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一通り説明を受けたシャルロッテはゲルタに尋ねた。
「ゲルタ、あなたが夜会の準備を始めたのはお庭に出た後かしら?」
ゲルタは一瞬、驚いた様子だったがすぐに普段の無表情に戻った。
「失礼、私がお庭に出たとは?」
「私、昼食後はダンスレッスンでボールルームに居たのよ。
そこで珍しくひとりでお庭に出ていらした貴女を見たの。」
ボールルームは舞踏会用の部屋でテラスからそのまま庭園に繋がる構造となっている。
「ああ、そうでした。今夜の奥さまの装いに生花をあしらおうと思いたちましてお庭に出たのでした。」
「なるほどね。あ、ご実家のご領地の水害は気の毒だったわね。
新聞でベーム男爵家の名前を見て驚いたわ。」
「い、痛みいります…」
ゲルタの顔色が変わってきた。
「で、お庭で厩番の息子に渡していた封筒にルビーの首飾りが入っていたのではなくて?
ベーム男爵家に言付けたのでしょ?
気位の高い貴女が自ら使用人のところまで出向くなんて有り得ないじゃない。
秘密の用向きでない限りはね。」
「シャル、そこまででいいわ。
ゲルタ、何か私に話すことがあるのではなくて?」
「奥さまお嬢さま、申し訳ありません。
取り返しのつかないことをしてしまいました…」
ゲルタはガックリと項垂れていた。
「ゲルタ、その子にも謝罪しなければ。
平民だからといって罪をなすりつけて許されるものではありませんよ。」
「怖がらせてごめんなさい。
後から埋め合わせをするつもりでしたが身勝手過ぎました。」
「…」
クロエは震えが収まらないままどうしていいか分からず頷くだけだった。
「ゲルタ、なんで私に相談してくれなかったの?
あんな趣味の悪い首飾りなんて要らなかったのに。
貴女の方が大切だったのに…悲しいわ。」
「ッ!ダグマーお嬢さま、申し訳ありません!
本当に出来心で…実家の苦境を知ってからどうしていいのか分からなくなってしまったんです。
あの首飾りはお嬢さまがお嫌いになっていらっしゃったので…
まさかその日のうちにご用命になるとは…天罰でございますね。」
伯爵夫人は口惜しさに侍女は後悔に暮れて、それぞれの涙を流した。
ルビーの首飾りはそのままゲルタに下げ渡したことにしたが、全てを無かったことには出来ないということでゲルタは復興支援込みで多めの退職金を与えられて実家に戻された。
その後、誇り高いゲルタは行いを恥じて自ら修道院に入ったということだ。
助けられたメイドのクロエはシャルロッテの役に立ちたいと一念発起し、侍女になるための勉強を寝る間を惜しんで続け2年後にシャルロッテの侍女として取り立ててもらった。
宮中伯家というのはお役目上、他の貴族家の人間を雇いづらいため、意欲があれば平民の使用人でも学ばせることに積極的なのだ。