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2-2

シャルロッテが使用人に連れられ、応接室に着くと中には床に倒れた騎士がいてその脇には(さや)に入ったままの剣が落ちていた。

ソファには頭を抱えたもう1人の騎士、倒れた騎士に取り(すが)って泣き(わめ)く貴婦人、彼らの周りで右往左往する使用人たち。

シャルロッテは「失礼します」と一言断って倒れた騎士に近寄り観察した。

顔は赤黒く腫れ上がっていて人相は分からないが取り縋った貴婦人が「ルトガー!」と呼びかけていたためメスナー伯爵家の嫡男であることが分かった。

であればこの貴婦人はメスナー伯爵夫人。

ルトガー・メスナーの呼吸の微かなことを見てとったシャルロッテは声を張った。


「そこのあなた、ルトガー様をそのソファにお寝かせし、

頭を下げるようにクッションで身体を持ち上げるようになさい!

息が出来なくて苦しんでいらっしゃいます。」

「は、はい!」


ガタイの大きな使用人に指示を飛ばすと一同がテキパキと動き出した。


「誰か医者を呼んで!メスナー伯爵夫人、落ち着いて下さい。」


泣いている伯爵夫人を抱き起こして正体不明の騎士とは別のソファに座らせた。


「申し遅れました。私はホルム伯爵家長女シャルロッテと申します。

ルトガー様はきっと回復されます。お気を確かに持たれてください。」

「シャルロッテ様、お見苦しいところをお見せしました。

突然のことに気が動転してしまい取り乱してしまいました。

私がシッカリしなければならなかったのに代わりに差配(さはい)いただき助かりました。

ありがとうございます。」

「この状況がどのようなことかお聞かせ願えますか?」


伯爵夫人は少しの逡巡(しゅんじゅん)の後、(うなず)いた。

ホルム伯爵家の立ち位置を思い出し、悪いことにはならないことに思い至ったのだろう。


「ルトガーとこちらのカイ・ヒンメル様は子供の頃からの友人でして互いの家を行き来する仲でございます。」


(カイ・ヒンメル!)

シャルロッテは目を見開いた。

英雄の片割れであるユリアン・ヒンメルの(すえ)であった。


「カイ様が先日、バーデン子爵家のカミラ嬢とご婚約されたそうでルトガーがお祝いしたいとお招きしたのでございます。」


バーデン子爵家は確かヒンメル伯爵家の分家なので政略結婚としては順当なものだろう。


「カミラ嬢も幼い頃から2人とよく遊び、幼馴染(おさななじみ)でしたからルトガーも喜んでいました。」


(これは…)

シャルロッテは閃めくものがあったが黙って聞いていた。


「親友の慶事を祝うということで侍従も控えさせてサシで飲むのだといって2人でこの部屋にいたようですがカイ様が少しの間、席を外して戻ってきたら先程の状況であったと。

ルトガーひとりが誰かに激しく殴られたようで…」


伯爵夫人は明らかに非難のこもった眼差しで頭を抱えたままのカイを睨みつけていた。


「メスナー伯爵夫人、ルトガー様は殴られたのではありません。

こちらをご覧ください。」


シャルロッテは使用人が世話をしているソファに横たわって今は落ち着いた呼吸をしているルトガーの手元を示した。

ルトガーの手の甲には赤黒い斑点が見えていた。


「まあ!これはいったい…」

「たぶんアレルギー反応かと。

そちらの剣を(あらた)めさせていただいてよろしいですか?」


カイがピクリと反応したが、伯爵夫人はそれには気づかず「どうぞ」と許可した。

シャルロッテは剣の柄を熱心に眺めて匂いを嗅いだりもした。


「たぶん分かりました。

ルトガー様はピーナッツのアレルギーをお持ちですね?」

「なぜそれを…はい、料理に少しでもピーナッツが入っていると体が痒くなるのだと子供の頃から。

我が家では持ち込まないように使用人には徹底して教育しておりますが…」

「この剣はカイ様のものでしょう。

この柄の部分にピーナッツ・バターが塗られているようです。

ルトガー様はこれに触れてしまったのだと思われます。」

「カイ様の剣の柄に…ピーナッツ・バターが塗られていて、それをルトガーが触れたと?

申し訳ありませんが理解が…」


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