第十三話:若様、虎退治する!
新たな加護武装、コダイオーブレードを手に入れた太郎。
山神領を出て、姫と二人で軍配藩へと戻て来た。
「父上、一時的にではありますがただいま戻りました」
「お初にお目にかかります、山吹と申します♪」
「うむ、よくぞ戻って参った♪ 話は、カッパチからも聞いておる」
天守の間で太郎の父、春吉が微笑む。
太郎は長上下、山吹姫は着物姿と身なりを整えてご挨拶。
「太郎よ、山吹姫と共にしばし足を休めるが良い♪」
春吉が笑顔で告げる。
「ありがとうございます」
「お世話になります」
太郎と姫は深々と春吉に礼をした、武家社会は礼が大事。
儀式的な挨拶を終えて、太郎達は退室する。
「太郎様は天守閣にお住まいではないのですね?」
「あそこは基本的には政務の場ですね、父上は寝泊まりしておりますが」
天守の間を出て、敷地内の屋敷へと向かう太郎と山吹姫。
太郎自身も、幼少時は前世で知った日本の城の知識との違いに混乱していた。
「あ、兄上だ~♪」
「お帰りなさいませ~♪」
「お土産を~♪」
「綺麗な女の人も一緒です~♪」
太郎達が屋敷の門をくぐると庭にいた、小さな犬耳や犬尻尾の半獣人の少女達が群がる。
「おいおい、お前達大人しくしなさい!」
「あらあら、愛らしい妹様達ですわね♪」
「ええ、家は俺以外は娘ばかりで♪」
山吹姫が微笑みかけると、太郎の妹達はピタッと止まった。
獣人の本能が、彼女達に山吹姫が上位の存在だと告げたのであろう。
「初めまして、山吹と申します♪ 宜しくお願いしますね、可愛い義妹達♪」
「「はい、義姉上様っ!」」
ビシッと、妹達は山吹姫に従った。
「ささ、中へ案内を♪ お土産は、皆が揃ってからですよ♪」
山吹姫に従い、太郎達を先導する妹達。
中へ入ると、赤ん坊を抱いた母のゴールディが出迎えた。
「お帰りなさい、太郎♪ 山吹姫様は初めまして♪」
「お初にお目にかかります、お義母上様♪ そちらは、弟君ですわね♪」
「おお、弟が♪ おめでとうございます、母上♪」
「太郎も、お帰りなさい♪ さあ、皆で奥へ集まりましょう♪」
ぞろぞろと進む太郎達、畳の上に長いテーブルが置いていある広い居間に集まる。
「確かに、天守では手狭ですわね♪」
「お恥ずかしい♪」
「小十郎、兄上ですよ♪」
「おお、無事に生まれて良かった♪」
「私達も見習いませんとね、太郎様♪」
「山吹姫様が来てくれたおかげで、娘達も大人しくなりました♪」
「太郎様は、妹姫様達にお優しかったようですわね♪」
「小十郎が、育って来たら姉達に困惑させられる未来が見える」
太郎は、八人の妹達と弟を見て溜息を吐く。
「そんな事ないです、姉として優しく育てます!」
妹達の筆頭、赤い着物の林檎がむくれる。
「うふふ♪ まあ、小十郎様は妹姫様達にお任せしましょう♪ お土産ですよ♪」
山吹姫がアイテムボックスから大きな箱を取り出す。
「ああ、ケーキを買て来たんだったそれじゃあ皆でいただきましょう♪」
「ありがとうございます、山吹姫と太郎♪」
「「兄上と義姉上、ありがとうございます♪」」
「妹達が、完全に姫に手懐けられている!」
母と妹達に礼を言われ、皆で苺のケーキを切り分けて食う。
「私もお義母様のように、にぎやかな家庭を築きたいと思います♪」
「これからも、太郎の事を宜しくお願いいたします♪」
「お任せ下さい♪」
姫と母のやり取りを見て、太郎は蚊帳の外感がしていた。
「ねえ、兄上? 婚礼の日取りとかはまだ?」
妹の二番目、橙の着物の美少女の蜜柑が尋ねる。
「私達も用意しないと♪」
三女は黄色の着物の甘夏も乗って来る。
「姉上達、はしゃぎすぎ!」
四女、緑の着物の橘花が止める。
五女と六女は双子で青と藍の着物を着た安芸と翠。
こちらはもくもくとケーキを食べている。
紫の着物の七女の木通と八女の金の着物の愛宕は母の膝にいた。
「まあ、まだ日取りはこれから決めて行くよ♪ 悪党退治の旅は終わりじゃないし」
「そうですわね、もうしばらくお待ちくださいな♪」
太郎は山吹姫に、母や果物の名が付けられた妹達と新たに生まれた弟との顔合わせを済ませた。
「なるほど、お話の通り和やかなご城下ですわね♪」
「お気に召していただきありがとうございます♪」
城を出て、軍配藩の城下町の大通りを案内する太郎。
道行く人々が、若様だ♪ と声を上げる。
太郎が周囲の店をよく見ると、ニチリンオーが描かれた幟などが立てれている店もあった。
「ニチリンオーが、町おこしに使われている♪」
「軍配名物、ニチリンオー饅頭だそうですよ太郎様♪」
「え? ちょっと気になりますね、ごめん!」
グッズを売っている菓子屋に入ると、店の女将さんから歓声が上がった
「まあ♪ ようこそおいで下さいました、軍配の若様♪」
「ああ、噂のニチリンオー饅頭を頼む♪」
「はい、ただいま♪ 奥へお上がり下さい、宜しければ新作の日輪団子もお試しいただきたく♪」
「綺麗な黄色のお団子ですわ♪」
店の奥に上げられ、茶と共に皮が黄色い饅頭と黄色い団子を出される太郎達。
「うん、どちらも美味いな♪」
「美味しいですわ♪」
「お気に召していただき何よりでございます、今後のご活躍も応援させていただきます♪」
「似たような商品はもしかして、城下のどこでも買えるのか?」
もしやと思い聞いて見ると女将さんが頷く、いつの間にか故郷でグッズが出来ていた。
「日戸に降って来た彗星を砕かれた様子は、領民皆が見ておりました♪」
女将さんが誇らしげに語る、地元にも報道されていた事に赤面する太郎。
「おそれいる」
「応援ありがとうございますわ、軍配党を今後とも御贔屓に♪」
「お代は若様のサインで、手形も頂戴出来たら♪」
「ああ、では色紙を」
店の人が持って来た色紙に、太郎がサインを書いて手形を押す。
太郎は自分の心中で、ローカルタレントかよとセルフツッコミをした。
菓子屋を出て、さてどうするかと思案する太郎。
「それでは、愛護家へ参りましょうか♪」
「え、宜しいのですか?」
「はい、顔合わせはいたしましたし地元の英雄だと持て囃されるのはこそばゆいでしょう♪」
「お心遣い、感謝します♪」
かくして太郎と山吹姫は、再び軍配藩を出てゆく事にした。
山吹姫が変化した巨大な金の狼に乗って疾走して行く太郎。
それを見た領民達は応援の声を上げて、太郎達を見送った。
これが原因で、後に城下町を金の狼に乗った武者の山車が走る金狼祭が生まれる。
二人は野道を抜けると、大きな都市である愛護家の街に辿り着いた。
「日戸のように、建物が和洋混在で都会ですわね」
「都会なんですよ、ぐぬぬ!」
人間形態に戻った山吹姫が疲れた顔をする。
太郎の方は、一番近い都会である愛護家にコンプレックスを出していた。
「太郎様、何やら難儀なご気性ですわね?」
「都会と言う物に、抵抗感が何故か出てしまうのです」
太郎達が印籠を出して関所を通り街へと入る。
「日戸と似ていて建物が、和洋混在ですわね?」
「まあ、伯父上の飛び地ですからね♪」
気分を変えて、茶店でういろうを食べつつ語る太郎。
だが、突如太郎の腰の差料が金鞘の蕨手刀に変化した。
「むむっ! コダイオーブレードが顕現した?」
「太郎様、お城の空の上に邪悪な気配が!」
「あれを感知したのか、店主! 代金だ、釣はいらん!」
太郎が小判と多すぎる代金を払い、山吹姫と茶店を飛び出す。
目指すは町の中心、愛護家城っ!
金の天守閣の上に暗雲が立ち込める、異界からの怪獣出現の前触れだ!
「来い、ニチリンオーッ!」
太郎がニチリンオーを、頭上に召喚して山吹姫と共に乗り込む。
街の住人達は、ニチリンオーの出現に驚くがし風呂の上空の異変を見て察し応援の声を上げた。
ニチリンオーは、ダイグンバイを背中に背負い腰に差したコダイオーブレードを抜刀して空を飛ぶ。
「怪獣出現まであと五秒ですわ!」
「姫は、台場キャノンの用意を!」
コックピット内で、太郎と姫は席を分けて通信でやり取りをする。
愛護家城の天守閣の屋根の上に降り立ち、空の暗雲から目のように開いた黒い穴を睨む。
「台場キャノン発射ですわ!」
姫が操作してニチリンオーの腹から火球を放ち、穴から落ちてきた怪獣へ牽制の一撃を放つ。
怪獣はマッチョな二足歩行の虎と言う外見。
台場キャノンで焦げた腹をさすると、腕の爪を振るい襲って来た。
「何の、コダイオーブレードを受けて見よ!」
光り輝くコダイオーブレードを素早く振るい、光の斬撃を飛ばすニチリンオー!
「ギャオオオ~~ン!」
ニチリンオーの斬撃が虎怪獣の腕を切り落とせば、黒い泥のような血が垂れる!
だが、敵に負わせた傷口から再び腕が生えて来る。
虎怪獣は、ニチリンオーに再度襲いかかって来た!
「再生するか、それならば牽制からの全力だっ! スタンドファイトモードっ!」
立ち上がった太郎の右手に手に、刀身が光り輝く蕨手刀が握られる。
そして左手には黄金の軍配が握られていた。
「軍配と刀の二刀か! 行くぞ、野風流・大竜巻っ!」
ダイグンバイとコダイオーブレードを両手に持ったニチリンオーが、回転し大竜巻を起こす!
虎怪獣は竜巻により吹き飛ばされて、空高く打ち上げられる。
それを追い、ニチリンオーも空を飛ぶ!
「この一撃は、朝日が昇るが如し! ニチリンオー・曙光十字斬っ!」
ダイグンバイとコダイオーブレードで十字に切られた虎怪獣。
神威の炎により敵は、五体を切り裂かれ灰も残らず焼き尽くされた!
「太郎様、あの獣の血が天守閣に残ってます! まだ、血だけでも生きてますわ!」
「何ですと? ならばニチリンオーの浄化の光で清めねば、ニチリンビーム!」
山吹姫の通信で敵の残滓に気付いた太郎、ニチリンビームを発射して掃討した。
再び愛護家城の天守閣の屋根に降り立った、ニチリンオー。
センサーで、敵の討ち漏らしはないかと探るが反応は無し。
これにて、ワンダリングな敵との遭遇戦は一件落着となった。
ただ、この戦いは愛護家の人々に目撃されていたようであった。
ニチリンオーがコダイオーブレードを納刀する。
「取り敢えず、終わったな」
「太郎様、周囲の人々が拍手されてますわ♪」
頭部のメインコックピットへ戻って来た山吹姫が、モニターを指さす。
「げげっ! そう言えば、周囲の事とか気にしてなかった!」
「戦いとなると、視野狭窄になりがちですわね私達」
「取り敢えず、ここから移動しましょう! 不敬とか言われると嫌なので!」
「確かに、叛意ありと疑われては困りますわ!」
愛護家城の城主は神君その人、面倒は嫌だと太郎はニチリンオーを飛び立たせた。