第一話:若様、召喚アイテムを得る
「太郎よ、面を上げい♪」
「はい、父上♪」
上下姿で正装した家臣達が並ぶ畳敷きの城主の間。
白い着物を着た、いかにも上様と言う着物姿の髷も決まっている美中年。
相対するは土下座から頭を上げた青い長上下姿の、美中年に面影のある黒く短い総髪の少年。
「本日はそなたの元服の祝いである、よって倣いによりスーパーロボットの召喚神器を授ける♪」
「ははっ、ありがたく拝領いたしまするっ!」
父である城主、軍配春吉の言葉に喜ぶ太郎。
スーパーロボット、それは少年の憧れであった。
家臣が別室から黒い重箱を持って現れ、恭しく太郎に差し出すので太郎も作法に従い恭しく受け取る。
「ロボを用いて悪を討つは我が分家も含めてヒノワ王家の倣い、そなたが次の神君やもしれぬな♪」
「恐れ多きお言葉、痛み入ります」
太郎が重箱を受け取った上で春吉が語る。
ヒノワ国の王家は、本家も分家も跡取りがスーパーロボットで悪党を退治して回り世直をした結果で決まる。
太郎もそのレースに参加する時がやって来た。
増物の進呈が終われば、召喚の儀式だ。
軍配城を出て父と共に馬に乗り、家臣を引き連れて城下町を進み街外れの開けた土地に辿り着いた太郎達。
「ここでよかろう、太郎よそなたに授けた物を出すが良い♪」
「かしこまりました、父上♪」
父と共に馬を降りれば家臣が太郎に重箱を差し出す、それを受け取り中を開ければ黄金の軍配が入っていた。
「その黄金の軍配が、召喚の神器である♪ さあ、見せて見よ♪」
「ははっ♪ それでは、出でよニチリンオーッ!」
太郎が軍配を手に取り頭上に掲げて叫ぶ、すると空に緑青屋根の天守を持つ白壁に黒石垣の城が現れる!
「おお、あれぞニチリンオーに変化する日輪城懐かしやっ!」
「うむ、天晴である♪ 流石は、我が息子よ♪」
「ありがとうございます、それでは登城いたします!」
若き日はニチリンオーのサブパイロットだった家老が感動の叫びを上げ、春吉が太郎を褒める。
そして太郎は、空の上の日輪城の天守から放たれた牽引ビームを浴びて城に吸い込まれた。
畳敷きの天守の間のようなコックピットに吸い込まれた太郎。
いつの間にか、パイロットシートに座らされ手に持っていた黄金の軍配はシート横の壁の刀掛けにセットされた。
シートの周りに二本のレバー付きのコンソロールが展開され、眼前には外の様子がスクリーンで映し出される。
太郎が左右のレバーを握ると、掌にわずかに刺された痛みを覚える。
それと同時に機械的な音声が、太郎の頭の中に直接聞こえてきた。
遺伝子情報確認、登録承認、生機融合化プログラム注入開始。
「ううっ、体がむず痒いっ! 頭に情報が流れて来るっ!」
数十秒後、特殊なナノマシンにより生機融合体に生体を強化された太郎は瞳に映る拡張現実に従いながらコンソロールのボタンを押す。
「ニチリンオー、武者変形っ!」
太郎は叫びながら、レバーをスイッチを押しながら前倒しにする。
天守の屋根が左右にスライドし胴体から眉目秀麗のツインアイの頭部がせり上がれば、異次元から額に太陽を模した黄金の金環の装飾が付いた真紅の武者兜が被せられる。
城門が前垂れの腰鎧となり天守台部分が伸びて開き両足となり、スライドして肩アーマーとなった左右の屋根から黒石垣の籠手を嵌めた白い腕が飛び出す!
「天下成敗ニチリンオー、見参っ!」
城を鎧に纏った武者と言う姿のスーパーロボット、ニチリンオーが誕生した。
人型に変形した五十メートルのスーパーロボット、ニチリンオーが静かに衝撃波も起こさずに着地すると家臣一同から拍手が巻き起こった。
「「万歳♪ 万歳♪ ニチリンオー万歳♪ 若様、万歳♪」」
自分達のお家の代表であるニチリンオーと操縦者である太郎を讃える家臣達、こうして先代のパイロットであった春吉から当代のパイロットである太郎へとニチリンオーの継承の儀式は無事に終了したのであった。
「さて、一度降りるか? 軍配よ、来いっ!」
太郎が刀掛けの黄金軍配に手をかざして叫ぶと、黄金軍配が飛んで来て彼の手に収まる。
再び、ニチリンオーの胸からビームが放たれて太郎が地上へと降りて来た。
「お見事でしたぞ、若様~っ♪」
「うむ、見事であった♪」
「ありがとうございます父上、カッパチ師匠♪」
家臣達に拍手で迎えられながら、父と家老である河童のカッパチに礼を言う太郎。
太郎が軍配を掲げれば、ニチリンオーは天に舞い上がり異次元の格納庫へと自動で戻って行った。
「良し、この後は祝いの宴じゃ♪ 領民にも餅や酒や菓子を振舞うぞ、皆の者♪」
春吉が叫ぶと家臣達が喜びの叫びを上げた。
「差配はカッパチにお任せあれ♪」
「ああ、父上の宴好きの癖が出てしまったか♪」
「何を言う、めでたい事は祝い民や家臣達に振舞ってこそ君主よ♪」
太郎達は春吉に従い大急ぎで城へと戻り、領地総出での祝いの宴を開始したのであった。
「おおっ! でけえ城みてえなロボットが、お武家様達に先導されて通りを歩いてやがる!」
「おや、お前さん旅の人かい? あれこそ我らが軍配藩の誇り、スーパーロボットニチリンオーさ♪」
「へえ、俺の故郷の殿様も、ホクテンオー祭りをしなさるが景気が良いねえ♪」
通りの茶店で客と天守がニチリンオーの行幸を見ながら語り合う。
太郎が操縦するニチリンオーが、餅ち撒きや振る舞い酒をしながら前を歩く家臣達に先導されてゆっくりと城下町の大通りを練り歩く。
「軍配藩の若殿様、軍配太郎様のニチリンオー継承の祝いの祭りである♪ 子には菓子を大人は餅と酒を受け取れい♪」
家臣が叫べば町人達が群がり喜んで餅や菓子を受け取り、道を開けて太郎を讃える。
「街の人達が喜んでる、殿様の家に生まれ変わったと知った時は驚いたが良い所に生まれて来れたぜ♪」
ニチリンオーの中で太郎が呟く、前世の彼は地球で暮らしていたスーパーロボット好きな高校生の少年であった。
だが、太郎が物思いに耽るゆとりはなかった!
太郎の瞳に、巨大モンスター出現と拡張現実の情報が浮かび上がる。
「サーチ開始、三時の方向は山か!」
家臣達も立ち止まり、ニチリンオーが顔を向けた方角を見て驚く。
「ややっ! あの穴は、巨大モンスター出現か?」
「案ずるな、若様がおられる!」
「そうだ、相手の方から若様の初陣に首を奉げに来たのだ♪」
家臣達が機体の目でニチリンオーを見上げる。
「皆の者! ニチリンオー、出陣するっ!」
太郎が外部に叫ぶと、万雷の拍手が起こり家臣や領民の拍手に見送られながらニチリンオーは飛び立った。
空に空いたブラックホールから山間に落ちて来た、巨大なガマガエルに似た怪物。
その前に、こちらも空からニチリンオーが降り立った。
ニチリンオーの後を追うように、軍配藩の所有する空飛ぶ安宅船が大筒のようなカメラを出して撮影を開始する。
ガマの怪物は大口を開けて、舌を伸ばして攻撃して来た!
「良し、先に手を出して来たな♪ ていっ!」
太郎が操作して右腕を繰り出し、敵の舌を敢えて右腕に絡みつかせる。
「放熱開始、ソーラーアームッ!」
ニチリンオーの右腕が太郎の叫びと共に、マグマのように赤熱化して怪物の舌を焼き切る!
舌を破損し、苦悶の叫びを上げてひっくり帰る怪物がゴロゴロと左右に転がる。
「悪いな、せめてこれ以上苦しまぬように葬ってやる! ダイグンバイ!」
太郎が叫ぶと、黄金の軍配が彼の手に飛んで来た。
そして、ニチリンオーのコックピット内部が変形し太郎が軍配を両手に持って立ち上がった!
「行くぜ、スタンディングファイト!」
太郎が叫ぶと、モーショントレース開始と機械音が流れる。
コックピットの外でも、ニチリンオーが虚空から出現した巨大な黄金の軍配を両手に持った。
「日輪よ、大地を燃やせ! 必殺、ニチリンブレイズ!」
太郎の叫びと共に、ニチリンオーが巨大軍配を頭上に掲げて円を描けば地面に倒れた怪物の周囲に火の輪が生まれる。
そしてニチリンオーが、軍配を振り下ろせば火の輪の炎が巨大な火柱となり怪物を包んで燃え上がった!
「これにて、一件落着っ!」
太郎が叫び、ニチリンオーが刀の血振りの如く軍配を振って仰ぎ炎を消せば跡には巨大怪物の丸焼きが残ったのであった。
この一戦の模様は、城下町に作られた特設スクリーンで公開されて領民や旅人達を賑わせた。
「太郎、でかしたぞ♪」
特設スクリーンではなく、天守の間のモニターでニチリンオーの戦いを見ていた春吉は微笑むのであった。
「巨大怪物よ、山の獣達の糧となって成仏してくれ」
戦闘を終えて再び元のシート状のコックピットに戻ると太郎は座り、両手を合わせた。
「改めて、全然で見ていたアニメと実際に自分でロボットを動かすのって違うな」
ナノマシンによる生機融合での生体強化にスーパーロボットの脅威の武装と、とんでもないチートを得てしまった太郎。
「この世界、他にもこんなロボットで悪党退治とかして暴れてる奴らがいるんだよな? 力の使い方は気を付けねえとヤバい」
太郎は、ニチリンオーの力を自分の正義や家族や周囲の人達に恥じない使い方をせねばと心に決めた。
権力も財力も武力も、ロクな使い方をしない奴らが世の中や他人様にとんでもない事をして来たのは前世で見て来た。
「こいつが祭りの山車程度の使い道になる平和な世の中とか、目指さないと不味いかな?」
前世の記憶からの知識と、現世で受けてきたこの世界の武家の教育を頭の中で思い比べる。
憧れて手にした力の今後の使い方などに憂いつつ、太郎はニチリンオーを飛ばし城下町の祭りへと戻るのであった。
祭りが終わり人々の気持ちも落ち着いて来た頃、城内の屋敷の私室にて太郎は家老のカッパチを迎えていた。
「若様、先日の戦いはお見事でした♪」
「師匠が鍛えてくれたのと、ニチリンオーのお陰だよ♪」
「殿と同じお考えですなあ♪ 明日はいよいよ、ご出立との事で此方の品々をお持ちいたしました」
「えっと、大小の太刀に背中と胸に当家の金地の家紋紋入りの白い陣羽織に家紋付きの印籠?」
「はい、殿からの贈り物です♪ 若様達は身分を隠す事は禁じられております故に、悪目立ちはご容赦を」
「ああ、三代前の神君様が正体を隠して悪党退治を行った事が却って世を乱したんだっけ?」
「ええ、国の代表であるスーパーロボットの乗り手は常に威風堂々たれとの民意からの掟でございます」
「まあ、仕方ないよな武家は民意に寄り添えだし♪ ありがとう、師匠♪」
「いえいえ、ご武運を♪」
家老であり、武芸や学問の師であるカッパチに礼を言う太郎。
ロボに初期装備にと、旅立ちの時は近づいていた。