♪」
「地元の軍配藩だけでなくヒノワ全体を変えたいなら、神君にならないとね♪」
「まあ、それは選ばれてから考えます」
楓の言葉に、神君になるように誘導されてるなと太郎は感じた。
ロールケーキやショートケーキにパフェなど、太郎が前世で見てきた味が楽しめた。
甘味を楽しみながらも、太郎達は周囲の客の声に耳を傾ける。
「我が国の士官用の装備で、ヒノワブレードの需要が高まっておりまして」
「こちらも、コメテカのコーヒーの豆をヒノワで栽培できないかと?」
着物姿のヒノワ商人とスーツに金髪碧眼の白人と言う、コメテカ人の商人らしい会話。
「クリスマスのお祭り、楽しみ♪」
「良い子にしていれば、サンタさんからプレゼントがもらえますよ♪」
上品そうな青いドレスを着た、外国の婦人とその息子らしい少年の会話。
太郎はナノマシンにより、外国語も自動翻訳されて不自由なく聞こえていた。
「クリスマスか、やる所はやるんだな♪」
「クリスマスとは何ですの?」
太郎の呟きに山吹姫が問いかける。
「西洋のお祭りだね、南蛮教の教祖クリス様のお誕生日だね♪」
楓が答えた。
「ケーキやご馳走でお祝いして、贈り物を贈り合うお祭りです♪」
太郎が補足した。
「後は、伝承だけど良い子にしていたらサンタさんって言う神使が贈り物をくれるとか♪」
「楓姉さんも詳しいな」
「楽しいお祭りだと言うのは、わかりましたわ♪」
クリスマスを知らない山吹姫も、何となく理解した。
「畜生、南地区の教会と養護院の土地をどうにかできねえのか?」
「こうなりゃ、祭りで浮かれている間に襲っちまいましょう!」
「仕方ねえな、生きる為だ」
会計を済ませて帰ろうと立ち上がった太郎の耳に、不穏な言葉が入る。
上品な店内に似合わない、西洋の海軍のような服装の太った男と文官風の小男。
太郎達は代金を支払い、店を出ると人気のない裏通りに隠れる。
「若様、何か嗅ぎつけたのかい?」
「恐らく、先ほど店内で見かけた下品な男達の事ですわ!」
「二人共わかってくれてありがとう、軍配党の出番だ♪」
「相手の言葉はわからずとも、悪の臭いがしましたの」
「同じく、わかりやすい悪党の気配だったね♪」
「うん、では敵の狙う養護院がある南蛮寺へ行こう南地区だ」
「ちょっと待った、若様外国語で領事へ一筆お願い! 役人へも!」
「そう言えば異人街は、外国の領事とヒノワで共同統治でしたわね!」
行動の前に思いとどまる太郎達、市街で戦う時は地元の治安維持機構へ根回しだ。
太郎が脳内で天網にアクセスして、南地区がどこの国の領事か調べる。
地球で言う公式サイトを見て、思考で文章を書き相手先へメールを送る太郎、
ヒノワ側は楓がやると言い指で印を結び、虚空からカラス天狗の式神を召喚する。
すると楓は、式神に文を持たせて飛ばした。
「ありがとう、楓姉さん♪」
「いえいえ、ここは私の忍らしさがお役にたつ所を見せないと♪」
礼を言う太郎に楓が微笑む。
糸時も経たずに、カラス天狗の式神が文を持って戻って来る。
「はい、返事が来たよ♪ 若様、どうぞ♪」
楓が太郎に差し出した文はヒノワ側と、コメテカ領事の双方からの悪党退治の許可であった。
「よし、どういう仕組みかわからないけれど戦う許可は取れた♪」
「楓様、凄いですの!」
「うん、父上からコメテカ側に緊急で頼んでもらった♪」
「うげ、また伯父上に借りを作ってしまったか」
「頼れる時は素直に頼りませんと、太郎様だけに重荷を背負わせませんわ♪ 」
「そうそう、父上♪ いや、神君様への借りは皆で返して行きましょう♪」
山吹姫と楓が太郎に微笑む。
「ああ、しっかりと返して行くぜ♪ そして悪党退治の時間だ♪」
楓が文を出した先はヒノワの国家元首である家長、コメテカの元首と速攻で話を付けたらしい。
改めて、南蛮寺を救いに太郎達は出撃した。
太郎達が海岸近くの西洋で教会と呼ばれる南蛮寺へ辿り着くと、まだ無事であった。
養護院も兼ねているのか、どこか地球の学校に近い造りの建物。
敷地内の庭では、黒い服を着て、頭頂部だけを坊主頭にした青年男性が子供達と遊んでいた。
「頼もう! 南蛮寺の責任者の方はおられるか!」
太郎が叫ぶと、青年が太郎達に気がついて出てくる。
「おや、あなた方は一体どちら様で?」
「こちらの司祭殿か? 俺は軍配太郎、こちらは我が軍配党の郎党だこの地の危機に馳せ参じた!」
「悪党達がこの南蛮寺の土地を奪おうとしているのですわ!」
「急いで子供達を建物の中へ避難させてっ!」
状況が飲み込めていない司祭に太郎達が訴える。
「ヒャッハ~♪ ガキと司祭を殺して協会の土地を奪うぜ~♪」
下卑た声を機体の中から放ち、空から降りて登場したのは海賊船を模した黒いロボット!
「出たな悪党、皆行くぞ!」
「「応っ!」」
敵の登場に太郎達がニチリンオーとコガネマルとヒスイマル、軍配党の全部の機体を召喚した。
「天下成敗ニチリンオー、クリスマスの平和を乱す輩は成敗いたす!」
「軍配党が郎党、コガネマル! 加勢いたします!」
「同じくヒスイマル! 容赦はしないよ♪」
ニチリンオー達、軍配党の面々が境界を守るように立ちふさがる。
「すげえ、スーパーロボットだ♪」
「格好良い♪」
「お前達、危ないから避難しますよ!」
突然の事態ながらも、司祭は子供達を連れて教会の中へと逃げ込んだ。
「ちきしょうっ! スーパーロボットが出てこようがやってやる!」
「兄貴、俺達のブートレッガー型なら勝てますぜ♪」
海賊ロボ、ブートレッガーの中で悪党達が吠えて砲弾を発射する。
「そうはさせないよ! ヒスイマル、羽ばたき矢返しの術!」
楓が操るヒスイマルが羽ばたけば、風が起きて砲弾がブートレッガーへと跳ね返る。
「コガネマルも参ります! 回転体当たりっ!」
狼形態のコガネマルを山吹姫が操り、ジャンプからの回転しての体当たりで追撃をかます。
その一撃で転倒するブートレッガー、ド派手な音を立てて海へと落っこちた。
「良し、止めは皆で合体して決めるぞ!」
「かしこまりましたわ♪」
「了解、合体シークエンスに入るから二人共海岸まで走って♪」
ヒスイマルが空を飛び、ニチリンオーとコガネマルが駆け出してジャンプする。
コガネマルが変形して、ニチリンオーの胴体に合体。
次にヒスイマルが翼を畳み変形して、ニチリンオーの背中とドッキングする。
「三位一体、トライニチリンオー参上っ♪」
合体すると、山吹姫と楓がニチリンオー頭部のメインコックピットに来て合流する。
トライニチリンオーの完成と同時に、悪党達の乗ったブートレッガーが起き上がった。
「くそっ! まだやられてねえぞって合体しやがった!」
「兄貴、こいつはヤバい流れなんじゃ?」
「うるせえ、元から悪党はヤバい仕事だっての! 一か八かだ!」
ブートレッガーがカトラスを構えて突進して来た。
「悪党に万に一つもチャンスはやらん!」
「容赦なく参りましょう♪」
「寺院荒らしは、何処の国でも死罪だよ!」
「トライニチリンオー、サンセットアタックだっ!」
太郎が叫びレバー操作をする。
トライニチリンオーの全身からからエネルギーが放出され機体を包む巨大な火の玉が形成される!
「げげっ! 急速旋回っ!」
「に、逃げろ~ッ!」
起死回生の特攻が無理だとわかった悪党達は、機体を急速に方向転換して逃亡を図る!
だが、太陽の如き巨大な火の玉と化したトライニチリンオーが突進し悪党達は消滅した。
「これにて一件落着!」
敵を倒して分離する太郎達。
悪党を退治して教会へと戻ると、司祭と子供達が彼らを出迎えてくれた。
「この度は、ありがとうございました!」
「いえいえ、こちらも偶然悪だくみを聞いたもので♪」
「太郎様、今日はクリスマスだそうですので皆様にプレゼントをいたしましょう♪」
「ああ、祭りなら景気よくいきますか♪」
「そうだね、パ~っと行こう♪」
太郎達が決断すると、山吹姫が虚空から千両箱を取り出して司祭へと手渡す。
「こ、これは! まさか、いきなりいただいては!」
司祭が受け取るも、物言築いて戸惑う。
「まあ、我ら軍配党からの御寄附です良いクリスマスを♪」
太郎が笑うと、司祭は頭を下げた。
「それでは、私達も戻ってお祝いいたしましょう♪」
「そうだね、ケーキを買いに行こう♪」
「幽世屋敷でクリスマスと行くか♪」
教会を去り買い出しに行く太郎達、幽世屋敷に集って楽しいクリスマスパーティーを催したのだった。