第十二話:若様、古代の宝刀を得る
晴天の朝、信野の国の山神領への道を歩く太郎と山吹姫。
「宜しかったんですの? 愛護家藩に向かわずとも?」
「ええ、寄り道もまた道♪ 先の件で、義父上にお礼のご挨拶の方が先ですよ♪」
疑問を浮かべる姫に微笑む太郎。
清宮での面倒事から解放された太郎達は、山吹姫の実家へと向かっていた。
「太郎様? よもや私を置き去りにするなどとは、お考えではありませんわよね?」
「それはないです、俺の実家にも連れて行く約束や他の地も一緒に見て回りたいですし」
「約束ですわよ?」
「はい、なので俺が姫との約束を守れるようにお力添えをお願いします♪」
「ええ、お任せあれ♪」
そして二人は山神の屋敷へと辿り着いた。
「姫様、婿殿! 共にお帰りになられました~♪」
太郎達を見つけた門番が叫ぶと、屋敷の門が開かれて二人は招き入れられた。
座敷に通された二人は、上下姿で正装した金狼の山神と再会した。
「おお、姫と太郎殿♪ よくぞ参られた♪」
「先の清宮の件では、ご支援を賜りありがとうございました♪」
「父上、此度はありがとうございました♪」
「がっはっは♪ まあこちらだけではないが、婿殿の為なら助力は惜しまん♪」
「恐れ入ります」
「後は、孫を早く抱かせてくれれば文句はないぞ♪」
「父上、まずは婚礼が先ですわ♪」
「姫と相談しながら、事は進めて参ります」
三人は和やかに語り合った。
その後、太郎は女中さんに案内されて屋敷の茶の間に通された。
こちらは、板張りの部屋で座敷よりも空気が穏やかな部屋だった。
「こちらが、当家の茶の間でございますの♪」
「座布団はもしや、熊の皮ですか?」
「父は熊狩りが趣味ですの♪」
座りながら太郎と姫が話す。
茶の間に通された事で、太郎は自分はこの家の身内扱いになったのだと感じた。
其処へ、黒羽織に紺の着流しを着た山吹姫と似た金髪に狼耳と尻尾の美青年が現れる。
太郎はすぐに、美青年が山神だと気配で気付いた。
「太郎殿、楽になされよ♪」
「はい、ありがとうございます♪」
「父上、人の姿になって楽にし過ぎですよ?」
「茶の間で何を言うか姫よ? 太郎殿、いただいた茶と菓子を喰らおう♪」
山神がポンポンと手を叩く。
すると、狼の女中さん達が茶の入った湯呑と菓子の載った皿を膳で運んで来た。
「ふむ? 太郎殿は驚かせなんだか♪」
「いえ、少しだけ驚きましたがすぐに義父上だと感じ取れましたので」
「父上、太郎様で遊ばないで下さいませ!」
「がッはッは♪ 良いではないか、この位は愛嬌の内だぞ姫よ♪」
豪快に笑いながら茶を飲む山神に、山吹姫は頬を膨らませる。
「まったく、おてんば娘がよくぞそこまで惚れ込む相手を見つけてくれたものだ♪」
「父上の娘ですから♪」
山吹姫が良い笑顔で言い返す。
「亡き母に似て逞しい娘よ、太郎殿は今後も娘の尻に敷かれてやってくれ♪」
「はい、そうさせていただきます♪」
「ええ、太郎様は私の夫ですから♪」
茶の間でも三人は笑い合った。
「そう言えば、二人の活躍も聞いたぞ♪ 野風流をロボで使ったとか♪」
「まだ、山風の太刀のみですが精進しております」
「姫の稽古に付き合ってくれているだけでも、ありがたい婿殿よ♪」
「太郎様は、真面目な弟子ですわ♪」
「姫よ、守りの型も教えるのだぞ? そなたは攻め技を好み、守り技は厭いがちであったが?」
「敵を全て切り捨てれば、我が身も太郎様も守れますので♪」
「我が娘ながら恐ろしい、では夕餉の前に我が守りの型を教えよう」
「私も参りますわ、男同士で企みごとなどさせません♪」
「太郎殿、くれぐれも娘を頼むぞ」
そして三人は一服を終えて立ち上がり、太郎達は一旦稽古着に着替えてから道場へ向かった。
茶色い板張りの道場、山神は着流し姿で竹刀を持ち待っていた。
「うむ、きちんと着替えて来るとは流石は我が娘婿♪」
「それでは、宜しくお願いいたします」
「宜しくお願いいたしますわ」
礼をして太郎達も竹刀を持ち、稽古を始める。
「まず、概ね一本流剣術と基本は変わらん」
一本流剣術、ヒノワの各地に広まっている剣術流派だ。
世間一般の武士の剣術と言えば、生身でもロボでもこの一本流が主流である。
各地の流派の達人を招き、稽古法や基礎技術を整理して編み出された流派。
一本流で基礎を学び各地の流派へと入門するのが、ヒノワ武士の剣術修行の流れとなっていた。
「まあ、流派の歴史などはさておき♪ それでは見せようか♪」
山神が竹刀を目の高さに上げて、刃を上に水平に構える。
「上段向風の構えですわね♪」
「姫よ、婿殿に手本を見せる! 久しぶりに打って来いっ!」
「参ります、たっ!」
「
山吹姫が、ドンと大きな音を立てて爆発的に踏み込み打ち掛かるっ!
対する山神はすっと、姫とすれ違うように進み胴を薙ぐように竹刀を振り終えていた。
「とまあ、このように突っ込んできた相手からずれて進み切り返す構えだ」
「刃で受け流してから、斬り返す技とは違うんですね」
「太郎殿の言うように受け太刀からの技もあるが、受けた刀ごと切り落とす輩もおるので野風流は下手に受けぬのだ」
「相手を受けごと断ち切る技もあるのです、なので切り払いや打ち落としと体捌きで守るのですわ♪」
山神と姫の話に、太郎は自分が見て記録したた二人の動きの映像を再生して見直す。
そして、野風流はブロックよりもパリーなどからカウンターで反撃して守るのかと学んだ。
「太郎様の持つ機械の目と言うのも、便利な機能ですわね」
「ふむ、天の神が人に与えた超技術だな」
山吹姫と山神も、超能力に属する力で太郎にアクセスして同じ映像を見ていた。
「では次の一手は、受け太刀からの返し技だ」
「旋風の太刀ですわね♪ 参りますわ!」
再度、山神が上段向風の構えを取れば山吹姫が打ち込む。
山神はその打ち込みを、竹刀で受けてからぐるりと体を回転させて切姫の胴を切ると同時に進む。
「まあ、ごらんのとおり受けから流して旋風の如く回転して切り抜ける技だ」
「包囲から切り抜ける時などに使えますわ♪」
山神の親子が解説してくれる、そして太郎は向風の構えを上段中段下段と教わる。
そして、各段での構えからの返し技を学んだのであった。
稽古の後は三人で夕食、女中さんがお膳で運んできてくれたのは、黒い鉄鍋。
「太郎殿、今宵の夕餉は我が狩って来た熊鍋だ♪ しっかり食って、英気を養ってくれ♪」
上座で豪快に笑う山神。
「ささ♪ 太郎様も、ご飯はこの位でどうぞ♪」
山吹姫が太郎の茶碗に盛り付けた飯の量は、山盛りであった。
「おお、いただきます♪」
鍋をおかずに山盛りの飯を平らげる太郎、ふと何故自分はこんなに食えるのかと思った。
すると、太郎の脳に田力籠手が自分も食っているからだと伝えて来たので納得した。
「うんうん、良い食いっぷりだ♪ 狩って来た甲斐がある物よ♪」
「太郎様が、元気にお食事を摂られて私も嬉しいですわ♪」
姫も山神も微笑みながら、てんこ盛りの飯で熊鍋を食う。
太郎は楽しい食事の時間を過ごした。
「そうだ、太郎殿♪ ニチリンオーは、手持ちの武器は軍配のみであったな?」
「はい、加護武装以外だとダイグンバイのみです」
「そうか、実はこの地には古代の宝刀が眠る山があっての共に参らぬか?」
「父上、太郎様を屋敷の裏の日見子山にお連れして良いのですね♪」
「うむ、太郎殿は我が家の婿♪ 我が亡き妻の眠る山へ皆で墓参りだ♪」
「そう言う事であれば、ご挨拶に参らせていただきます♪」
食後の会話で太郎は、ちょっとした冒険に行く事となった。
太郎は姫と共に山神に案内され山に入る、太郎が米俵で山吹姫が酒樽と供え物を担いで進む。
山の中の洞窟を進んで行くと、周囲が環状列石で出来た広大な空間があった。
「土俵にも似てる所ですね、ロボが呼べそうな位の広さだ」
「まあ土俵とも言えるのう、奥の祭壇に供え物を置いてくれ」
「ささ、まずはお祈りからですわ♪」
太郎達は太陽が描かれた祭壇の上に酒樽と米俵を供える。
「我が妻よ、姫の婿を連れてきたぞ♪ 太郎殿に日の神の加護を授けておくれ♪」
「お母様、私が見初めたお方です♪」
「軍配太郎と申します、謹んでお祈りさせていただきます」
三人が祈ると、洞窟の天井から射した日の光と共に一人の美少女の霊が降臨した。
白い貫頭衣を纏い、額には太陽を象った金の冠を被り長い髪を後ろで纏めた美少女。
「お久しぶりですねあなた♪ 山吹♪ そちらの方は、太陽の神の血を引く日輪の子ですね」
美少女が語り掛ける、彼女が山吹姫の母親らしい。
太郎は美少女の言葉に頷いた。
「なるほど、あなたとその機体ならヒミコ様の機体であるコダイオーの刀を受け継ぐ資格があります」
「ありがとうございます、仰りたい事はわかりました」
美少女の言葉から、太郎は力を見せろと悟りニチリンオーを召喚して乗り込んだ。
それと同時に、洞窟が揺れて岩で出来た鎧を纏った武者と言う風体の巨大ロボが現れた。
「姫よ、我らは見守るのみだ」
「はい、太郎様とニチリンオーなら負けません♪」
山神と山吹姫は離れて見守る。
「それでは、ヒミコ様の使徒であるイチヨが立ち合いの元にコダイオーとニチリンオーの力比べを始めます!」
イチヨの霊が叫び試合が始まる、ニチリンオーは加護武装は使用が不可能となっていた。
「ならば、スタンドファイトモード!」
太郎は機体と一体となって、ダイグンバイを手に立ち向かう。
コダイオーも、腰に差した黄金の蕨手刀を抜きぶつかり合い競り合う。
「圧が伝わる、強いな♪ ならば野風流を活かす時っ♪」
ニチリンオーが引き、ダイグンバイで向風の構えを取る。
コダイオーも、天井から差す日光を刀身に集め振り下ろすと同時に光の斬撃を飛ばして来る!
「マジかっ! だがこちらも、日輪の子だっ!」
飛んで来た光の刃を、ダイグンバイを振るい弾き返すニチリンオー。
コダイオーもニチリンオーが同じ属性だと気付いたのか、光る刀を両手で持ち突進して来る!
「古代の王よ、今の世は俺が受け継ぐ! ダイグンバイ旋風の太刀っ!」
こちらも突進して、ダイグンバイでコダイオーの一撃を受け流すと共に回転して叩き込むニチリンオー。
その一撃は、コダイオーを吹き飛ばして岩壁に叩きつけて粉砕した。
「勝負あり! 勝者、ニチリンオーッ!」
イチヨのジャッジが下り、太郎とニチリンオーは勝利を収めた。
そして、ニチリンオーの左の腰には黄金の鞘と柄を持つ蕨手刀が着けられていた。
「認めてもらえたのかな? 言った以上は頑張らないと♪」
太郎は受け継いだ蕨手刀の重さを、コックピットの中で感じていた。