第十一話:若様、清宮で猿蟹を成敗する
「太郎様、あれに見えるは霊峰富桜山ですわ♪」
「ああ、富桜はヒノワ一の山♪ と言う事は、清宮藩に入ったか♪」
「私の実家の信野の山神領とも近いですわね♪」
「そう言えば、そうでしたね♪」
ヒノワ晴れとも言うべき晴天、太郎達が見つけたのは天高くそびえる霊峰。
富桜山の名の由来は、麓の周囲がぐるりと桜で囲まれているから。
そして、二人が領内に入った清宮藩。
この地は富桜山を挟んで甲山藩と表裏、どちらが裏か表かで揉めてた仲。
山吹姫の故郷の信野とも境を接する地だ。
時の神君の裁定により藩主同士のロボット相撲の結果、甲山藩側が裏側と収まりはした。
この故事以降、両藩では相撲で交流が始まり関係は良好となったらしい。
「では、富桜山にはロボットが対決できる土俵があるのですね♪」
「ええ、まさに天覧試合だったそうです♪ ただ、金も大層かかったとか」
「太郎様が出る時は、是非オオカミニチリンオーで私も一緒に戦いますわ♪」
「姫がいてくれるなら心強いです♪」
「あら、ここのお茶はほのかな甘みが美味しいですわ♪」
「清宮と言えば、清宮茶ですからね♪」
近くの茶屋で一服しながら語らう二人、清宮藩は茶の名産地でもあった。
「そう言えば、富桜山は別名が神蔵山ともお聞きしましたが何故ですの?」
「ああ、富桜山の山頂がニチリンオー達が普段待機している異空間への入り口です♪」
太郎が姫に語る、ニチリンオー達五大分家のロボットは普段は異空間である神蔵に格納されている。
そして、富桜山の山頂にある神社の神職でもあるロボット鍛冶達が神蔵に赴き整備作業をしているのだ。
「機会があれば訪れてみたいですわ♪」
「詣でる旨を伝えて、酒や米などを用意してから行きましょう♪」
「ええ、手土産は人にも神にも大事ですわね♪」
太郎と山吹姫はそれでは、神社への手土産の酒樽などを買いに行こうと街へと向かう。
太郎の脳内ネット検索では、この先の宿場は酒の産地だ。
「姫、お背中をお借りします♪」
「ええ、喜んで♪」
金狼となった山吹姫の背に乗り、風の如く道を駆ける太郎。
宿場の入り口に着いた二人は、驚きの余り立ち止まった!
宿場町が燃えている、街が壊され人々が逃げ惑う中で争うのは十メートルサイズのロボット達。
「あれは、ダンピラ型! ヤクザの抗争か!」
「何と惨たらしい、街を破壊し民に害をなすとは任侠の風上にも置けませんわ!」
太郎達が見たのは、街が壊れるのも厭わずに赤紫色に光るビーム長ドスでの切り合いや高熱の銃弾を発射するライフルのヒートヒナワで銃撃戦をする無法者達の戦いであった。
「ヒャッハ~♪ くたばれ、猿組~っ!」
「そっちこそ、長生きし過ぎじゃ蟹組がっ!」
頭部がカニを模した赤い機体と猿を模した黒い機体が切り合う。
互いの手下達もぶつかり合い、破壊の限りを尽くすそれは地獄の猿蟹合戦であった。
「姫はコガネマルを! 来い、ニチリンオーッ!」
「コガネマル、お出でなさい!」
太郎がニチリンオーを召喚し、山吹姫がコガネマルを召喚した。
「げげっ! あれはご公儀のスーパーロボット!」
「洒落くせえ、蟹組諸共やっちまえ!」
無法者に権威は通じぬ、ならば武威と神威でくじくのみ!
「天下成敗ニチリンオー、貴様らを成敗する!」
「その郎党コガネマル、いざ参るっ!」
ニチリンオーが蟹組のロボットを、コガネマルが猿組のロボットを相手にする。
「コガネマル、スタンドファイトモード! これだから猿は、許せませんわ!」
コガネマルが狼形態から、二足歩行の獣人形態に変形し素早く動きながら手足の爪で切り捨てて行く。
「愚かな蟹どもよ、断罪の業火で焼き蟹となれっ! ニチリンブレイズ!」
ニチリンオーも怒りの叫びを上げて、ダイグンバイを扇ぎ一気に蟹組のロボット達を火柱で包み込み焼き尽くす。
かくして、猿蟹合戦はニチリンオー達により両成敗で平定された。
消火活動はニチリンオーがリュウジンニチリンオーとなり、雨を降らせて行い瓦礫の撤去はコガネマルが行なった。
「宿場が消えてしまいましたわね?」
「領主とヤクザ達の本家へ仕置きの前に民に食事を、姫は山神様への御助力をお願いします」
「わかりましたわ♪ コガネマル、実家の屋敷へお使いをお願い♪」
機体から降りて状況を確認する二人、宿場町は消えて焼け焦げた平野となった。
泣く気力もなくなり憔悴した民達を救うべく太郎は動いた。
山吹姫がコガネマルに命じると、自動で駆け抜けて行く。
すると、大きな雄叫びを上げて大量のコンテナが積まれた橇を引いてコガネマルが帰って来た。
それだけではなく、空からは安宅船が飛んできて着陸した。
「え、家の藩の安宅船も来た?」
「まあまあ、父が軍配家にもお声がけしてくれましたわ♪」
安宅船の帆には軍配家の家紋、船から降りて来たのは藩士や職人達と家老のカッパチであった。
「か、カッパチ師匠?」
「おお、若様♪ 急な事態でしたが、山神領との共同での復興支援に参りましたぞ♪」
「ご苦労様ですわ、カッパチ様♪」
「おお、貴方様が山吹姫♪ 若がお世話に、差配はカッパチめにお任せを♪」
「いえいえ、世の為夫の為ですから♪」
姫がカッパチとやり取りする中、太郎はコガネマルの元へ行くとコガネマルが頭を下げてくる。
「ありがとう、コガネマル♪」
太郎がコガネマルを撫でると嬉しそうな声を上げた。
再度太郎がニチリンオーに乗り、コガネマルの橇からコンテナを降ろして藩士達の所へと配置する。
「民達よ、神君五大分家が一つ軍配家の太郎様と山神領の山吹姫からの支援である!」
カッパチが太郎と山吹姫の功を喧伝しつつ藩士や職人達を動かし、仮設住宅の設置や物資の配給に炊き出しと作業を行っていく。
「これで、この地はまずはひと安心ですわね♪」
「ありがとうございます、姫にも義父上にも感謝しかありません♪」
「いえいえ♪ 私もこの窮状は見過ごせませんわ、後はお仕置きと清宮藩地震による復興ですわね」
「ええ、他家の治世に口出し無用とは言ってられません!」
取り敢えず民へのケアは終えたので、改めて話を聞き猿組と蟹組の本家が城下にあると知った太郎達。
「さて、清宮藩の御領主殿には断罪状を送りましたし参りましょうか♪」
「ええ、猿と蟹と悪いお殿様を退治し参りましょう♪」
太郎と山吹姫が、機体をオオカミニチリンオーに合体させて進む。
「あら? 城下町から火の手が!」
「これは、あちらの御領主への断罪状が原因だな」
「今更、放置していたヤクザ者達を自分達で仕置きして責任逃れは行けませんわね♪」
太郎達がコックピットから感知したように、清宮の城下町ではロボを用いた混戦状態であった。
「ええい,者共っ! ご公儀のニチリンオーが来る前に、猿組と蟹組を始末するのだ!」
「畜生、これまで散々甘い汁を吸っていやがった癖に!」
「こうなりゃ、役人も蟹組も皆殺しじゃ~っ!」
銃弾が飛び交い、剣戟の音が響き荒れる城下町。
家や店を壊された民達は、救いを求めて逃げ惑う。
清宮の城下町を根城にする、猿と蟹の対立する二つのヤクザ者一家。
そして、双方と癒着していた藩主側の三つ巴の争いにニチリンオーが終止符を打ちに来た。
「無辜の民には申し訳ないのですが敵が暴れてくれた為、こちらの足の踏み場が確保できましたわ」
「そうですね、民の為にも早く片付けましょう!」
オオカミニチリンオーが、清宮の城下町に辿り着く。
「うおおっ! もはやこれまでか~っ!」
「こうなりゃ、死なばもろともじゃ~っ!」
「どいつもこいつもくたばれ~っ!」
先ほどまで争っていた三組織のロボット達が、一斉にオオカミニチリンオーへと襲い掛かって来た。
「嘆かわしい、疾風一閃っ!」
オオカミニチリンオーが雄叫びを上げて、襲いかかる敵兵達を疾風の如く街を駆け抜けて爪で切り裂いた。
オオカミニチリンオーの攻撃により、一斉に咲く爆発の花。
「これにて、一件落着」
「悲しい戦いでしたわ」
戦いを終えた後は、事後処理だと太郎達が機体から降りて城へ向かう。
城主との面会となり、太郎は清宮の藩主から詫びられた。
「此度の一件、誠に申し訳ござらん」
「では、神君からのお沙汰を申し上げる! 此度の不始末により一族郎党、離島への国替えと減封を申し渡す!」
藩主自ら手向かいすると言う事はなく、太郎が読み上げた沙汰を受け入れ清宮藩主とその一族は離島へと移る事となった。
「うう、復興資金を出してもらったりしたから仕方ない事とは言え暫くとどまるしかないか」
「私達も、街を壊してしまいましたし神君様が新しい藩主の方を派遣されるまでの間ですわ♪」
悪党を退治したのは良い物の、伯父である神君に事の顛末を報告した太郎。
「ふむ、此度の一件は悪党を退治しただけでは民の救いとはならぬな」
「宿場もですし、城下町も建て直しが必要ですので新たな藩主殿の派遣もお願いいたします」
「相分かった、此度の災難は余の権限において特別復興事業を展開する」
「ありがとうございます、上様」
「ただし、藩主の人選は時間がかかる故にそなたが藩主代行として復興事業の差配をせよ♪」
その結果、神君家からの資金や物資に人材の提供をする事には成功した。
だが、代償として太郎は藩主代行として城下町の復興作業を命じられてしまったのだ。
「何と言うか俺、確実に君主の仕事を他の親戚共よりも学ばされている気がするんだが?」
「まあまあ太郎様♪ 例え神君位に就かずとも、領地を継ぐ立場なのですからこれも修行ですわ♪」
「そう言われればそうなのですが、俺達だけ旅の歩みを止められるのが悔しいです」
「私もお支えしますから、しばしの間だけ頑張りましょう♪」
「ええ、こうなったら一週間ほどで立て直して見せますよ!」
書類仕事の一休みとして、幽世屋敷の縁側で山吹姫から茶と団子を貰う太郎。
宣言通り、人材と資金をフルに活用して最低限の復興の体裁を整えて引継ぎをした。
「太郎殿、藩主代行まことにお疲れ様でした♪」
「ええ、今後はそちらで清宮藩の運営をお願いいたします」
「この金三郎に、委細合切お任せあれ♪」
「金三郎さま、大出世ですわね♪」
「拙者もまさかと驚いておりますよ♪」
太郎達が新たな藩主と引継ぎで面会をすれば、新藩主は甲山金三郎とまさかの知り合いであった。
「この地の事情に詳しい者でと会議が開かれ、我が兄が拙者を上様に推挙となり申した」
金三郎が事情を語る。
「これまで甲山と清宮は富桜山を挟んだ、喧嘩をする兄弟のような間柄でしたものね♪」
「山吹姫の仰る通りで、拙者が藩主となった事でこの地は甲山の支藩となり兄弟藩となり申した♪」
「まあ、俺達はお役御免と言う事でまた旅に出させていただきます♪」
「ええ、ご武運を♪」
こうして、太郎は山吹姫と共に一週間で復興作業をひと段落させてまた旅立つ事となった。
「ふう、旅の空が青くて気持ちが良いです♪」
「ええ、次は何処に参りましょうか♪」
「東街道を進みたい所ですが、山神領や実家にお礼の挨拶にも行かねば不義理ですし?」
「太郎様のその真面目さ、やはり君主向きですわ♪」
山吹姫にからかわれながら、太郎達は再び街道を歩き出したのであった。