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「失礼ですが、ルトガー様に婚約者はおられますか?」
「いえ、まだおりませんわ。」
「カイ様にご兄弟かご姉妹は?」
「13才になる妹がおります。」
「その方とルトガー様に面識はございますか?」
「ルトガーが家に来た時にはよく一緒に遊びました。
もう1人の兄上だと言ってよく懐いていましたが
最近ではルトガーが来ると部屋に籠ってしまう有様で…」
「「おやおや?」」
女二人だけが訳知り顔で頷きあった。
「ええっと、ではこうしましょうか。
まず、カイ様の妹御にルトガー様のお見舞いに来て頂くということからご婚約に進めていただくと。
あ、私、こちらへはブリギッテ様のお茶会から来たのです。
会場の庭園でご挨拶をしていた時に叫び声が聴こえてきまして。
他の参加者の皆さんも気にされているようでした。」
すっかり娘主催のお茶会のことを失念していた伯爵夫人が青褪めた。
「ブリギッテ様のことなので上手くお断りを入れてお開きにされたかと思いますが、
そのままにしておくわけには参りませんでしょう?
ですのでルトガー様がお倒れになったことは公表しなければなりません。
しかしそれだけでは結果的にお茶会を失敗させてしまったブリギッテ様の失態で終わってしまいます。
そこでルトガー様を密かにお慕いしていたカイ様の妹御が駆けつけて…というロマンスに上書きしてしまえばよろしいでしょう。」
「しかし妹がルトガーを慕っているなんて…」
「「そこは大丈夫」」
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結果的にはシャルロッテの裁定ですべてが丸く収まった。
邸に戻ったシャルロッテは両親に事後報告をした。
その後の諸調整は父が引き継ぎ、母は名家同士のラブロマンスを社交場でイイ感じに話した。
社交界で話題のロマンスの始まりの現場に居合わせた(ことになっている)お茶会の参加者たちは鼻高々で自慢した。
カイは帰宅後にルトガーが倒れたことを告げた途端、泣きながらメスナー邸に馬車をとばさせた妹に本気で驚いたらしい。
やはり男というやつは鈍いものである。
シャルロッテは8代前のお祖父様の遺した仕事を完了させた満足感に浸りつつ、
リュートを奏で、か細い声で歌う。
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真実の愛というけれど
他人には身勝手な我儘と見分けがつかないのよ
永遠の友情というけれど
互いに縛りあうことと何が違うのかしら
時は流れ記憶も移ろいゆく
白が黒となり黒が白となる
貴方はどちらがお好みかしら
貴方はどちらがお好みかしら
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