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2-1

シャルロッテは社交好きというわけでもないが招待はなるべく断らない主義だ。

それは事件を期待してというのも確かにあるのだが、女同士の言葉の殴りあいを見るのが好きなのだった。

バカな男どもと比べたら狡猾(こうかつ)で陰湿な女同士の争いは遥かに見応えがある。


シャルロッテは高位貴族の家柄に有り余るほどの資産、美しい容貌と頭の回転の速さ等、

貴族令嬢たちの反感を買うには十分な素養を持つが実際にはそうはならなかった。

それは玉に瑕(たまにきず)の毒舌で自らバカな男どもを遠ざけていることだけではない。

宮中伯家という特殊な家柄のためだ。

隠れもなき王家の犬であり国庫に匹敵する莫大な資産家でもある。

さらに貴族家間の調停者という絶対中立の立場があるので政略結婚は出来ないのだ。

貴族で政略結婚が出来ないというのは非常に特殊な立場であるので逆に相手が限られる。

同じ宮中伯家か王家あるいは公爵家。

ところが王家公爵家こそ政略結婚が当然で、それも国政に関わる政治的決断となる。

しかもひとり娘であるシャルロッテは婿を迎える立場である。

つまり現実的には他の宮中伯家の嫡男(ちゃくなん)以外かあるいは優秀な平民出身の文官に相手が限定されてしまっているのだ。


ということで女に敵はいない状態なのである。

面白い出し物を観に行く感覚で今日もお茶会に参加していた。


---


お茶会を主催しているメスナー伯爵家は英雄を輩出した家系として有名である。

200年前に当時()を唱えた隣国との分の悪い戦争を勝利へと導いた2人のうちの1人が若き騎士のカスパル・メスナーだった。

カスパルは親友である同期の騎士ユリアン・ヒンメルとともに華々しく討死(うちじに)したがその(いさおし)は今もなお騎士たちの心を熱くする。

当時の国王は武人王と呼ばれる人で自ら戦場に出て兵を鼓舞(こぶ)していたが戦況は刻一刻と悪くなっていた。

最初から兵力差が圧倒的であったのだ。

ジリ貧な状況に国王含む指揮官たちが頭を抱えていた司令部に騎士ユリアンがある奇策を奏上してきた。

王国軍は起死回生をかけたその大勝負にうって出ることにした。


国王が少数の手勢を引き連れて最前線に来て兵を激励するという情報をわざと敵に流した。

敵はまんまと策にハマり大軍勢で攻めてきたので尻に帆かけて逃げ出すように前線の内側へと誘導する。

敵軍を自陣深くに用意した屠殺場に(おびき)き寄せるために国王を囮に使うというのだ。

その国王を護る囮部隊の殿(しんがり)にユリアンとカスパルは志願した。

あと少しで手が届くーそんなギリギリの距離感を保って誘導する。

丘の上の狭い切り通しを囮部隊が抜けた後、殿の2人だけがあとに残り、馬を降りて敵軍勢と相対した。

この切り通しの先の急峻(きゅうしゅん)な崖に囲まれた袋小路の谷間が殺戮(さつりく)の舞台として用意されていた。

敵軍がすべて切り通しを抜けると、後方からの別働隊がこれを塞いで逃げ道を塞ぐ手筈(てはず)である。

成否は策を気取られぬように死に物狂いの撤退戦を演じられるかにかっていたのだ。

切り通しを塞ぐように横に並び、丘を駆け上がって来る騎馬を強弓で狙い撃ちして倒し障害を築き、重ねて槍兵(そうへい)を狙い撃ちしてから弓を捨て剣を抜き放って群がる敵兵を切り捨てていった。

死地に立った2人は一歩も引かずに勇猛果敢(ゆうもうかかん)に戦い抜き敵兵200人を(たお)した末に立ったまま死んでいたという。

阿吽(あうん)の立ち往生とも呼ばれる偉業であった。


---


まだお茶会の序盤である。

会場の庭園に到着して主催者の令嬢ブリギッテに挨拶している時だった。


「キャー!」


邸の本館から怒号と悲鳴が響き渡った。

ブリギッテは落ち着いたもので侍従に状況を確認してくるように指示していた。

そこにシャルロッテは「よろしいですか」と有無を言わさず便乗してついていった。

非常に無作法ではあったが高位でもあり彼女の特殊な性格はよく知られていたのでブリギッテは苦笑するしかなかった。

侍従は本館入り口にいた使用人に説明を受けて戻っていったがシャルロッテは現場へと案内させた。

使用人は令嬢に許可をとったという貴族に逆らうことは出来なかった。

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