1.初めての事件
警視庁本部。
京子は登庁する。
(えっとー……)
どこへ行けばいいかわからず、オロオロする京子の元に、受付職員が声をかける。
「どちらにご用でしょうか?」
「ああ」
京子は警察手帳を取り出した。
「本日付で本部に配属になったのですけど、どこへ行ったらいいんですかね?」
「ご確認しますね」
職員がデータベースを確認する。
「坂上さんは捜査一課ですね。九階になります」
「九階ですね?」
「はい。あちらにエレベータがあるので、それをお使い下さい」
「ありがとうございます」
京子はエレベータへと向かう。
ボタンを押し、扉を開けて乗り、九階で降りた。
「えーと?」
京子は辺りを見渡し、捜査一課を探す。
「あった」
捜査一課へと入る京子。
「お、新入りか?」
課長が声をかけてくる。
「俺は一課長の荻窪だ。あんた、名は?」
「坂上 京子です。よろしくお願いします」
「坂上 京子? ということは、義骸が購入されたのか」
「やっぱり周知なんですね」
「当然だろ。警察庁が作ってるんだから。とりあえず、空いてる席にでも座ってくれ」
京子は何も荷物が置かれていない席に座る。
「君が噂の義骸さん?」
「え?」
横を振り返る京子。
そこには、若い男性の姿があった。
「ええ、まあ」
「あ……僕は小山 茂。巡査部長だよ」
京子は警察手帳を取り出した。
階級は巡査だ。
「巡査なんだね」
「ええ」
その時、室内の電話が鳴る。
「はい、捜査一課」
と、一課長が応答する。
「なに? ああ、わかった」
受話器を置く。
「坂上と小山、日比谷公園で殺しだ。急行してくれ」
「はい!」
「わかりました!」
京子と茂は日比谷公園へと急いだ。
事件現場は日比谷公園の駐車場。
警備員の話では、昨晩の見回りでは何もなかったが、今朝方に確認したら、遺体を発見したとのことだ。
鑑識によると、死亡推定時刻は午前一時前後ということだ。
被害者は秋山 隆、三十五歳。四葉建設の社員。死因は後頭部打撲によるものだ。
(資材部の秋山さん?)
一通り現場を捜索し、聞き込みを行う京子と茂だが、有力な手掛かりは得られなかった。
「あれに何か映ってませんか?」
京子は現場周辺を捉えている防犯カメラに気づく。
二人は警備員に防犯カメラについて聞いた。
「今日未明の映像ですね?」
警備員が防犯カメラの映像を守衛室で流した。
目出し帽を被った怪しい人物が、被害者の後を追いかけるところが映っている。
「こいつが犯人なんでしょうか?」
「僕もそう思う」
「交友関係、洗いますか」
「そうだな」
四葉建設の資材部に向かう京子と茂。
資材部の責任者の男が対応する。
「秋山さんのことでお聞きしたいことがあります」
「秋山? そういえば出勤してないけど、何かやったんですか?」
「本日未明に何者かに殺害されまして、それで話を聞いて回ってるんです」
「殺されたんですか?」
「ええ。それで、あなた今日の午前一時ごろはどちらに?」
「寝てました。なにぶん、一人暮らしなので証明はできませんが」
「そうですか。秋山さんが誰かに恨まれるようなことはありますか?」
「あいつをぶん殴るほど恨みを抱えてるやつなんていないと思います」
(あれ……?)
違和感を覚える京子。
「そうですか。どうもありがとうございました」
京子はそう言うと椅子から立ち上がった。
その時、男の右手がプルプル震えているのを京子は見逃さなかった。
茂も立ち上がり、京子と共に休憩スペースを出ていく。
「坂上さんのデビューだと思ってたから黙ってたけど、どうして任同かけなかったんですか?」
任同=任意同行のことである。
「任同? 証拠がないじゃないですか。彼は現場にいました。しかし、それが犯人としてなのか、はたまた目撃者としてなのか。そこをはっきりしないとね」
京子は聡の時に勤めていた部署に立ち寄る。
「ここは?」
「総務課ですね」
中に入る京子。
「ここは関係……って、坂上さん?」
「誰だ?」
課長がそう言ってこちらに接近する。
京子は警察手帳を取り出した。
「警察?」
「竹山 聡さんのことでお話ししたいことがありまして」
「それ誰え?」
と、茂は疑問符を浮かべた。
「ああ、ひょっとして、横領を調べてる刑事さん?」
(横領? 俺はそんなことしてないぞ)
「解雇されたとのことですが……」
「ええ。当然ですよ。会社の金に手を出したんですから」
「ですが、竹山さんはやってないと仰ってました」
「どうだか。そのことで秋山にも問われたけどさ」
「秋山さん、亡くなりましたよ」
「え?」
「本日午前一時ごろ、日比谷公園で殺害されたんです」
「ええ? 殺された!? あの温厚な秋山が!?」
「はい」
「そういえば、秋山、真犯人に会うって……。まさか、真犯人って?」
「業務上横領を行なった真犯人ってことでしょうね」
「そ、それじゃあ、そいつに殺されたんですか?」
「それはわかりません」
「ちなみに、横領の噂の出どころは?」
「資材部長の小暮 永さん」
先ほど話した相手である。
「その情報が元で竹山さんが解雇されたんですね?」
「ええ。詳細は分かりかねますので、調査部の黒岩さんに聞いて下さい」
「ありがとうございます」
総務課を出る京子と茂。
調査部へ辿り着く京子と茂。
「坂上さん、僕たちは殺人の捜査をしてるんだよね? 横領は二課の仕事なんじゃ?」
「繋がってるからですよ」
「何が?」
「横領と殺人」
京子は調査部室に入る。
「どちら様?」
「黒岩さんはいらっしゃいますか?」
「黒岩は私ですけど……」
女性がやってくる。
京子が警察手帳を提示した。
「資材部の秋山 隆さんはご存知でしょうか?」
「秋山さんですか? 彼は調査部の特命調査員ですけど、それがなにか?」
「先ほど、日比谷公園で遺体で発見されました」
「え!?」
「我々はその事件と竹山 聡さんの横領の件、繋がってるのではと考えています。秋山さん、何か言ってませんでした?」
「そういえば、真犯人を説得するって」
「というと?」
「秋山さんが横領を調査していると、資材部の小暮さんが浮上したんです」
「小暮さんが?」
「ええ。それで、秋山さんが弁護士を通して、小暮さんの口座を調べたら、被害額と同じ金額が入金されていたそうなんです。それで、昨日、仕事が終わってから小暮さんと会う約束をしたんですけど。まさか、秋山さん、小暮さんに?」
「恐らくは」
黒岩は怒りで拳を握りしめた。
「どうもありがとうございます」
京子と茂は調査部を出ると、小暮を屋上に呼び出した。
「刑事さん、こんなところに呼び出して何を? 僕も忙しいんですけどね」
「竹山さんの横領の件はご存知ですね?」
「ええ、まあ……」
「その事件と秋山さん殺害事件、繋がってると考えて調べてみました」
「どういうことですか?」
「ことの発端は会社の金が横領されたことでした。真犯人によって竹山さんが濡れ衣を着せられ、解雇された……。そして、秋山さんが調査を続けたところ、真犯人が浮上し、その口座に不正な金の流れがあったのも判明しました」
「ほう……」
「秋山さんは事件当夜、真犯人と会う約束をし、遺体発見現場である日比谷公園の駐車場にて、撲殺されたのです」
「犯人は誰なんですか?」
「この状況で察せませんか? 私はあなたが犯人であると言ってるのですよ、小暮さん?」
「僕が秋山を殺すわけ。第一、僕がやったなんて証拠?」
「あなた、先ほどお話ししたとき、秋山さんが殴られたって知ってましたよね?」
「え?」
「あの時、我々は撲殺されたことは、一切口にしてないんですよ。なのに撲殺を知っていた。これをどう説明するんんですか?」
「え? み、見たんですよ」
「現場の防犯カメラにあなたの姿は確認できませんでした。あなたは目出し帽を被って秋山さんを襲ったんですね?」
「凶器は? スパナ……あ!?」
「スパナで殴ったんですね?」
小暮はその場に崩れた。
「そうだ。僕がやったんだ。あいつが横領の事実を掴んで、警察に言うって……。だから、だから……」
「世の中に殺されていい人間はいません。あなたは自ら犯した罪を隠すため、未来ある若者の人生を奪ったんですよ」
警察官が集まってくる。
「あとは署の方で」
小暮は警官隊によって署まで連行された。
京子と茂は四葉建設を後にする。