2.ストーカー
警視庁へ登庁中の京子。
男性が地面を這いつくばっている。
不審に思った京子が男性に訊く。
「なにをされてるんですか?」
「コンタクトを落としたんです。ああ、動かないで」
「探しますよ」
京子が男性と一緒にコンタクトレンズを探す。
「あ!」
京子がレンズを見つけて拾った。
「これじゃないですか?」
「ああ、それです! どうもありがとう!」
京子は男性にレンズを渡した。
「俺、稲垣 裕也。お礼がしたいからよかったら連絡先を」
「こういうものです。連絡はこちらに」
京子は名刺を渡した。
「警察官なんですか?」
「はい」
「あ、僕はこういうものです」
裕也が名刺を渡す。
東京地検の検察官検事だ。
「検察の方なんですね」
「ええ」
「じゃあ一緒に仕事することもあるかもしれませんね」
「そうですね」
「では」
京子は裕也と別れ、警視庁へ向かう。
「おはようございます」
捜査一課に入る。
「おはようございます、坂上さん」
と、茂が挨拶をする。
京子は席に着くと、書類整理や資料作成をする。
そうして時間だけが過ぎていき、お昼休憩を取ろうとした刹那、一課の電話が事件発生を告げる。
京子と茂は現場である渋谷区のマンションに臨場した。
遺体はマンション五階の五〇二号室で発見された。
第一発見者は郵便配達員で、この部屋に配達しに来た際に、新聞受に新聞が貯まっているのを不審に思い、中の様子を確認したら、遺体を見つけたとのことだ。
遺体は死後一週間ほどと見られ、リビングで首を吊った状態で見つかった。
現場を観察した京子は、遺体の傍に踏み台に使った椅子などがないことから、殺人事件と断定した。
降ろされた遺体を見ると、首元に吉川線という、絞められた時の抵抗でできる痕跡が残っていたことから、更に他殺がより濃厚になった。
被害者の名は小此木 由美。二十歳で無職の女性だ。
捜査員のある男性が呼び出された。
その男性は、京子が登庁中に会った検察官の裕也だった。
警察の捜査で、被害者が裕也と交際中の恋人であることがわかっている。
「稲垣さんの部屋でしたか」
「まさかこんな形であなたと会うなんて思ってなかったよ。ホシ、速く見つけて下さいね」
「尽力します」
茂が口を開く。
「知り合いですか?」
「今朝、登庁中にちょっとね」
京子は咳払いをすると、裕也に訊ねた。
「彼女の姿を最後に見たのはいつですか?」
「先週の月曜日だったかと」
「どんな話をされたんですか?」
「他愛もない話ですよ。内容は覚えてないです」
「稲垣さん、被害者に恨みを持つ人物に心当たりはありますか?」
「由美はとてもいい子ですよ。人に恨まれることなんてないです」
「そうですか。ありがとうございます。あと、形式なんですが、被害者の亡くなった時刻は先週の火曜の夕方であると推定されるのですが、その時、あなたはどこでなにを?」
「地検で残業をしてました。事務官も一緒だったので聞いてみて下さい」
「わかりました」
後の裕也の証言の裏付けでそれは証明された。
「では、僕は仕事に戻ります。明日、裁判なので準備をしないと」
裕也はそういうと、現場を出て行った。
京子と茂は守衛室で防犯カメラの映像を確認した。
一週間前の火曜日の動画で、私服姿の郵便配達員が映っているのを発見した。
「小山さん、郵便局行きませんか?」
「僕もそう思ってたところだよ」
京子と茂は郵便局を訪ねた。
人事部で配達員の姿が写っている写真を確認してもらう。
「この方の名前は?」
「茂木 徹さんですね。この方がなにか?」
「茂木さんの女性関係とかってわかりますか?」
「いえ、私は把握しておりませんが」
「そうですか」
京子と茂は小此木と茂木の接点を洗うことにした。
小此木の友達だという、山崎 恵子に話を聞いた。
「由美の最近の様子ですか?」
「ええ、どんな些細なことでも構いません」
「そうですね。あ! そうだ!」
「なにか?」
「由美、ストーカーに悩まされてたみたいなのよ」
「ストーカー、ですか」
「誰かはわかんないんだけど、毎日のように手紙が届けられるの。ほんと、気持ち悪いって言ってたわ」
「どうもありがとう」
京子と茂は山崎の部屋を後にする。
「小此木さん、ストーカーに殺されたってことですかね」
「そうですねえ……」
「所轄に行ってみます?」
「生安ならなにかあるかもですね」
京子と茂は渋谷警察署の生活安全課を訪ねた。
「小此木さんのストーカー事案の相談ですか。少々お待ち下さい」
職員が小此木の相談内容を確認する。
「確かに小此木さんは相談に来られてますね」
「その件で捜査とかは?」
「一応、犯人を調べて、警告は出しましたが……」
「その犯人というのは、この方ですか?」
配達員の写真を見せた。
「ええ、そうです、この方です」
「茂木さん、ですね?」
「はい。もしかして?」
「小此木さんは殺されました」
「そうなんですね」
「ええ」
「警告が仇になったってことですね」
京子と茂は茂木と落ち合った。
「まだ何かあるんですか?」
「あなたのこと、調べさせていただきました。あなた、小此木さんにストーカーをしてましたね?」
「そんなことしてねえよ」
「渋谷署で警告を出したと確認が取れました」
「ツッ!」
と、舌打ちをする茂木。
「小此木さんを殺害したのは、茂木さん、あなたですね?」
「あいつ、俺の愛を受け入れなかった。それどころか、顔も見たくないだとよ」
「署までご同行願えますか?」
京子と茂は署まで茂木を連行した。
取調で茂木は犯行を自認し、送検された。
京子は東京地検の裕也に、事件解決の報せを入れるのだった。