そして県大会
コンクール県大会の本番です。いつも通りに丁寧に歌おうね!
いよいよ県大会当日。
県大会へ向かうというのに、M市立C中学校の子供たちは、まるで遠足に向かうように、最寄り駅のプラットフォームに立っていました。誰かが今日歌う課題曲をつぶやき始めると、ひとり、二人、三人と、各パートの仲間が寄ってきて、結局ほとんど全員で最後まで歌ってしまいました。田舎の駅のプラットフォームでよかった。ほかのお客さんは、ほとんどいませんでしたし。プラットフォームの簡易的な屋根や壁に反響して、音楽室で歌うよりも声が響いて、気持ちがよかったし、天気もいいし。
音楽コンクール県大会の会場は、県庁所在地であるM市中心部にある地区予選の時と同じ会場でした。
まったく同じ会場で、同じホールで、でも、座席の場所はあの時とちょっと違って、だから何ってことなのですが、エイコは、地区予選の時のちょっとおんぼろの座席がよかったなあ・・と、いまさらなゲン担ぎをしたいような気分になりました。あのとき、エイコがすわった席だけ、なぜか、座面がかしいでいて、でも、それだったからこそ、ま、こんなものかって、冷めた気持ちになって冷静に平常心で歌えたような気がしたのです。そうこうするうちに、C中学の歌う順番が近づいてきて、みんなで、観客席からロビーに出て、舞台袖へ続く暗い廊下のほうへ向かっていきました。
地区予選の時よりも、さらに上手に歌いたい。あ、でも、地区予選の時と同じに歌えればそれでも十分イケてるはず?何も考えずに、何とかいつも通りの力を発揮したいと、エイコだけではなく、みんな思っていました。
ケイ先生は?と、前のほうにいる先生をうかがうと、先生は一生懸命笑顔を作って、みんなをリラックスさせようとしていました。
しかし、一生懸命・・・て、中1のエイコにリキみが見破られてたってことですよね。いいえ、先生の笑顔に罪はありません。エイコの心が焦っていたから、先生の笑顔が不自然に見えたのかもしれません。
本番、エイコはいつも通りに、両足を踏ん張り、見た目が変顔になっても気にしないで、顔いっぱいに口を動かして、少しでも活舌をはっきりして・・・と、何とか丁寧に歌おうと…歌っているつもりでしたが、ケイ先生の顔色が若干焦りを帯びているような気がした瞬間から、坂道を転げ始めるときのように、みんなの歌う速度が、若干スピードアップし始めて・・・、ああ、早すぎる、落ち着いて、でも、早くなりそう・・・どうするの?高音部が伸びていない・・・誰のせいでもない・・・言葉が・・・客席まで届かない。同じ曲を同じメンバーで歌っているのに、地区予選の時のような伸びがない…あきらめずに少しでも丁寧に歌いつつも。そんなことを、頭の中で、考えてしまっている時点で、集中できてないってことだけど・・・。なんとか、無事に歌い切った・・・。とにかく、歌い切りました。
エイコの心の中は、焦り気味?実力を発揮できたかどうかは・・・?